やたら対空兵装が発達した世界(飛ぶ奴多いからな!)

人の類が作る家屋というのは基本的に、上空よりの攻撃を想定していないものである。もちろん空飛ぶ魔獣や飛行の術を心得た闇の種族を相手取る事を想定した城砦なども存在するが、陽光を取り入れる、という目的のために上方は開放構造となる場合が多かった。

魔法使いたちの軍勢が攻め込んだ神仙リシの屋敷も、周りに塀があり堀も設置されて堅固ではあったが、上空への備えはないように見えた。

とはいえあくまでもそれはそう見える、というだけの事で、備えはあったのだが。

そう。屋敷を守る構えの兵団。その中から、十数名がかりで運び出されて来たのは巨大な投網である。それが何組も。

彼らは、上空よりしてくる敵集団に狙いを定める。

射程に敵勢を引き寄せたと判断した時。

網は投じられた。


  ◇


の兵団を無視して屋敷へと向かっていた軍勢。彼らは、その目論見が甘かったことを知った。地上より上がった幾つものを認識したのである。

それは、投網だった。何十メートルという大きさに広がるそれらが、まるで猛禽のように軽やかに襲い掛かって来たのである。

天閉網と呼ばれる魔法の道具であった。

この投網は空を飛ぶ者には破壊できない。強力な防護の魔術がかけられているのだ。逃れることもできぬ。網の容積が許す限り飛ぶ者を追尾し、捕獲し続けるからである。

それらを瞬時に認識した女武者はだから、傍らの御者の肩を叩き、指示を与えた。

「……ぁ……っ!」

「へ? ええ、ちょ、待ちぃな!?」

ひょい、と空飛ぶ戦車より飛び降りた女武者は、そのまま何十メートルという距離を落下。軽やかに着地した。

その前方より殺到してくるのは、完全武装した敵集団。その全てが強力な魔法を帯びていることを認め、女武者は微笑んだ。奴らは死者を殺せるのだ。わざわざ仙境に来てまで死体のままでいたというのに。

女武者は、自らの首を胴体に繋いだ。この世界では霊の姿こそが真の姿となる。彼女ほどの術者であればそれを偽ることも不可能ではなかったが。偽りをやめ、五体満足な魂の姿。瑞々しい生命力にあふれた姿へと変化する。

久々の体。心臓が鼓動をはじめ、四肢の先にまで血が通う。呼吸が気持ち良い。太刀の重みが心強かった。

踏み込む。

ただの一閃で、突出してきた敵兵が胴体から両断される。砕け散り、土と消える屍。

女武者の霊の力はより肉体を凌駕していた。それはすなわち、生きた体でも超人的な身体能力を発揮し得る、ということだ。

味方も後方で次々と着地している。敵の上を飛び越えるのは不可能であろう。突破するほかない。

問題ない。敵は神仙リシそのものではない。手下に過ぎぬ。

一番槍の名誉を得た女武者は、次なる首級を上げるべく敵へと襲い掛かった。

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