第53話 配給

 ここは、とある貧しい国である。

 国民は皆、今日も飢えとの戦いをいられている。小麦のパン一切れに雑穀のスープ、それが口に入るだけでも、日々のかてしのぐには何とかなるであろう。


 そういう意味では、この国の政府が行っている最低限の「食事の配給制度」ということは、辛うじて国民の命を繋ぐ唯一の方法であると言ってもよかった。


 「ほら、来たわよ・・・」

 今日も、定刻通りにと配給車が村の門をくぐって来た。そのわだちを追うようにと、村の住民たちが四方より集まって来る。


 「はい、みんな一列に並んで!」

 政府の役人が大声を上げる。



 「俺は、三日前から何も食べていないんだ。早くそのパンを・・・」

 しわがれた老人が、真っ先にその細い手を伸ばす。


 「うちは子供が7人もいるのよ。子供たちの分だけでも先にちょうだいな」

 8人目をお腹に抱えながら、中年の女性が声を荒げる。


 「すみません、私の夫は病にかかっていて、その看病にお金がかかり食費にまで回らないのです。是非そのスープを頂けないでしょうか・・・」

 悲痛な面持おももちで、若い婦人が手を合わせる。


 「おじちゃん、そのパンおくれよ。俺には父ちゃんも母ちゃんもいないんだよ」

 薄汚れた顔をした少年が、政府の役人を真っ直ぐにと見上げる。



 そこへ、黒塗りのリムジンが砂埃を立てながら止まった。中からは、着飾った女性と数人の屈強な男たちが降りてくる。


 「そのパンとスープは、全部私が頂くわ・・・」

 言いながら、男たちにあごを差し出す。


 すぐさま男たちは、政府の役人からそれらを奪い取ろうとする。もちろん、これには住人たちが黙っているわけがない。

 みんな口々に文句を言っては、見る見るその車の周りを取り囲んだ。


 「冗談じゃない、あんたら裕福な連中の為のじゃないだろう!」

 老人が叫ぶ。

 「うちには7人の子供がお腹を空かして・・・」

 中年の女性も負けてはいない。

 「では、スープ一杯でも良いのです。私にも・・・」

 再び若い婦人は、両手を合わす。

 「おばちゃん、俺には父ちゃんも母ちゃんも・・・」

 

 「お黙りなさい!」

 薄汚れた少年の言葉をさえぎるようにと、着飾った女性が金切り声を上げる。


 「あなた達は昨日も我慢できたんでしょ! もう一日ぐらい食べなくても我慢できるわよね」

 言うと、車の方をゆっくりと振り返る。


 「でも、うちの坊やは一食いっしょくでも食べなければ、この体型を維持することが出来ないの・・・」

 

 「坊や・・・」

 そう声を掛けると、なにやらリムジンが左右に揺れ始めた。


 皆が見詰める視線の先には、なんとか車から降りようとする十分に肥満な子供がニコリと微笑んでいた・・・

  

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