No.60 何で何で何で何で何で何で?


「はぁあ! もうホンット意味わかんないんだけど!!」


 私、現川うつつがわ一夏いちかは廊下をドスドスと足音を鳴らして歩く。後ろには四人の友達が付いて来ている。

 ブツブツと私は文句を垂れ流しながら、いつものたまり場である屋上にたどり着く。

 みんな一通り落ち着いたところで、フェンスに寄っかかったり地べたに座ったりして話を続ける。


「ホントそれなー。マジなんでうちらが怒られんの?」

「わけわっかんなくね? てかさ、あの女がチクったってことっしょ?」

「そーゆーことよね。うっわ! 今になってすっごい腹立ってきた」

「伊福貴のクセに調子乗んなって感じだわ」


 とみんなは思い思いの感情を吐露する。

 先ほど、生徒指導室で担任の伊福貴いふきと生徒指導担当の愛宕あたごに指導を喰らった。

 というのも一昨日、私たちは一人の不登校生を軽くリンチにしたのだ。

 そのことが何故か分からないが教師にバレてしまい、放課後呼び出される羽目に......。


「あのチビ女、マジ許せないんだけど」

「それはうちらも一緒だって」

「どーする? どうせ義務教育だし、退学にはならないっしょ?」

「あの女の家、突き止めて押しかけちゃおうよ!」

「ちょ、もうほとんど犯罪じゃーん!」


 黄色い声ではしゃぐみんな。でも私は全然そんな気分にはなれなかった。

 どうしてもあの女に、五島ごとう椿つばきに一泡吹かせてやりたい。


「もうあの動画ネットにあげちゃうわ」

「えぇ!? 一夏それマジで言ってる?」

「当たり前じゃん。私、あいつのこと一生かかっても許せないと思うし」

「いや、でもさすがにそれは」

「うっさい!」


 ハッ。つい大きい声が出てしまった。

 ダメだ。私は性格的に自分の思い通りにいかなかったらイライラしてしまう。

 別に改善しようとは思わないけど。


「ちゃんとしっかり保存してたからさー」

「あ、そうなの?」

「......あれ?」

「一夏、どしたの?」

「ない、動画がない!」


 どういうこと!? 私はしっかりロックかけてコピーまで取っておいた。なのに、何で動画がどこにも保存されてないの!?

 いや、異変はこれどころじゃない。ラインのアカウントが私のものじゃなくなってるし、ツイッターもアプリごと消去されてる。ていうか、スマホに保存していたはずの履歴とか写真全部消えてる。

 

 乗っ取られた?

 

