寿司の玉子はやっぱり
島地 雷夢
寿司の玉子はやっぱり
午後八時を少し過ぎ、私は漸く家へと帰る事が出来た。
まだ近所のスーパーがぎりぎり開いてる時間帯だった事もあり、今日はスーパーで夕飯を買う事にした。値引きのシールが貼られたものを物色中、そう言えばこの頃寿司とか食べてないなぁ、と思い半額になっていたそれを購入。
シャワーを浴び終え、部屋着に着替えた私は醤油皿と箸、熱々のほうじ茶を用意して、寿司の蓋を開ける。
マグロの赤身、中トロ、イカ、サーモン、イクラの軍艦巻き、タイ、アカガイ、アナゴ、玉子と少し豪華な品揃えだ。御丁寧に魚型の容器に入った醤油まで付属している。
「頂きます」
まずほうじ茶で喉を潤した私は、箸で目当ての寿司を掴む。
私が最初に食すのは常に玉子だ。
寿司の玉子は色々と種類がある。
砂糖で程よく甘く味付けしたもの。
シンプルに塩だけで味を調えたもの。
出汁で溶き、魚介の風味を合わせたもの。
さて、私の場合は砂糖で甘くしたものが好きだ。
確かに他の味付けの玉子も酢飯とも合う。
しかし、砂糖で甘く味付けされた卵と酢飯のほんのりと酸味の利いた味と相性に敵うものではないと思っている。
また、海苔は巻かれていない方が好みでもある。磯の香りで玉子の風味消されてしまうのでね。
はてさて、この玉子はどのような味付けなのだろうか?
期待に胸を膨らませ、私は大きく口を開けて海苔の巻かれていない玉子の寿司を頬張る。
「……甘辛っ⁉」
瞬間、私は涙目になる。
不意を突かれた。
この玉子には……山葵が入っている。
普通、玉子にさびは入れないだろう。
山葵の風味と辛味が玉子の味を覆い隠してしまい、純粋に味を楽しめない。
あと、これでは辛いのが苦手な子供が安心して食べられないではないか。
これは、きちんとこの寿司を調理した者に物申さねばならないな。
私は涙を拭いつつ、舌の辛味をほうじ茶で洗い流して山葵のついていない部分を食す。
……やはり、子供舌の私には玉子は甘くて山葵の入っていないのが一番だな。
寿司の玉子はやっぱり 島地 雷夢 @shimazi
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