当初の予定より代官の出番が多い(すごく)

街より出た代官が訪れたのは森の一角。よく彼がに訪れる場所であった。地元民もあまり寄り付かぬ。幽霊が出るからだと。あながち間違ってはいないな、と彼は苦笑した。

まだ日は高いが、木々が陽光をかなり遮っている。短い時間だ。問題あるまい。

馬上の彼は腰から剣を抜き放ち、そして邪なる聖句で神を讃えたあと、配下どもへと命じた。

目覚めよと。

周囲の土が、幾つも。いや、十数、何十という数が盛り上がり、そして


  ◇


陽光が差し込む木々の下。

綺麗に畳まれたマントの上。着衣と、甲冑が置かれ、その傍らには三本の剣が並べられていた。

近くには掘り返し、埋め戻したばかりの土の跡。女剣士が自らを埋葬したのだった。件の生首―――女戦士は埋められるのを大変嫌がったが、女剣士がしっかりと抱きかかえてともに眠ったのである。

荷物番兼主の守護を任された踊る剣リビングソードは、鞘の中で考え込んでいた。女戦士の証言について彼女も聞いていたからである。

女戦士の身の上はとても他人事とは思えなかった。主である女剣士にとってもそのはずだ。闇の種族に魂魄を拷問され、奴隷になり、何十年も破壊と殺戮を繰り広げたのだと。解放されたのちも死ぬことすらできず何十年とさまよったのだと。やっと見つけた心の安らぎを、またもや闇の者どもに奪われたのだと。

もちろん真実を述べているかどうかは分からぬ。だが、女神官は嘘感知センス・ライの魔法を使える。彼女を同伴した上で再度事情聴取を行えば真偽は判別できよう。

だから、そのためにも、まずは己が彼女らを守らねば。

などと決意を固めた時だった。

馬のいななき。

遠くから駆け寄ってくるそれに怪訝なをした踊る剣リビングソードは、と主人へ警戒の声を出した。ここは街道から外れている。昼間とはいえ、わざわざ馬でやってくる物好きがいるとは思えなかった。

女剣士も、土の中から身を起こした。せっかく陽光から逃れたというのに起こされた裸体は不機嫌である。彼女の小脇には女戦士の生首も抱えられていた。流れる銀髪、優しげな美貌は瞳を閉じている。こうしてみると、彼女らで1体の首なし騎士デュラハンにも見えた。

女剣士が細剣を握り、身構えたその時。

木々の向こうから、ゆっくりと駆けてくる人馬。そして、それを守るようにやってくる小柄な者どもの姿が見える。

やがてその全貌が明らかになった時、その場に集う死した女たちは、

身なりのよい男。馬上にあり、髭を蓄え、剣を帯びたその男が率いていた手勢が、干からびた少年少女たちの屍だったからである。

「ほぉ?裏切ったか。まさか、首なし騎士デュラハンが自ら首を盗みに入ったとは。貴様を討ち取り、使徒様へのせめてもの詫びとしてくれよう」

髭の男―――代官は、宣言した。


  ◇


宝物庫へ押し入った盗人を捜索する兵士の一隊。昨夜館内を守護していた番兵は、入った宿で見覚えのある者を見つけた。

「おお。お前昨夜の」

テーブルについていた神官と黒衣の少年がギョッとこちらを見るが、どうしたのだろうか。そちらまで歩み寄ると、番兵は猫へ笑みを浮かべた。

「ほら。昨夜抱いてやったろ?覚えてないか」

テーブル、壁際で丸まっている猫はこちらを一瞥するとにゃ。と鳴いた。が、動かない。眠そうにも見えた。

おや?

「お前……尻尾はどうした」

今度は猫がギョッとしたようだった。慌てて尻尾を体の中に隠したようにも見える。だが番兵には見えていた。猫の尻尾が確かに、半ばから断ち切られているのを。

「あぁ……怪我をしたので、治療したのだが」

傍らに座っていた水神の神官が告げて来た。なんだ、そうなのか。番兵は安心した。神官が癒してくれたのならだいじょうぶだろう。ついでだ、色々聞いてみよう。

「あなた方の猫ですか?」

「ええ、まぁ……」

答えたのは黒衣の少年である。

「そうか、猫を連れて旅とはなぁ……」

そういう人もいるのだな、などと思っていると、突如猫がにゃあにゃあ鳴き始めた。

「うん?何?どうした?―――なんだと?」

猫と突然会話し始める女神官。神官は猫とも会話できるのだろうか?不思議である。

「猫と会話できるんですね」

「ああ、いや、なんとなくわかる、というだけで」

急にそわそわし始める女神官。そうか。分かったぞ。

番兵は得心がいった。

「やはりあなたも猫好きなんですね」

「あー……」

同族だ。間違いあるまい。

番兵自身も猫が好きだった。同族は逃がさない。猫の話ならいくらでもすることができる。

今まさに敵襲を受けている友人を救いに行きたい女神官の内心など知る由もなく、しゃべり続ける番兵。

彼に一行。女剣士とは異なる意味でピンチであった。

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