 いやもうそれしか考えられない。誰かにスマホ乗っ取られて色々弄られてしまったのだ。


「あ〜〜! もう! なんでこんなに上手くいかないのよ!」

「ちょ、一夏落ち着いて」

「ま、そんな日もあるってことだわ」

「ムカつくぅぅー!」

「アハハハ。そんなにイライラしてたら、面白いこと見つけられなくなるよww」


 突然聞こえた感情を人工的に作ったような声に全員が振り向く。いつの間にか私たちの真横でフェンスに寄りかかった男がいる。

 高校生とも見えるし成人しているように見えるブサイクでもイケメンでもない、いたって普通な男。


「何よ、あんた誰?」

「てかいつからそこにいたのよ」

「それな。全然気づかなかったんだけど」

「何、ストーカー?」

「マジで? ホントだったらマジキモいわ」


 みんながイライラしている中で、突然現れたその男の飄々とした態度は非常にカンに触る。

 私たちは男に一気に挑発の言葉をかけた。


「wwwwwww何それw。挑発のつもりw? だとしたら相当レベルひっくいなぁwww」

「は!? 調子乗んなよ!」

「いきなり出てきてキモいんだよ! どっか行け!」

「わぁ、僕すっごい嫌われ者〜〜w」


 どんなに暴言を向けようと、男は口を歪めてケラケラと人工的な笑顔を見せる。

 この男の本心というか、何がしたいのか理解が出来ないんですけど。


「何しに来たのよ、あんた。用が無いなら帰ってくれる?」

「そーそー。うちらまだまだやることあっから」

「ふーん、やることかーww。それって、ヌード動画の拡散かいw?」

「っ!? な、何言ってんの!? そんな自虐行為するわけないじゃん!」

「違うよ〜〜w。君たちが撮った五島椿のヌード動画だよww」

「............あんた、何が目的なのよ」


 この男は何なんだ。よく分からないけれど、とにかくキケンな感じがする。

 味わったことのない感覚。これが本能ってヤツなのかな。こいつに関わるとロクな目に遭わない、と私の中の誰かが訴えている気がしてならない。


「目的って別にぃ〜w? 君たちがすっごいムカついてるようだったからさ。心配してあげたんだよw」

「ハッ。余計なお世話よ。行こ、みんな」


 私はみんなに呼びかけ、屋上を後にしようとした。

 が、男が私たちの前に立ち塞がり、通せんぼ。


「あぁ、もう! 何なのよ!」

「んー、もう理由はなんでもいいやww。何となく君たちのこと嫌いだから、ちょっとやっちゃっていいよねー?」

「は? あんた何言ってんの」

「どけよ! うちら帰るから!」


 私たちのグループで一番背が高く、空手が得意な子が男の肩を掴んでどかそうとする。

 しかし、その瞬間。


「気安く触れんな、犯罪者がw」

「あっ、いだぁぁぁ!」

「えっ」


 何が起こったのかすぐには理解が追いつかなかった。

 男の肩を掴んでいた子は、悲鳴を上げてその場にうずくまる。私たちはうずくまった子に寄り添い、口々に『どうしたの?』と心配の声をかける。

 そしてみんなはその子の押さえる腕を見て絶句した。

 腕は考えられない方向に、関節が無いはずの部分で上向きに曲がっていたのだ。


「いっ、イタイ。イタイよぉぉお!」

「お、落ち着いて落ち着いて。大丈夫だって!」

「いや大丈夫じゃ無いでしょ! こんな曲がってんの見たことないよ!」

「アハハ〜〜。カルシウム足りてないんじゃなぁいww? 骨粗鬆症とかwwww?」


 男は腹を抱えて大爆笑。何だこいつ。マジで意味が分からない。

 人の骨が折れて痛いって言ってんのを見て面白がっている。

 というか、骨折った張本人がこの男だろ!


「お前が、お前がやったんだろ!」

「うん。僕がやったけど、何か問題ある?」

「大有りだし! さっさと救急車呼べ!」

「それに、金払ってもらうからね!」

「いやいやぁww。悪いのそっちだろう? 犯罪者のクセして僕に触れてきたんだからさぁww」


 自分は一切悪くないと公言しているようなものだ。むしろ犯罪者はそっちの方なのに。

 この男はホントに人間なの? 人のことを傷つけてここまで悪かったという感情を見せないヤツ見たことない。


「だいたい犯罪者って何なのよ! 私ら何もしてないし!」

「だからさぁww。一昨日に五島椿をリンチにしたろ? その上ヌード動画まで撮ってwww。立派な犯罪者だねwwwwww」

「は、はぁ!? だから知らないって言ってんでしょ!? これ以上私たちに何かしたら、警察呼ぶよ!」

「どうぞご勝手に?」

「っ!?」


 何なのよ、こいつ!!

