ぶっちゃけ髭面のおっちゃんの拷問ってこうあるべきだと思うのですよ(力説)

「おかえりなさいませ、司祭様」

「うむ」

地下深く。闇の種族の冒涜的なる都市の最奥に、その神殿はあった。

岩肌を直接彫りぬいて創り上げられた、精緻なるも邪悪極まりない壁面彫刻。闇の種族の視点から神話の時代を描いたそれは、光の神々を信奉する人の類が目にすれば、思わず顔を背けたくなる背徳に満ち溢れている。

その中央。彫刻と比して小さな小さな入り口で、闇妖精ダークエルフの高司祭は出迎えを受けていた。

尖った耳に黒い肌を持つ、闇妖精ダークエルフの神官や侍者アコライトたち。彼らの種族は闇の者どもの祭司としての役割を担う。故に彼ら闇妖精ダークエルフは、邪悪なる怪物どもを支配することができた。知恵を持たぬ小鬼ゴブリンの一匹ですら、闇の神々に対しては畏怖を抱くのだ。

「土産だ。捕虜は牢に連れていけ。すぐに尋問にかかる」

「はっ」

「それと―――首なし騎士デュラハンを手に入れた。こやつの武装を早急に用意しろ。土を敷き詰めた棺もだ」

「承知いたしました」

高司祭の小脇に抱えられた女の生首を一瞥すると、神官たちは命じられた仕事に取り掛かった。


  ◇


―――まずい。奴らに紛れてついてきたはいいが、これは幾らなんでもまずい。

監視者は、闇の者どもの中にいた。

ここは奴らの都市。その中心である。まさかこんなところまでついてくる羽目になるとは。奴らのまではよかったが、逃げるタイミングを逸してしまった。

好奇心猫を殺すと言ったところか。

ともあれこうなってしまっては、迂闊な事をしていては死んでしまう。拷問に遭って殺されるのだけは勘弁願いたい。その後に不浄なる怪物にでもされたら最悪である。

どうしたものか、と思っていたら、あの岩妖精ドワーフが運ばれて行くではないか。

恐らく彼はこれから、身の毛もよだつような取り扱いを受けるのだろう。間違いない。

―――うん?待てよ?

少しばかり思案。彼はかなりの実力者と見える。助ければ、こちらの力になってくれるやも。

僅かな思考の後。

監視者は、連行されていく岩妖精ドワーフの後を追った。


  ◇


闇の中、苦鳴が響いた。

そこは岩牢の一角である。

空間に充満しているのは異様な体臭。血の臭い。腐臭。それらのないまぜとなったもの。

この場所の支配者たる威厳を備えたものは、高司祭。椅子に座った彼は、配下の者と共に、眼前の人物をじっと観察していた。

鎖に繋がれ、苦痛の悲鳴を上げている岩妖精ドワーフの神官戦士を。

神官戦士の姿は酷いものだった。武装は剥ぎ取られ、地面に正座させられた上で、石畳を膝の上に積み重ねられているのである。

大小鬼ホブゴブリンの獄吏どもが、新たな石畳を運ぶ。

それが重ねられようとするのを、高司祭は制止した。

「そろそろ白状する気になったか?」

「……誰が」

高司祭の手が動いた。「やれ」との指示である。それに従って、次の石畳が神官戦士の膝に積まれた。

再び、悲鳴。

それが鳴りやむまでの間、高司祭は随分と待っていた。

やがて。

「……わしは、只の巡礼者じゃ……」

蚊の鳴くような声。

痛めつけられた岩妖精ドワーフの言葉だった。

「……ふむ。まあよかろう。貴様が吐かぬのであれば、首なし騎士デュラハンに尋ねるとしよう。お前たちが何者で、何をしていたのか」

「……っ!」

岩妖精ドワーフが表情を強張らせる。そう。この男に聞かなくても、高司祭には便利な召使がいるのだった。

意のままにできる、不死の怪物が。

恐らく創造者は相当に手荒に扱っていたのだろう。あの首なし騎士デュラハンの魂魄には、消えぬ拷問の痕が見て取れた。ああなった死者の心は脆い。実にたやすく恐怖で縛り付けられる。

彼は、脇に並べられた台。その上に置かれ、凄惨な光景から必死で目を背けようとしている女の生首へと視線を向けた。

「さあ。首なし騎士デュラハンよ、答えよ。お前たちは何者で、何のためにここへ来たのか」

生首は、はじめ高司祭へ。やがて岩妖精ドワーフへと視線を向け、その間を何度も巡らせた後。

「……ぁ……ぉ……っ!」

口を開いた。

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