No.84 話があるんだ?
何だかんだあってボク、
ボクは世間的には行方不明のJCなので家に帰っても変に怪しまれてしまう。
そんなわけでしれっと犯罪者たちと一緒にいることにしている。
「ボクも信用されたもんだね。意識不明の大事な人を見ておいてくれなんて、元敵だったボクに言うことじゃないわ」
喋ったことはなく、ただ面識があるだけの人なのだが意識不明なのはボクのせいでもある。だからこそ見ておいてくれと言われて断らなかったんだけど。
「キレイな人だなぁ」
顔を覗きこんで一言呟く。艶やかなセミロングの髪に触れてみる。わぁ、すっごいサラサラ。
彼氏の高天原さんはセックスの時に撫でたりしたんだろうか。
彼は五日前に病室を出て行ったっきり姿を現さない。皆家にいることは分かっているのだが、行こうとはしないのだ。
彼杵さんも可哀想だけど、高天原さんも可哀想な人だ。愛している相手を記憶喪失にした原因を作り出したあげく、平戸凶壱に君は最低のクズ人間だとはっきり言われたのだ。そりゃ、逃げ出したくもなるだろう。
でも彼女をほったらかしにして引き篭もるのはどうかと思う。色々思うところもあるのかもしれないがここは気張って来てほしい。
怪盗Hの病室にいる犯罪者の皆は一体彼のことをどう思ってるんだろう。
一番古い付き合いなのは
男性陣の中では
というか基本全員が静かだった。
その中で異彩を放ってぺちゃくちゃ喋ってたのが
ボクを人身商人に売りさばいたサイコパスで、何故か犯罪は全否定なのだ。それなのに犯罪者たちと仲良くしてるのはどういうことなんだろう。
もしかするとモグラという可能性も......? いわゆる潜入捜査で犯罪者たちの中に紛れ込んでいるとか。
......絶対ありえないとも言えないな。
「はぁ~。一番関係が浅いボクだから客観的に見れるけど、当人たちはキツイだろうな」
ボクがそう呟くと。
「う、ん......?」
返事をするようにベットから声が聞こえた。
「彼杵さん!?」
「あ、れ? 私......なんで? ここどこ」
当たり前だが彼杵さんは五日間眠っていたのだ。混乱するのも無理はない。
「安心してください。病院ですよ」
「びょ、病院......?」
「はい。あ、ボク顔を合わせたぐらいで名乗ってませんでしたね。
「は、はぁ......」
「えっと今から皆さん呼んできますね」
たいして喋るようなこともないので上の階にいる犯罪者たちを呼びに行こうとした。
が、彼杵さんの様子が変だ。自分の髪の毛を見て何故か驚いている。
「あ、あの今顔を合わせたぐらいって言いましたよね......」
「はい。ボク、彼杵さんが殺されそうだったのを間一髪で救ったんですよ?」
今のは我ながらおこがましかったな。
「私が、刺されそうに?」
「えぇ。......覚えてませんか?」
「だって私は屋根から落ちて......それで、えっと~」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「は、はい!?」
頭を抱えて悩みだす彼杵さんの手を握る。
「今、屋根から落ちたって言いましたか?」
「はい。私は、そのー、いろいろあって屋根から落ちちゃって」
「ボクのこと、見たことありますか? 正直に言ってください」
まさかとは思うが。
もしボクの考えていることがマジなんだとしたら......。
「ごめんなさい。誰か分かりません」
「ホントに見たこともありませんか?」
「ないです」
ボクのことを覚えていない。
ボクはこの考えを立証するのに一番手っ取り早い質問をした。
「今、西暦何年ですか?」
「今って、2014年じゃないんですか?」
「っ!? 彼杵さん、やっぱり記憶が......」
記憶が戻ってるんだ。それも二年前の屋根から落ちる時点に。
それはつまるところ。
屋根から落ちた後から刺されて気絶するまでの二年間の記憶はなくなってしまったということになる。
記憶が亡くなってしまったのだ。
この二年間の間に彼杵さんと出会った犯罪者の皆の記憶も存在しない。
どうやって説明しよう......。
「と思っていたところ、医師の人が来て診察しだしたからボクは追い出されてしまいました」
「そうか......」
無理もない。
「ど、どうして? 彼杵は昔のことを思い出したって事じゃないの?」
「おそらくだけど、彼杵ちゃんの記憶喪失は
「解離性健忘......?」
「えぇ。強烈な心のショックやストレスからくる記憶喪失でね。脳そのものには記憶は確かに存在しているけれど、本人が思い出したくないことを思い出させないようにしている記憶喪失なの」
「で、でも彼杵の記憶喪失の原因は屋根から落ちた衝撃だったんじゃ......」
「ボクはそう聞いたんだけど......」
「普通の外的ショックによる記憶喪失なら思い出すだけ。でも今の彼杵ちゃんは思い出しただけでなく、私たちと出会った期間を忘れてしまっている。これは解離性健忘でよくあることなのよ」
「つまり、彼杵さんは屋根から落ちるときに精神的ショックで解離性健忘を患ってしまったというわけですか」
春昌が確認するように藍衣の話をまとめた。
「じゃあ彼杵さんの二年間の記憶はもう戻ることはないってことデスカ?」
「そうだと考えた方がいいわね......」
「そんな......」
病室内の犯罪者達の間に沈黙が走る。共通して頭の中は哀しみで溢れていた。
だが、そんな中で沈黙を破る犯罪者ではない者が一人。
「まあしょうがないんじゃんwwwむしろ記憶が戻るのは彼杵ちゃんにとっていいことなんじゃないのwww?」
「それはそうですけど......」
「御主人様、あまり言い過ぎてはいけマセンヨ?」
「安心しなってイクミ。僕には君たちが何をそんなに深刻に考えてるのか分からないんだよなぁwww」
ニヤニヤと場の雰囲気を壊す平戸凶壱。
「そもそもさぁwww彼杵ちゃんって......」
凶壱がそこまで言いかけたその時。
ガラリと病室のドアが開く。
「みんな............」
「
「彼杵が目を覚ましたって連絡がきたんだけど......」
「神哉ぁぁぁぁぁ!!」
「ぐほっ!?」
椿が現れた
「バカ神哉! 我はお前が自殺したんじゃないかと......」
「自殺......すか。それも考えなかったわけではないんですけどね」
「神哉。あんたそこまで責任を感じて......」
「お前ふざけんなよ! 俺、お前が勝手に死んでたらマジで許さなかったぞ」
それぞれが思い思いに久々の神哉に言葉をかける。
「みんなごめん。ホント自分で自分が分からなくなっちまってさ......そんなことより、彼杵は」
「そのことなんだけどね高天原くん」
「はい?」
「彼杵ちゃん、私たちのこと忘れてしまったの」
「え?」
藍衣の言葉に目をパチクリする神哉。春昌が補足を入れる。
「二年前の記憶が戻ったのと同時に二年間の記憶がなくなってしまったようなんです」
「......そっか」
「案外驚かないんだねwww」
「実は記憶喪失について色々と調べたりしたんだ。それで解離性健忘ってのがあるって知ってさ。もしかしたらその可能性もあるかなって思ってたんです」
神哉は拍子抜けするほど冷静だった。そして拳を握り締め言った。
「俺たちの今後について。それと彼杵についても話がしたいんだ。皆、うちに来てくれ」
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