 警察に通報すると脅しても一切動じない。


「ふざけんじゃないわよ! 犯罪者はお前だろ!!」

「学習能力のねぇバカガキだなぁwww」


 私の中学校最初の友達でもある女の子が男に蹴りを入れる。それなりに綺麗な脚の上がり方で入ったかと思いきや、


「あとさ、僕のことを犯罪者って言うのヤメろwww。一番殺したくなる言葉だ」

「ひぃっ!」


 口が裂けるんじゃないかというほどの三日月型で笑う男。その表情と言葉の温度が一致していなさ過ぎで、鳥肌が立つ。

 男は簡単に蹴りを手で受け止め、グッと手に力を込める。


「あっ、ぁぁぁぁぁあ! ヤメッ。いった、いっ!」


 バキボキと鈍い音と共に蹴りを入れた子は、後ろ向きで派手にぶっ倒れた。意識はあるが、どうやら足の骨を折られたようだ。

 握力どんだけあるのよ......。


「も、もうやめてよ! 私たちに何の恨みがあるのよ!!」

「恨み、恨みかぁw。強いてこんなことする理由を言うなら〜、何となく存在がウザいから? とか!」

「あんた、おかしいわよ!」


 完全に狂ってる。人間の考えるようなことじゃない。そんな私情で人をこんなに傷つけることが出来る人間、絶対にいない。


「なんで、どうして人をこんなに痛め付けて楽しめるのよ!!」

「ねぇ、君はさぁw。人のこと言えないんじゃなぁいww?」

「は、はぁ?」

「これまで何人も不登校生をリンチにしてきたんだってねぇww。これってさ、君たちがしてきたことと何か違うかなwww?」


 く、くそ! ぐうの音も出ないとはこのことだ。

 確かに私たちはこれまで何人もイジメをしてきた。それも今のこいつみたいに理由は大したことじゃない。一方的に、人権なんて考えず。


「あ!! 理由見つけたよ! これまで悪事を働いてきた君たちに正義のヒーローである僕が制裁を喰らわしに来た、とか!」

「制裁なんてレベルじゃない!!! 立派な犯罪よ!」

「犯罪か〜〜w。僕はその言葉が世界一嫌いなんだ」


 何言ってんだこの男は。今やっていることが犯罪と言わないで何とする。


「お、お願いします......」

「ん〜w? 何だって?」

「許してください! これ以上は、もうやめてください!」


 一人の女の子が、私の隣で泣きベソをかきながら男に懇願する。男の前で土下座の姿勢を取る。

 すると男はニンマリとほくそ笑み、しゃがみこむ。


「許すって、何をなんだいwww? 僕は単純に君たちがムカつくから痛めつけてるだけだよ」

「わ、分かってるんです! あなたはこれまで私たちがいじめてきた子の知り合いなんですよね? だから、だから私たちに復讐のつもりで......」

「アハハ! 何それ~ww。面白い憶測だねぇwww。面白いから、君だけは許してあげるよw」

「えっ!?」

「だから、許してあげるってw」

「ほ、ホントに......?」


 そんな......。何でこの子だけ許してもらえるのよ。

 謝ったから? でも私にはこの男は謝れば許してくれるような男には見えない。

 ていうか、まさか私たちを置いてこの子は自分ひとり逃げるつもりなの?

 いや、さすがにそんなことはしないだろう......。


「そ、それじゃぁ。じゃあね!」


 した。

 簡単に躊躇い無く私たちを見捨てた。

 男はその子が屋上を後にしたのを見届けると、その方向に向かって呟く。


「あの子もバカだねぇww。仲間を見捨てて今後生きていけるつもりだったのかなぁwww」


 この男、最初からこれが狙いなのか。単純に傷つけるだけではなく、精神的に追い詰め挙句の果てに友達さえも裏切らせる。

 こいつ今更だけど、ヤバイ......。


「えっと。そんじゃ、最後にwww」

「きゃぁぁっ!?」


 男が懐から取り出したのは、拳銃だった。私にはこれがどんな種類でどれほどの威力を出すのかも分からない。でも、これがモデルガンだとは思えないのだ。男からは殺気も悪意も感じられず、ただただこの場を楽しんでいるようなオーラを醸し出している。


「ほ、本物?」

「もちろ~んww僕がここでモデルガンを見せて脅しても意味ないしー」

「いやぁぁぁぁあ!!」


 無傷の女の子に躊躇なく銃口を向ける男。その悲鳴を愉快だと言わんばかりに口の端を歪める。


「ヤメテ!! 撃たないでぇぇ!!」

「すっごい必死だ~ww。人間の死に間際の瞬間って、ホント滑稽だよねぇwwwww」

「あんた、イかれてる......」


 私がポツリと呟いた言葉にピクっと反応すると、私に向き直り言った。


「よし、逃げていいよ」

「......え?」

「逃げていいよ、一人だけ生け贄を置いていくことを条件にww」


 生け贄。それはおそらく銃弾の餌食になる人を一人残せということだ。

 私以外の全員がその言葉に動揺している。顔を見合わせ、お互いに自分は残りたくないという意思表示的な顔を見せる。

 だけど、私は全然動揺していない。何故か? そんなの簡単よ。

 私はこのグループでリーダー的な存在だし、スクールカーストも頂点に君臨していると自負しているから。誰も私に逆らわないし、私に言うことは何でも聞く。私が中心に回っているってことよ。

