番外篇 四月之魚

 空軍を退役して起業することにしたわけだが、集めた社員を見て気がついた。

 平均年齢が高すぎる。

 社長が最年少というのは、どういうことか。

 大戦から隨分時間が経っているので、その分皆歳を取るのは当然と言えば当然だが、自分の身体が成長期だったせいか、他の連中は〝老いる〟のだということに気づいていなかった。笑顔で整列する懐かしい連中の目尻に皺ができてたり、頭髪に白いものが混じっていたり。

 慌てて能力確認とばかりにちょっと揉んでみた範囲では、劇的に能力が低下している者はいないようだったが、それでも加齢による身体能力の低下は認められた。

 これは良くない。

 かつて人事だった時の記憶が警鐘を鳴らす。

 会社の年齢構成ピラミッドは、事業継続性に大きく影響する。不況だと言って採用を十年抑制すれば、十年後に主力となる人材がいなくなり、業務が崩壊するのは自然の摂理。かくして若年層が薄い会社は、将来見通しが悪く評価される。つまり現状では、この会社ZASは先がないと出資者・投資家に判断されかねない。

 思い起こせば、カンパニーのドゥ局長は我が社の先行きに余り好感を抱いていない様子だったが、こうなってみればその理由も明らかというもの。我が社の将来性に疑問があったのだ。

 やらねばならないことは明らかだ。

 新入社員を採るのだ。

 この点、集まった連中は全く当てにならない。何しろ新人を連れて来いと言うと、インデンシナの奧地から元職を引っ張ってくるような連中だ。質への要求は理解できるが、今求められているものが〝若さ〟であるという点が分かっていない。

 若い奴は使い物にならない? 当然だろう。そのための教育だ。我が社の定款に事業内容として教育が含まれていることの意味を考えて欲しい。

 とはいえ、だ。

 我が社の事業内容や主要取引先、構成人員の観点から、そうそう気軽に新入社員を募集できるわけでもない。なにしろカンパニーの紐付きだ。新聞や求人雑誌に広告を打つわけにもいかない。

 人材派遣会社でもあれば……と思ったのだが、考えてみれば我が社こそが人材派遣会社であった。

 果たして人材派遣会社の人材はどこから調達すべきか。

 公募ができない以上、伝手を頼るしかないと判断。

 まず、空軍時代の知り合いに連絡を取り、起業したことを連絡し、挨拶回りをする。この時に、救難隊などの現場下士官で、任期切れ間近な奴らに渡りを付けておいた。現場ではバリバリの第一線を張っていても、ハイ・イヤー・テニュアに引っかかれば予備役に編入されてしまうのが合州国軍の掟。年齢ピラミッドを適切に保つためでもあるのだが、社会への人材供給源でもあるのだから、これを利用しない手はない。元軍人だけに、守秘義務についても一定の信頼が置けるのはありがたい。

 これでやや若手の即戦力組には目処が付いた。だが、企業として事業継続性を担保するためには、ズブの新入社員を使える人材に教育できるところも示さねばならない。

 これにはかなり悩んだのだが、ちょうど良いタイミングで帝国…もとい、連邦共和国が魔導師育成に悩んでいるという話を聞きつけ、かつての上司に話を持ちかけたところ、快諾をいただくことができた。

 連邦共和国軍からこちらの求める条件に適合した人材を見繕って送り込んでもらい、鍛え上げてお返しするわけである。勿論、一番良い所は当社で貰い受けるつもりだが、残りが悪いわけでは決してない。デルタフォースの選抜に漏れた連中とてグリーン・ベレーとしては一流なのだ。お互いに求める人材が手に入り、しかも教育費用まで負担していただける。設立間もない我が社にとって願ってもない大口案件として安定収入に寄与してくれることだろう。

 新人の品質にはうるさい連中も、ライヒのためだと言えば教育に熱が入るのだから、願ったり叶ったりだ。

 というわけで、ドゥ局長にご懸念の点が解消される目処が立ったことを説明したところ、渋い顔を一層渋くして特別活動部SAD要員をその中に加えるよう要請された。

 言われてみれば、我が社はカンパニーの紐付き。人を集めるのであれば、まず親会社を頼るのが筋であったか。

 うっかりしていたが、そこは丁寧に謝罪し、カンパニー推薦の人間も受け入れることでご容赦をいただいた。

 これでZASの未来も安泰というものだろう。

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