このひと例によって作者にも正体不明です(暗黒魔導士の時もフードを上げる瞬間までどんなモンスターか正体定まってなかったからな)

一面が陣図となった部屋だった。

洞府の一角。塗料で様々な紋様が描かれたそこの中央に置かれているのは縛られた剣。そして、あぐらをかき、傍らに生首を置いているのは女武者である。

彼女は、剣にかけられた封印の魔法。それを突破し、剣の内に潜む霊と接触を取ろうとしていたのだ。死や魂の取り扱いに長けた死霊術師。それもほぼ最高位の術者たる彼女にとって、それはたやすいことのはずだった。にも関わらず手こずっているのは、封印が巧みだったからである。

女武者は瞑想する。肉体より離れ、剣の中へと潜り込むべく没入していく。

周囲の光景が何もわからなくなっていく。それは闇。どこまでも昏く。深く。アストラルの領域へと。

やがて、どれほどの時間が経った頃であろうか。

深層へと沈んでいく女武者の前に、一筋の光が見えた。いや。あれは光なのだろうか?

そちらへと手を伸ばした瞬間。

「――――――っ!?」

女武者にそいつは。とてつもなく巨大な霊。逃げられぬ!!

捕まる。深層へと引きずり込まれる。死者たる女武者と言えども、あの闇の中へ連れ込まれれば助かるまい。

死を覚悟したその時だった。

延びたは女武者の直前で停止。それ以上こちらへ伸びようとしても、進んでこない。見れば、遥か下方に見える鉄格子。それに引っかかって、届かないのだ。

封印の魔法によって阻止されたのだと、女武者は悟った。

これは駄目だ。己の手には負えぬ。封印を解くべきではなかろう。

全てを見て取った女武者は、肉体へと戻るべく浮上を始めた。


  ◇


「そうですか。分かりませんでしたか」

「……ぉ…」

「中にはとんでもなく強大な霊が封じられている。開封しない方がいいだろう、だってさ」

女武者より返された剣をしげしげと眺める糸目の男。これがそんな大それた呪物だとは。

「………ぁ…」

「隣の洞府に住まう魔法使いなら事情を知っているかもしれない。何だったら弟子たちに送らせる、だってさ。……え、オレたちだけで送っていいの?」

兄の言葉の前半は女武者の通訳、後半は本人の素である。

それに対し、女武者は告げる。あなたたちも十分な力量は身に着けた。二人で外を出歩いても大丈夫な頃だろう、と。

妹もそれに応える。

「分かりました、お師匠様。きちんと送り届けて来ます」

こうして、糸目の男は兄妹に付き添われ、洞府を出た。


  ◇


そこは、牢獄だった。

深く。どこまでも深い、まるで水底のような寒くて暗い領域。その深奥に封じられた者は、何十年、いや百年ぶりの来訪者に震えていた。呼び起こされたのである。

外から来たものに掴みかかった彼はしかし、鉄格子に阻まれた。彼を封じる忌々しい結界が未だ機能している証拠だった。

機会を待つより他ない。だが、その時は刻々と近づいている。

彼は、己の現在の器である魔剣と、その持ち主である糸目の男。そして、その周囲にいる二人の子供を品定めしながら、待った。

解放の瞬間を。

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