首に関してはこいつら無罪です(誰か教えてやれ)

「ぐわぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!?」

その苦鳴を、人間が出したのだと理解できた者はいなかった。魂消たまげるような絶叫。敵の立てこもった向こうから響いたそれに、山賊たちも怖じ気付く。

副首領は、手下どもへ命じた。

「窓を開けろ!どんな魔物だろうがお天道様の光の下なら力は出せねえ!!」

邪悪なる者達は、恥も外聞もなく太陽神の加護にすがった。破られた窓から差し込む日の光。その偉大なる霊力は、確かにいかな魔物であろうとも弱らせ、退けるであろう。

魔物でさえあれば。

引き戸を破り、奥へとなだれ込もうとした男たち。彼らの首が飛び、四肢が宙を舞った。

「ひぃ……っ!?」

山賊どもは、見た。血刀片手に出てきた男。両目から融解した元の眼球を滴らせ、こちらへ踏み込んでくる、修羅のごとき剣鬼を。

敵は、新たに得た眼球で賊を睨んだ。

「貴様らか……!!」

言い捨て、剣士は踏み込んだ。滑るような動きに誰も太刀打ちできぬ。たちまち五人が斬り殺され、残りも及び腰だ。副首領は相手の顔に覚えがあった。恐るべき剣客。先日十人も殺した男。両目にまたがる横一文字の傷は、首領が付けたものに間違いなかった。

されど、生きているはずがない。こいつは崖から落ちたんだぞ!?

気が付いたとき。

副首領は、最後の一人となっていた。振り上げられる敵手の刀を受け止めようとして、頭上に構えられた桃の木槍。

それは、一刀の下に両断された。それどころか仮面がずれて落下。二つに分かれて転がる。

後ずさりし、何とか逃れようとして。

「───ぁ?」

視界が。右半身と左半身の動きが自由にならぬ。一体?

副首領は、倒れた。転がった彼は、己の半身。左右で綺麗に真っ二つとなった自分自身の片割れを認め、死の眠りに就いたのである。


  ◇


───ああ。光だ。

剣士の目にまず入ってきたのは、陽光。もう目にすることは無かろうと思っていたが。めしいた目に光を戻すとは、何たる魔力なのだろう。女武者には感謝してもし足りぬ。この恩は何としても返さねば。

敵を切り捨て、決意を新たにした剣士。されど、彼はすぐさま光が戻ったことを呪った。なぜならば。

外に出た彼が最初に見たもの。それは、全身を何十カ所も貫かれ、首を切断された、裸身の女体であったから。

「あ……?」

見たものが理解できない。痙攣しているのか、かすかに動く女の体。均整がとれ、美しかったのであろうそれは、無惨に破壊し尽くされた屍に過ぎなかった。

もしも目が癒えれば最も見たかったもの。それは、最悪の姿に辱められて転がっている。取り囲んでいる敵勢も目に入らぬ。

「ああ。ああ。あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

剣士の目から溶け出た旧い眼球。それは、滂沱の涙で洗い流されていった。

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