最近仕事が忙しいんですが(つらひ)

「苦労しとるようじゃな」

「やかましいわい。この飲んだくれめ」

岩妖精ドワーフの神官戦士が訪れたのは、村の診療所だった。

もはや薬師とは顔なじみとなった神官戦士は、勝手に診療所へと上がり込むと適当な場所を見繕い、座る。

彼は、さっそく本題を切り出した。

「本当は助けてやりたいんじゃろう?」

「まぁね」

薬師の答えは明快であった。辺境では助け合わねば生きてはいけぬ。ならばどうするべきかは自明である。

「心配なのは村か」

「かねえ。どうしたもんかね」

「お前さんの弟子。―――信用できんか」

「戻ってくるまでの間ってことかい?」

「逆じゃよ。弟子を名代にするんじゃよ」

「……あの子に務まるかねえ?」

「一石二鳥じゃと思うがのう」

薬師は思考。少年が自分の下で修業を初めてから少しばかりの時間がたった。まだ彼は未熟ではあるが、恐るべき速度でわざを習い覚えておる。さすが見よう見まねで秘術や死霊魔術を身に着けただけのことはあった。

「不安ならワシも行こう」

「あらま。あんたも行くつもりかい」

「うむ。それに、森妖精エルフには昔世話になったことがある。借りを作りっぱなしというのも気持ちが悪い」

「……ちゃんと守ってやっておくれよ?」

「もちろんじゃとも」


  ◇


姫騎士が目を覚ました時、愁いを帯びた顔が待ち構えていた。

少年である。

「おはよう」

「……ぉ……」

体から土を払いった姫騎士は、首を取り出すまも惜しんで相手の顔を

「旅に出ることになったよ。

戦地へ。でも、戦いに行くんじゃない。ひとを助けに行く」

「…ぁ………」

随分と悩んだのであろうことは、その顔を見れば察せられた。

だから、姫騎士は、優しく相手を抱きしめた。

死せる肉体。冷え切った裸身が、少年を優しく包み込む。

「ごめん。また、巻き込んでしまう。僕を守ってくれる?」

「……ぉ……」

「ありがとう」

初年も、姫騎士の肉体を優しく、抱きしめた。


  ◇


「……ああもう。岩妖精ドワーフに借りは作りたくねえって言ったってのに」

「ふん。あんな子供を戦場へと連れ出す癖に、今さら岩妖精ドワーフを連れ出すのに文句をつける気かいの?」

「そりゃそうだけどよ……」

村の入り口にて。

森妖精エルフの旅人は、岩妖精ドワーフの旅人と共に待っていた。薬師の名代となった少年。そして彼の保護者である、首のない女を。

やがて、村の方より彼らの待ち人が連れだって現れ、そして一行は旅に出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る