人間は、考える葦である。

JUST A MAN

徒然なるままに

命日よりも誕生日

 私事ではありますが、先日、祖母が他界しました。事故に因る永眠ではありましたが、肉親一同が祖母らしい死に方だと、悲しみにはまる事はありませんでした。


『命日よりも誕生日』…。


 昔から思っている事ですが、祖母の死を経て、尚更の事そう思うようになりました。


 人だけでなく、生を受けた者には必ず死が訪れます。例えそれが不幸な事故や病気に因る死であっても、老衰による大往生であっても生に幕を下ろす時は必ず訪れます。何故なら正と死は、対となるものだからです。生をなくして死はあり得ません。死は…生を受けた者には当たり前の事なのです。

 しかし対にあるべき正は、奇跡と言っても過言でない程の確率で訪れます。ただ漠然と誕生する命を見るのでなく、自分自身の誕生を想像して下さい。両親が、自らの人生の中で互いに伴侶を見つけ、そこに子供が生まれます。子供は親のDNAを受け継ぎ、人相や性格をも引き継ぎます。裕福な家庭に生まれる事もあれば、貧しい家庭に生まれる事もあります。つまり両親のどちらかが違えば、今の自分はなかった事になるのです。

 更に生物学的な見方をすれば数億ある精子の1つが、月に1度形成される卵子と交わり命が宿ります。兄弟がいる人は自ずと分かるはずです。同じ親から生まれた子供でも、それぞれの人相や性格は違ってくるのです。それを考えると『自身の正』は、奇跡だったとしか言い様がありません。


 また、話が逸れるかも知れませんが私は自身の誕生日を、自身の歴史の元旦と思っています。西暦に従った元旦は世間の元旦に過ぎず、私の人生は私だけの元旦…誕生日から始まりました。器も小さい人間ですが、それでも私の人生の主人公は私自身なのです。『世界は自分を中心に回っている』…。傲慢な考え方ですが自分の人生だけを見た時、その言葉は正しいとも思っています。自分に見える範囲で、与えられた生を一生懸命に過ごしています。だから…それでも人に歴史ありです。

(ちなみに恥かしい話ですが、私は自身の誕生日に母親に電話を掛け、『産んでくれてありがとう』とお礼を述べています。父親には…本当に恥かしくて言えた例がありません。)


 祖母もそろそろ四十九日を迎え、数週間後には納骨されます。来年の命日にはお墓に行き、その死を偲ぶ事でしょう。

 しかし私に子供が生まれたら(そもそもそれ以前に、結婚出来るかどうかも分かりませんが…。)、そこからルールを変えたいと思っています。『命日は記憶するにしろ、法事や墓参りは誕生日に行なえ』と教えるつもりです。生の幕が下りた終着日も大切でしょうが、そこで誰かに死を嘆かれたり偲ばれたりするよりも(…そうしてくれるかな…?心配です。)、私が生まれ、懸命に生きていた事を記憶し、讃えて欲しいのです。子供はいませんが、先に亡くなった愛犬の誕生日に私は彼女の写真の前にお供え物をし、『生まれてくれて、我が家に来てくれてありがとう』とお礼を述べています。亡くなった者を偲ぶのではなく、感謝の意を示したいのです。(冗談っぽくなりますが)となると『ありがとう』の前に置く言葉は、やはり『生まれてくれて』が適当かとも思います。


 だからここで、祖母に感謝の意を示したいと思います。


 お祖母ちゃん、生まれてくれて、そして父親を産んでくれてありがとう御座います。お祖母ちゃんが生まれなかったら、お祖父ちゃんと結婚して父親を生まなかったら、僕の人生はなかったです。そして生きている間に、多くの事を教えてくれてありがとう御座います。お祖母ちゃんの歴史を全て知っている訳ではありませんが、そこから学んだ事は多いです。

 そしてお祖母ちゃんは余生をのんびりと生きるのではなく、亡くなる直前まで一瞬一瞬を懸命に生きていましたよね?僕もそこから学びたいと思います。死が訪れるのは当然です。でも、それが近づいたとしても落ち込んだり身の回りを整理したりするのではなく、生まれたからには残った正を、無我夢中で生きたいと思います。

 お祖母ちゃん、僕のお祖母ちゃんとして生まれてくれて、本当にありがとう御座いました。(……?順番…間違ってますよね?)

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