No.51 スクールカースト上位者はサイコパスより危険?


 

 午前八時十五分。五島ごとう椿つばきは先程担任から聞いた自分の教室にたどり着いた。既に教室内には、椿以外の生徒が登校しているようだった。友人同士で談笑したり、一人スマホをいじっていたりと様々だ。

 

「ふぅ~、行くか」

 

 椿は息を呑み、教室に入った。その瞬間、教室内にいた生徒のほとんどが椿を見る。


「お、おはよう......?」


 引きつった笑い方で、慣れない挨拶をした。それを見た生徒たちは、一瞬ポカンとするもまた何事もなかったかのように自分のしていたことに戻る。

 椿は自分の『五島』という苗字が書かれたシールの貼られた椅子を探す。ようやく見つけた頃には、担任の伊福貴いふきが教室に入ってきた。


「はい、それじゃぁHR始めます......」


 見るからに自信がなくオドオドとしていて頼りがいがない。伊福貴は脇に挟んでいたクラス名簿を開き、生徒を呼び始めた。

 そして、カ行最後に入ったところで言葉が詰まった。


「ご、五島......さん」

「......はい」


 椿は伊福貴の自信無さげな呼び方につられて、小さな声で返事をした。

 その返事を聞いて、生徒たちがクスクスと笑う声がする。居心地の悪くなった椿は、周りからの視線を避けるように縮こまった。




 HRが終了し、一時間目の準備時間。

 五組の教室前には他クラスの生徒が集まって、騒々しくなっていた。


「おい、ホントに来てんじゃん!」

「だから言ったろ。入学式から来なかったってのに、何で今になって学校来たんだろうな?」

「それな。俺、そこまで不登校なら絶対もう学校行かないわ」


 と、男子生徒たちは椿のことを物珍しそうに見ている。椿の美貌は、はっきり言って中学校の教室内には不似合いで、変に目立っていた。


「てかさ、......めっちゃ可愛いじゃん!」

「それなそれな! 噂じゃアルビノって病気で、あんな真っ白いらしいぜ」

「すッげぇなぁ。マジ美少女、天使だなぁ......」


 一人の男子生徒は目をハートにしてべた褒めした。その時、男子生徒は後ろから誰かに小突かれる。


「ちょっと正弥まさや。何デレデレしてんのよ」

「なんだ、一夏いちかか。見てみろよ! あの五島椿が来てんだぜ」

「いや知ってるし。クラス一緒だから」

「あ、そっかそっか。しっかし、すッげぇ美人だよな~。惚れるわ~」

「あんた、彼女が目の前にいるんですけど」

「安心しろって! 俺が一番愛してんのは、一夏だけだ!」

「ひゅーひゅー、いつにもましてオアツイねぇ!!」


 男子生徒は、サムズアップで自分の彼女である現川うつつがわ一夏いちかに愛の告白をした。その様子を見て一夏の彼氏、早岐はいき正弥まさやの友人が茶々を入れる。

 入学式から不登校だった謎の生徒、五島椿が突然学校に来たという事態に集まった生徒たちは、その茶々で一段落ついたといった感じで散っていった。

 

 しかし、そんな和やかムードの最中一人だけ椿を嫌悪の目で睨んでいる生徒がいた。


「あの女。いけ好かない......」

「一夏? どしたん、授業始まるよ~?」

「え? あ、うん!」


 正弥の彼女、一夏はこの時点で椿のことに少なからず忌み嫌っていた。




 時は過ぎて、昼休み。

 椿は自分で朝から作った弁当を食べ、一人自分の机でスマホをいじっていた。ネット依存症が少しは改善したとはいえ、頑張って四時間しか持たないのだ。

 音楽を聴きながら、まとめサイトを見て社会事情を知識に入れることが椿の趣味であり、日課でもあった。

 現在もまとめサイトを閲覧して暇つぶし中である。

 その時、


「あの、五島さん。ちょっとイイかな?」

「む? あ、あぁ、別に構わんが?」


 男子生徒に声をかけられた。断る理由もないので、椿は男子生徒について行く。教室内の生徒たちはそれを見て、ニヤニヤしたりコソコソ話をしたりと期待の目を向けてくる。


 そして連れてこられたのは、体育館裏。人気がなくまさに告白のベストプレイス。

 

「あ、あの、ごめんね。こんなところまで来てもらって」

「い、いや。謝ることではないだろう」


 ペコリと頭を下げる男子生徒。彼は椿と同じクラスで身長も高くサッカー部という、いわゆる爽やか運動系イケメンだ。そんなイケメンが一体自分になんの用だろうと首をひねる。


「あの、俺と、つ、付き合ってください!!」

「え......?」

「だ、だから、俺と交際してください!」

「............」

「五島さん?」

「我と付き合って、ほしい、だと?」


 明らかに困惑している椿。自分が何故告白されたのか理解できなかった。


「その~、返事は?」

「わ、悪いが、ごめんなさい?」


 何故か疑問系になってしまった。椿にとってこの告白を断る理由はなかった。だが、自分は犯罪者の身であることを忘れてはならない。この人に迷惑をかけてはならないし、犯罪者としてあまり人と関わることは避けなければならないだろう。


「そっか......。まぁ、そうだよね。まだ全然お互いのこと知らないもんね」

「あ、まぁ、そうだな。ホント、すまん」

「それじゃ、またね」


 爽やかイケメンは手刀を切ると、どこかに行ってしまった。


「ふぅ~、緊張した~。ひっさしぶりに学校に登校したら、告白されるとはなぁ」


 地味に初告白された椿なのであった。椿も爽やかイケメンを追いかける形で教室に戻り始める。

 

 そんな告白の場を覗き見する生徒がいたことに気付くことなく。


「見た、皆?」

「うん、見たよ。この目でしっかりと」

「どう思う?」

「なんか、余裕かましてる感じがムカつく」

「一夏、なんかする気?」

「当たり前じゃん。あのメス豚に、スクールカーストってもの教えてあげなきゃ」


 現川一夏率いるスクールカースト上位組は、突然やってきた五島椿という存在をよく知りもせず目の敵にしていたのだった。

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