 だから私がここに残ることはないのよ。みんなが私のことを考えて行動してくれるからね。

 つまり、私が心配する必要は何一つとしてない。


「ねぇ、一夏?」

「ん? 何?」

「一夏、......残ってよ」

「......は、はぁ!? ちょ、どういうこと!?」


 意味が分からなかった。私中心のはずなのに、足を折られた子は、私に残れと言い出したのだ。


「それが、普通じゃない? こうなったの、一夏の責任じゃん」

「いやいや意味分かんないし!! ねぇ、みんな? どう思う!?」

「わ、私も......、一夏が残るべきだと思う......」

「あん!? どうしてそうなるのよ!! 私、あんたたちに何かした!?」

「うるっさい!!」


 突然大きな怒号を発したのは、腕を折られて黙っていた子。

 その表情は俯いたままで、よく分からない。


「一夏、うちも一夏が残るってのに賛成だよ」

「......そんな。何でよ!!」

「当たり前でしょ!! 分からないの? これまでリンチにしたりしてきたのは、全部一夏がやろうって言ったからだよ。だったら、こうなったのだって一夏のせいじゃん!!」

「......い、いや私は......」


 どうして。何でなのよ。

 裏切られるなんて思ってもみなかった私は、どう反論していいか分からず言葉が詰まってしまった。


「は~いwww。話し合いは終了したかな~ww?」

「えぇ、一夏が残る」

「ちょっと......。ちょっと待ってよ!!」

「りょうか~いwwww。んじゃ、その他もろもろは帰っていいよ~w。おつかれっした!!」


 無傷の女の子に、足を折られた子と腕を折られた子がそれぞれ肩を掴み屋上を降りていった。

 私はそれをどうすることも出来ずに、地べたにへたり込んでただボーっと眺めてしまっていた。


「残念だったねww。最後の最後で裏切られちゃうとは~」

「わ、私は......」

「あ、そうだ。一つ気になったことがあって」

「何も、......何もしてないのに」

「君さ『私、あんたたちに何かした?』って訊いてたけど」

「悪くないのよ。犯罪者は逃げたあいつらなのよ......」

「君は、何かしたんじゃないよ。

「......死にたくない。殺されたくないぃぃ」

「あの子たちに、君が何かしてあげたことはあるかい? ないだろう?」

「生きたいよぉ......。まだ早いよぉ」

「君の罪は重い。友達、いや。友達もどきに何もしてあげなかった。これが君の罪だ」

「......いやぁぁぁあ」

「って、もう聞いてないかwwww」


 イヤ、イヤよ。どうして私が。何でよ、理解できないし、したくもない。

 この男のターゲットにされるようなヤツは他にもいたはずじゃない。

 いや、むしろ私を見捨てたあの女のほうがこんな目に遭えば良いのよ!

 どうしてこうなったの? 私は何を間違えたのよ。

 犯罪者だから? 美少女だから? クズだから? いじめっ子だから?

 人に迷惑をかけてきたから? 社会に必要とされる存在じゃないから?

 先生を舐めてるから? 校則を破ってばかりだから? 授業をサボりまくってるから?

 背が高いから? スタイルがイイから? 見た目が人目を引くから?

 マナーがなってないから? 礼儀が分からないから? モラルがないから?

 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 

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 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 


の、何が悪いんだよぉ」

「へぇ、君も猫被ってたんだぁwww」


 極限に追い詰められたボクを見て、ニヤリ満足そうに笑う男。

 そのまま銃口をボクの眉間に向ける。

 そこでボクの意識は完全に無くなったのだった。




「ちょいちょいちょい!! すっとぉぉぉぷ!!!」

「うおっ。......何だ、雲仙かw。何してんのこんなとこで」

「いやいやそのお言葉そっくりそのまま返させてもらうで......」


 俺が屋上のドアを開けた途端に見えたのは、銃を向けられる女生徒と銃を向ける平戸はん。

 今にも引き金を引きそうにしてたもんやから、つい飛び出してしもうた。


「僕はただこの子に制裁を与えようとしてただけだよww」

「制裁ぃ? 何やそれ」

「まぁ、ジャマしないでよwww」

「いや平戸はん撃つきかいな! この嬢ちゃん、もう気ぃ失ってるで?」


 銃を向けられている美少女ちゃんは、その恐怖に耐え切れなかったのか泡を吹いて白目になっている。

 ホンマ、可哀想に。平戸はんに何言われたかされたかは知らへんけど、相当堪えるで今後。


「しょうがないなあwww。雲仙がそこまで言うなら、やめとくよw」

「というかやな、あんた犯罪だけはせぇへんゆうてたやんか。あ、その銃はよぉ出来たモデルガンっちゅーことやな?」

「違うよ~。ほら」


 パアン!!

