甲冑だけで中身が空っぽの女の子もいいよね(でもキャラが増えすぎると困る)

戦乙女は、主人の命令に従い成竜へと歩み寄った。その手に竜殺しの魔剣を携えて。

背後の蛇竜ワームから主人への射線を意識し続けることは忘れない。それが己の役割だったから。

敵は頭部から主人に向けて降下する姿勢である。その状態で呪縛されているから、始末するため刃が届く部位は喉だった。成竜の首を刎ねるべく、その横から剣を構える戦乙女。

そのとき。主人が驚愕の表情を浮かべた。

主人の視線をたどった戦乙女。その仮初の肉体に、がぶつけられた。竜牙兵スケルトン・ウォリアーが。凄まじい剛力によって投じられたこの魔法生物は魔力を帯びている。故に戦乙女にぶつかった一撃は、軽視できぬ傷を負わせるに至ったのだ。

粉々に砕け散った竜牙兵の向こう側に倒れ伏す戦乙女。

その先で、暗黒魔導師は呆然としていた。在り得ない光景を見たから。

そう。倒したはずの敵が起き上がったという光景を。


  ◇


―――咄嗟に投げたにしてはまあまあだったな。

竜牙兵を投じた女勇者は、そんなことを思う。

戦斧が見当たらぬ。どうやら遠くに飛んで行ったらしい。問題ない。先ほど砕いた竜牙兵が取り落とした剣を拾い上げ、走る。右腕が切り落とされたからちょうどよい。

その向うでは敵首領が魔法の詠唱を始めた。驚いたままいればいいものを。あの鎧のも起き上がりつつある。

剣を逆手に構え、そして投じた。狙いは敵首領。

敵は回避し、そして詠唱が途絶えた。それだけではない。成竜の呪縛も解けたのか、大地へ激突した。

女勇者は戦乙女へ、肩口からぶつかる。起き上がりかけた敵手もろとも大地へと転がる。もみ合い、相手の兜を下から現れたのは、清浄なるオーラを纏う無表情な女の霊。

哀れな。魂を呪縛されているのであろう。相手にを叩き込む。更にはで殴りつけ、そしてで相手のを掴むと、引きずり起こした。

そこへ。首を掴んで持ち上げた相手の胴体へ、巨大な鉤爪が襲い掛かり、両断した。立ち直った成竜の一撃が、死者を黄泉路へと送り出したのだ。

が霧散し、バラバラとなって落下する青銅の甲冑。そして竜殺しドラゴンスレイヤーの魔力を帯びた大剣。

跪き、青銅で出来た大剣を拾い上げるとで構える女勇者。ごく自然に。もはや肉体は霊魂の器に過ぎないと彼女は理解しつつあった。万物に対して、彼女の霊は優越しようとしていたのである。

残る敵。暗黒魔導師へと向き直った彼女の横に、成竜が並んだ。


  ◇


なんということだ!秘宝を運ぶ手段が失われてしまった。

暗黒魔導師は思案する。

まだすべてが失敗に終わったわけではない。蜥蜴人リザードマンたちを殲滅しさえすれば、あの岩山を占拠することはできる。再び秘宝を運ぶ資格を備えた戦乙女を用意するのは困難だが、不可能というわけではなかった。岩山を支配し続ければいずれは持ち出すことも叶おう。

だが、そのためにはこの場を切り抜ける必要があった。部下を見捨て逃げるわけにはいかぬ。そんなことをすれば蜥蜴人リザードマンを排除できなくなってしまう。それに、首なし騎士デュラハンは今滅ぼさねば、次の機会はない。これは窮地ではあるが、同時に好機でもあるのだ。

眼前の敵は二体。後方ではまだ牝山羊キマイラどもが蛇竜ワームともみ合っていてこちらにはこれぬ。

そこまでを瞬時に分析した彼は、素早く踏み込んだ。女勇者へと。

「―――!?」

驚愕する敵が突き出す刃を紙一重でかわし、そして影を踏み付ける。呪縛した首なし騎士デュラハンを成竜への盾とするのだ。さもなくば炎で焼かれてしまう。

詠唱を開始する。奴は戸惑っている。首なし騎士デュラハンの体を避けて攻撃するまでの瞬間に術は完成する。私の勝ちだ!!


  ◇


成竜は敵の動きに驚愕した。まさか魔法使いが踏み込んで来るとは!

しかも印を切り呪句を唱えている。攻撃が来るが、この位置からでは反撃できぬ。盾とされた女勇者を薙ぎ払ってしまう!

まさしくその瞬間。女勇者の霊が、叫んだ。

―――私ごとやれ!と。

成竜は、即断した。敵を絶息させ得る致命の一撃を放ったのである。

すなわち竜の吐息ドラゴンブレスを。


  ◇


暗黒魔導師の術が放たれる。

まさしくその刹那、成竜の口が開いた。喉から見えるのはメラメラと燃え盛る炎。

吐き出された吐息は、岩をも溶かす高温で、女勇者をまず呑み込んだ。間をおかず、暗黒魔導師をも包み込んだそれは、乾燥した肉体を即座に燃え上がらせた。水分を含まぬそれはたちまちのうちに灰と化す。

断末魔すらなかった。

全てが焼き尽くされた後。

そこに残っていたのは、白き衣を纏った女勇者。そして竜の力が及ばぬ青銅の大剣だけだった。


  ◇


竜の炎の洗礼を受けた戦乙女は、竜の吐息ドラゴンブレスで焼かれることがない。

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