第2話 反抗期

 「亮ちゃん、朝起きたら、ベッドのシーツはちゃんと元に戻しておいてね」

 「ハイ、おかあさん」

 「亮太。返事をする前に、朝起きたら、まず『おはよう』だろう」

 「おはようございます、おとうさん」

 「うむ、おはよう」


 「亮ちゃん、着がえはテーブルの上に出ているわ。それから、自分のパジャマは自分でたたんでおいてね」

 「ハイ」

 「亮太、朝食は残さず、ちゃんと食べなければいかんぞ。何と言っても、一日の活力源だからな」

 「ハイ、おとうさん」


 「ところで亮太、学校は楽しいか?」

 「ウン、とっても楽しいよ」

 「ウンじゃないだろう。返事は『ハイ』だろう」

 「ごめんなさい、おとうさん」


 「でもね、博史さん、亮ちゃん、学校でも頑張っているのよ。この間のテストなんか、全教科九十点だったんだから」

 「九十点? なんだ、間違えがあるんじゃないか」

 「今度は百点取れるように頑張るよ、おとうさん」

 「うむ・・・」


 「あ、あの、おとうさん?」

 「何だい?」

 「欲しいものがあるんだけど」

 「なんだ。お小遣いなら、ちゃんと毎月渡しているぞ」

 「ウン、わかってる。お小遣いも貯めているんだけど、少し足らないんだ。実は、顕微鏡のセットが欲しいんだよ」

 「ウンじゃない。返事は『ハイ』だろう」

 「あっ、ごめんなさい。ハイ」


 「亮ちゃんも、お勉強に使いたいって言っているんだし、いいんじゃないかしら」

 「相変わらずおかあさんは甘いな、亮太に」

 「じゃあ、買っていいの。おとうさん」

 「ああ」

 「ありがとう、おとうさん、おかあさん」



 「しかし、素直な子じゃのお。亮太は・・・ なあ、真須美さん」

 「あら義父さん、起きていらしたんですか?」

 「おじいちゃん、おはよう」

 「おはよう、亮太。それにしても、本当に亮太はおまえの小さい頃に瓜二つじゃな」


 「やめてくださいよ、お父さん。昔の話しは・・・」

 「いや~、小さい頃のおまえも、亮太に負けずなかなか素直な子じゃった」

 「お父さん、何も今しなくとも・・・」

 「いいじゃないか、別に悪いことでもない。おまえは何を言っても、必ず『ハイ』と返事をしおった。ただの一度も、このわしに、反抗したことなどなかったのお」

 「父さん、亮太も聞いているんだ。亮太、自分の部屋に戻ってなさい」

 「ハイ、おとうさん」


 「何故、話しちゃならんのだ?」

 「もう、やめましょう、父さん。遠い昔のことだ」

 「そう言えば、おまえも買って欲しいとねだったことがあったなあ。あれは、確か天体望遠鏡だったかのお」

 「くだらない事ですよ」

 「くだらないとは何だ。おまえはわしに手紙まで書いて頼んだんじゃぞ」


 「ちょっと、もういいかげんにしないか」

 「結局、クリスマスのプレゼントに買ってやったんじゃがな・・・」

 「だから、やめろといっているんだ!」

 「何だ、その口の利き方は!」


 「あんたがいけないんだろう。俺はそんな昔の話しなど、聞きたくないといっているんだ!」

 「親に向かって『あんた』とは、どういう了見だ!」

 「馬鹿野郎!少しは黙ったらどうなんだ!」

 「あきれたもんだ。親に対して馬鹿野郎とは。そんなことを言う息子を持った覚えはない。今すぐに、この家から出て行け!」


 「博史さん、お義父さんにあやまって」

 「ふざけるな、何で俺があやまらなければならないんだ。だいたいこんな家、息が詰まってやってられないんだよ。俺はあんたのロボットじゃないんだよ!」


 「な、何―。さっさと、出て行けー!」

 「あー、出てってやるよ!」

 「博史さーん・・・」


 今、ぼくのおとうさんは、まさに反抗期の真っ只中なのかもしれない・・・

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