第二十罪

No.75 さぁ、俺らと一緒に来い?

 

 現川うつつがわ一夏いちか

 十五歳。『元』女子中学生。

 自他共に認める美少女。頭の出来はそこそこ。良くもなく悪くもなく、特筆すべきようなことはない。

 運動能力は上々。体育の成績だけ4とか5を取るような感じ。

 コミュニケーション能力は人並外れており、誰にでも話しかける。相手がイヤがろうと一方的に話しかける。

 身長165、体重49.7。バスト81、ウエスト62、ヒップ79。

 一人称は他人との会話時には『私』だが、実は『ボク』が本人は一番使いやすく感じている。


 これがボク、現川一夏のプロフィール。

 だけど、今はプロフィールとは呼べない。これはボクが品定めを受ける際の参考資料というわけだ。


『さぁさぁ! お次の商品はこぉちらぁ!』


 ボクの前にいたこれまた元友達の女の子がステージの真ん中に立つ。

 この子のオークションの次はボクだ。ボクの元友達はみんな商品として、どこぞの誰かさんに売られていってしまった。


『はいはいお客様、落ち着きや! 焦らんと商品は逃げへん。ただ、いくら出せるかの勝負や! ちゅーわけで、まずは四十万から!!』


 聞いていると非常に腹立たしくなってくるエセっぽい関西弁で話す司会の男。

 男が元友達の女の子の最初の金額を叫ぶと、オークションに参加している客は一切にそれに勝る金額を叫ぶ。


 ボクもあんな風に売られちゃうのか〜〜。


 正直それ以上の感情は湧いてこない。不思議と諦めがついてしまっている。


『はぃ! そいじゃぁ、九十万で落札〜〜!!』


 あぁ、前の子が終わった。

 もうボクか。出来れば、優しい人に買われたいなぁ。


『続いてはぁ、本日最後の大目玉!』


 うわ、すっごいハードル上げられた。出るの恥ずかしい。

 てか歓声ヤバいな。主に男の人の唸り声っぽいのが多いけど。


「よし、行け」

「......はぁーい」


 ボクの横にいたオークションスタッフの人が、背中を押してくる。ちょっとスタッフさんの態度にイラっとしつつ、反抗するのもダルいし素直に従う。


『今日イチかわえぇ美少女ちゃん、現川うつつがわ一夏いちかや!!』

「かわいぃーー!」

「絶対俺が手にしてやる!」

「俺はあの子に一千万は出すぞ!」


 好き勝手言ってくれるものだ。

 ボクに一千万レベルの価値ないってのに、勿体無いことするなぁ。

 でも、購入する側としては毎日ヤることしか考えてないんだろうから、ボクは衝動買いするには最適な商品なのかもしれない。


『この通り、最高にエェ女やからなぁ。スタート価格は高めにいくでぇ?』

「どんとこーい!」

「最初がどうだろうと絶対買ってやるー!」

『ハハッ、えぇ声聞こえたで! ほんなら容赦なくいくでー、スタート価格はぁ、二百万や!!!』


 うっはぁ。たっけ。ボクは二百万ものの価値があるみたいだ。

 別に嬉しかはないけど。


「よっしゃ、俺は二百五十!!」

「三百!!」

「四百だ!」

「らち明かねぇ、七百万!」

「んなっ、セコイぞてめぇ!」

「しゃーねぇ、一千万だ!!」


 ホントに一千万まで価格跳ね上がっちゃった。

 しかし、金使い荒いなーこの人たち。

 眩しいスポットライトの光に目を細めながら、客席のお客さんを一目してみる。

 うーん、未成年のボクがこんなこと言っちゃうのもイキってるみたいだけど、今後の日本は大丈夫なんだろうか......。


『さてさてさて〜、価格がばんばん上がってるけど、他には名乗りあげる人はいまへんか〜?』


「はい!」


 誰もが静まり返る中、一人若いフードを被った青年が手を挙げる。


『おっ、そちらのお若そうなお兄はん! 一千万越えを出しはりますか!?』

「いや、俺は出さない」

『だ、ださない?』

「あぁ、盗んでいく!!!」


 その青年の一言とともに客席の後ろから大きな爆発音。幸いにも客は誰一人として座っていない。

 だがその爆発に、驚かない人間がいないわけもなく。客はワーワー喚きながら我先にと会場から逃げようと動き出す。


『なっ、こいつはアカン! 対馬はん!!!』

「......」


 どこからともなく現れたパーカーの少女がフードの青年に飛びかかる。


「............!?」

「残念でした。超腕利き人さらいの相棒がいることは既に調査済みさ」

「なっ、なんやと!?」


 対馬と呼ばれていたパーカーの少女の飛び蹴りが、青年の顔面スレスレで止まった。

 ガタイが良く、服の上からでも分かる筋肉質な体をしたグラサンの男がフードの青年の盾になったのだ。


「邪魔だ......」

「へっ、なら力ずくでどかしてみやがれ!」

「ありがとよ、万津よろづ。ここは任せた」

「いいから、お前はさっさと目的を果たせ!」


 万津、と呼ばれた筋肉質の男が対馬と交戦し、フードの青年はステージに向かったゆったりと歩いてくる。


「えぇい、めんどい! ほれ、こっち来ぃ!」


 司会の男がボクの腕を引いてステージ袖に逃げようとする。

 が、その先には白衣を真っ黒に染めたような服を着た怪しいロングヘアーの女が立っていた。


「だっ、誰や!? あんたもやつらの仲間かいな!」

「えっへへ〜〜、そーでーす」

「悪いけど、俺は女にも手加減せん!!」


 男は黒衣の女に殴りかかる。

 しかしその拳は後ちょっとのところでピタリと動きを止めた。


「なっ、なんや、こ、れ?」

「オークション開始前にあんたのお茶に混ぜといたんだぁ〜。効くでしょぉぉ?」

「ち、くしょ......」


 女は手に持った真緑色の液体の入った試験管をフリフリして笑う。

 なんだこの子。気味悪い。

 ボクのそんな気持ちはつゆ知らず、女は黒衣のポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。


「あ、もっしもーし。 うん、私私〜、心野ここんのだよ〜。そそ、作戦は成功しました〜。うん、警察呼んじゃっていいよ〜」

「おいおい、心野ここんの。まだちゃんと盗めてないんだから、作戦成功の合図は早いだろう?」

「おっと、こりゃぁごめんよ早岐はいき


 え、早岐はいき

 早岐って、ボクの知ってるあの早岐!?


「ハハッ、ほら、驚いて目が点になっちゃってるじゃん」

「ま、正弥まさや......?」

「久しぶりだな、一夏!!!」


 青年はフードを外し、サムズアップで顔をボクに近づけた。

 その顔はやはり、ボクの彼氏である早岐はいき正弥まさやだった。

 

「ぼ、ボクは......ど、どうして?」


 驚き過ぎて言葉がうまく出てこない。

 正弥はボクのことを助けに来てくれた。こんなに嬉しいことはない!


「わぁ〜、私、ボクっ娘初めて見た〜〜」

「説明はあとだ、あと。一夏、俺たちについて来てくれ」

「う、うん!」



 こうしてボク、現川一夏はオークションで買われることなく助けにきてくれた正弥に救われたのだった。

 だけど、ボクが後々正弥たちについて行ったのに後悔することになるとは、まだまだ知りもしなかった。

 

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