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 - 金の封筒、青の封蝋押し。香なし。庶民向けの封筒がいくつか添付されている。字はおだやかにおおらかで読みやすく、深い青のインク。小包付。



「ひさびさの手紙になってしまいました。きみとの手紙を公開したことで、ぼくの場所にはさまざまな著名人やら有名人やら、文筆家さんやら劇団員さんやら、とかくもたくさんの人から文通のたよりがありました。(信じられますか? このぼくと話したいだなんて!)ぼくはうれしく、出来るだけその人たちの願いに答えようとしたのですが、なかなかそれも難しいほどでした。けっきょく、お偉いかたに優先して手紙を書いたりしていたのですが、そんなふうに身勝手な順位付けをすることは早々に嫌気がさし、かえって肩書きを見ずになんとなくピン! と来るひとを探してみたりもしたのですが、それはそれで、その人の今までの努力や積み上げてきたものというのをふいにしてただ一枚の紙にすべてを賭けさせているようで、これも面白くありませんでした。たかが文通への応対ひとつで大仰なと、きみは言うでしょうね。でも、日陰もので、夕陽に励まされてきた、図書館とトイレに保護してもらってきたぼくの人生からすると、手紙というじぶんのフィールドで、お便りをかわしましょうとご提案なぞいただくのはこれ以上ない喜びであったのです」


「はなしが逸れました。そういうわけで、ぼくはいま、それなりにたくさんの、面白いかたたちと便りをだしあっています。お医者さんもいれば、弁護士のかたもいます。そういったある種特殊な職業をもつかたたちは、やはり書かれる日常にも彩りというか、ファンタジィな趣があって、なかなか面白いものです。かってなことですが、さいきん読んだなかで面白かったものをいくつかきみにも転送します。きみの今浮かべる顔がありありと分かるようですが、まあ、たまには年寄りのいうことも聞いてみなさい。もちろんそういうエリートと呼ばれるかたばかりをぼくが選んでいるのでもありません。なかには小さな少女もいます。アリス・リデルとルイス・キャロルのこと、もちろんご存知だとおもいますが、そういった心持ちで、ぼくはできるだけ簡易な文章を使うように心がけ(まあ、もとからむずかしい単語は使えませんが)、できるだけその子のこころの成長というやつを阻まぬよう気をつけて、返信用の切手を同封してやって便りをつづけています。書いてよこしてくることはあまりに珍妙です。葉の標本のようななにかをこしらえて送ってくれることもあり、心がやすまります。ぼくはこれらの素晴らしい書簡を、少女が大きくなったころにまとめて返してやりたいと思っています。自分が子どものころになにを考えていたか、ぼくほど知りたいと思っている大人もいません。きみには子ども時代がなかったようだから、そうでもないのかな。返信で教えてください」


「特別たる特徴のないかたたちもいます。町の主婦のかたですとか、とあるビルの受付をしているかたですとか。ビジネスマンもいらっしゃる。まったくもってふつうの人々ですが、手紙の内容は面白い。まあ、つまらないひともいます。手紙がつまらないからといって、その方本人がつまらないわけでもないのでしょうし、手紙が面白いからといって、その方本人が面白いわけでもないのでしょう。ぼくが到底面白いとはいえない人であるのと同じです。手紙と現実、そこには緩やかな相関しかありませんが、すくなくとも僕は、現実で会ったときにどのような人間であったとしても、手紙の面白い人のことがとにかく好きです。手紙には思想が張り付くと思っているからです。手紙に書かれる文章は、その人のうちがわであり、皮膚のことです。指紋のねばつく現実的な証左を、ぼくは大切にしたいと思うのです」


「そういえば、同封のチョコレートはお土産です。まあ、さして遠くに行ったわけでもないんだが、ちょっとした温浴施設に、気の利いたものがあったのでだれかに買い求めたくなりました。しかし家内にはいえぬ用事だったし、あまりに格式が高そうで、ちょっとした人には渡せそうにありません。かんがえたところ君がいちばんいい。たぶん美味いと思う。高かったので。これの感想も、また教えてください」

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