 甲高い銃声が耳に響く。銃口の先は空に向けられていて、カラスが銃弾に当たり落ちてきた。

 平戸はん、一度も空見てなかったのに何で当てれんねん......。


「そ、そかそか。そりゃ、勘違いして悪かったな......」

「いやいや~、別に良いんだけどさww。雲仙は何しに来たの?」

「それがな、この学校の校長が隠れて人さらいやっててな。今日、めっちゃ高値がつきそうな女の子一人売りたいって言ってきてん」

「うんうんwwww」

「んで、待ち合わせ場所行ってみたらやな。何と高天原たかまがはらはんと超絶べっぴんはんな女の子が抱き合って泣いとんねん!!」


 あれにはホンマビビッたで。

 待ち合わせ場所である体育倉庫に行くと、人さらいの菰田こもだ校長は床にぶっ倒れていたのだ。

 その上高天原はんとべっぴんはんが泣き合うお互いをなだめるように抱き合っていた。

 

「どうしてええか分からんで、帰ろうとしたんやけど。屋上からボロボロの女の子降りてきてやな。上がってみたらこれや」

「なるほどねwww。色々と話が繋がったよwww」

「なぁ、俺は全然分からへんのやけど......」


 俺の言葉を聞こえているくせに聞こえてないふりをする平戸はん。しかもワザとバレるような演技をしとる。何が楽しいねん!!

 俺の心の中のツッコミが決まった頃合いで、平戸はんが口を開いた。


「ねぇ、雲仙?」

「ん、何や?」

「この子、売ったら結構な値段する?」


 平戸はんが泡を吹いて気絶している女生徒を指差す。 


「......ええんか、この子買い取って」

「是非とも買い取ってくれwww。今日買い取る予定だった子は、ゲットできなかったんだろ?」

「そやけど............。ま、ええか!! 難しいことは考えたヤツが負けや! 買い取らせてもらうで」


 いや~、良かった良かった。

 正直サヤはんが俺んとこに人送らなくなってから売り物不足やったからなぁ。

 この女の子、顔もカワええしスタイルもええ。

 売れそうやな!!


「折角だから、この子のお友達も連れてくるよwwww。ちょっと待ってて」

「ほーい。あんたやっぱり人さらいの才能あると思うで~?」

「冗談言うなよwww。僕は犯罪は嫌いだwwwwww」


 やっぱり、イカれてんなぁ。




『次のニュースです。先日未明、市内の中学校にて五人の女生徒が行方不明となっています。さらに校長である菰田こもだ泰時やすときさんも同じく昨日から行方が分からなくなっており、警察は誘拐の線で捜査を進めています。現在行方不明の生徒は、現川うつつがわ一夏いちかさん、............』


 そこまでニュースが流れたところで、俺はソファにふんぞり返りテレビを眺める平戸さんを見る。


「平戸さん」

「ん~? なぁにww?」

「このニュース、何か知ってますよね」

「おいおいおいwww、僕が誘拐したって言うのかいwww? ヒドイなぁ、何でも僕のせいにするなよ~」


 とこの件に関しては無関係だと主張した。

 いや、多分この人は何かしら事情を知っているはずだ。俺の勘がすっごい訴えかけている。

 犯罪嫌いの平戸さんが誘拐するとは思えないが、昨日この人はどこかに出かけていた。それに現川一夏たちを痛い目に遭わせる動機もある。

 でも、


「ホントに、知らないんすか?」

「知らないねえwww。なぁんにも知らないwww」

「まぁ、良いではないか神哉! ザマぁみろって感じで我は大満足だぞ!」

「師匠が良いなら良いんですけど......」


 テレビのニュースを愉快そうに眺める平戸さんは、絶対何か知ってるはずなんだけどなぁ。

 ま、いっか! 

 これにて一件落着!! 


 次はちょいと一休みになるかもなぁ。

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