第七話 畑の鶏

どんな味がするのだろうか(鶏肉?)

「うん?なんじゃありゃ」

農夫の男がそんな声を上げたのは、畑仕事も一段落しようか、という時であった。他の者達も家々に戻りつつある。

村の畑の隅。低木の薬草畑の合間から顔を出したのは、妙に巨大な雄鶏だった。

どこかの家から逃れたのだろうか。

「おや。どうしたね」

「いや、あれ、どこから逃げたんだろな?」

怪訝な顔をした村人たちは、鶏を包囲。捕獲するべく接近を開始した。

包囲網が徐々に狭まっていくのに警戒したか、鶏はきびすを返すと逃げ出した。

「あっ!待て!!」

咄嗟に飛び出した農夫。頭から飛び込んでいった彼にびっくりした鶏は、その頭部を振り上げる。

農夫に嘴で一撃すると、そいつは驚くべき敏捷さでその場を逃げ去っていく。追いつくことなどできそうになかった。

「あちゃ……逃げられたなあ」

残念そうに集まって来た村人たち。頭から突っ込んだ農夫が起きるのに手を貸してやろう、とした彼らは、見た。

その場に転がっている、農夫そっくりの精巧な石像を。


  ◇


「……雄鶏コカトリス?」

鶏。そして石像が出現してすぐ後。畑に集まっていたのは少年や薬師。そして姫騎士である。

この謎の現象についての知識を持っていたのは姫騎士だった。かつて英才教育を受けていた彼女は、今起きている状況についての知識があったのである。

小脇に生首を抱えた彼女は布を被り、陽光に辟易としながらも何が起きているかを語った。

「……ぉ……」

雄鶏コカトリス。蜥蜴の脚と尻尾を備えた大きな鶏で、その嘴には石化の魔力を宿すという。つつかれると石になってしまうのだ。癒すには強力な魔法か加護の力が必要であった。

転がっていた石像は、哀れな犠牲者なのである。

「嘴につつかれたら石になるって、そいつは何を食べてるの?」

「………ぁ…」

少年の疑問に、姫騎士は答えた。

芸香ヘンルーダという植物だけは嘴の魔力に屈しない。なので彼らはそれを食べて生きているのだという。また、芸香ヘンルーダをあらかじめ摂取しておけば、短い間ならば石化の予防にもなる。

芸香ヘンルーダ?あぁ、だからここの畑は、その雄鶏コカトリスが突っ切っていっても無事だったってわけかい」

薬師は周囲を見回した。樹高1メートルに満たない低木がならんでいる。これらは葉に含まれる精油成分が通経剤・鎮痙剤・駆虫剤などとして利用できるために、村で育てているのだった。

雄鶏コカトリスはこれを食べるために現れたのだろう。

「……ふむ。

とりあえず、雄鶏コカトリスにやられたもんはあの飲んだくれに任せるとして、だ」

神官戦士は快癒リフレッシュ解石リムーブストーンの加護を使えるはずである。以前酒場で酔った彼は豪語していたから大丈夫だろう。犠牲者は回復させられるから、現状では致命的ではない。

「そんな物騒な怪物がうろついてるとなりゃ、おちおち畑仕事もしてられないねえ」

「…ぅ…?」

これだけ芸香ヘンルーダがあるならあらかじめ摂食しておけば大丈夫なのでは?

怪訝な顔をした姫騎士に、薬師が答えた。

「ああ。芸香ヘンルーダは少しばかり毒性があるのさ。弱いとはいえ、延々と食べてたら酷い事になっちまう」

こうして、雄鶏コカトリス撃退作戦開始の運びとなった。

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