No.38 元殺し屋は急性アルコール中毒?
西海のクスリによってゾンビと化した春昌さん。
部屋の外を見れてないからよく分からないが宿泊客たちもこんな感じなのだろうか。だとしたら結構ショッキングなことになっているんじゃないだろうか。
映画ア○ター程ではないが肌全体が青みがかり口からはだらしなく涎を垂らしている。
そして明らかにクスリでゾンビ化してない俺たちを目の敵にしている様子。
「ウゥウァアア......」
「うーん、動きはおっそいねww」
「......やっぱそう思いますよね」
そう。春昌ゾンビはとにかく動きが遅い。はっきり言って春昌ゾンビが部屋のドアを壊してからもう五分くらいが経過している。
のにも関わらず未だノロノロな動作で部屋の入り口近くを歩いているのだ。
「もしかしてゾンビ化した人たち皆こうなんすかね?」
「どうだろwwwでもそうだとしたらきっとこれは西海も予測しなかったゾンビの動きが遅すぎるというプレイヤーにとってゲームの難しさがぐんと下がる『バグ』って事になるだろうね」
『バグ』か。
だとしたらこのゲームマジ楽勝なんだが。俺がほっと一安心する。
未だむちゃくちゃノロい動きでこちらに迫ってくるが俺と平戸さんはなかなか起きないイクミの両腕と両足を持ち上げ小走りで春昌ゾンビの横を通り抜けた。
春昌ゾンビは俺たちに気付くも、振り返る動作さえもノロノロで追いつかれる気が全くしなかった。
「んじゃ、彼杵たち探しますか?」
「そだねーwwというかなんでイクミがここまで起きないのかが謎なんだけどwwww」
それについては本当に同感だ。
いっつも御主人様~♡って言いながら平戸さんに付いてまわるはずなのに、不思議と目を覚まさない。
「あの~、もしかして、イクミ酒飲みました?」
「ん? あぁ、確かに長風呂してる間に僕とハイペースで飲んでたよ」
「......それって平戸さんと同じ量?」
うんと頷く平戸さん。
なるほど。となるとイクミはおそらく長風呂でのぼせたんじゃなくて、急性アルコール中毒状態なんだな。
というのも平戸さんはとにかく酒に強い。
我が家に集まる犯罪者メンツの中でもトップに君臨する。
順位をつけるならば、一位から平戸さん、サヤ姉、俺、春昌さん、そして同率でカズと彼杵。そんな中イクミはこれまで遠慮して飲酒をそこまで激しくしていたようには見えなかった。
どうやら自分の主人である平戸さんに遠慮していたのではなく、ただ単純に酒に弱かっただけらしい。
「とりあえず僕がおぶっとくよwww」
「お願いします」
平戸さんは小柄ながらも筋力とかはエグイ。ひょいと担いでおんぶした。そして彼杵たちを探しに歩き出そうとしたその時、
「あ、いたいた! 神哉くんと凶壱先輩も無事ですよ!」
「良かったぁ~。大丈夫かお前ら?」
彼杵、カズ、サヤ姉、師匠が廊下の奥から駆けてきた。西海の言っていた通りこいつらもクスリでやられていないようだ。
「これどういうことなのよ。急に宿泊客のほとんどが奇声を発しだしたと思ったらゾンビに急変するなんて現実じゃないでしょ!?」
「それは実は......」
カクカクシコシコとこの状況の説明をする。それを聞いて全員ポカンとしてしまった。
ま、無理もないだろう。急に現実世界でホラー脱出ゲームをやらされるなんて誰も考えない。
「つまりこのホテル内から最上階の鍵を見つけて、ボス的な存在の西海藍衣を倒してホテルから脱出せよ。と言うわけか」
「そっすね。さすが師匠、飲み込み早いです」
「ふっ、ついこの間バイ○○ザード7を一時間半でクリアした我ではないのだ!」
おぉ~すげぇ。あれ、でもアレってR18じゃなかったっけ?
「マッドサイエンティストかー。マジでいたんだな、そんなヤツ」
「ホントですよね。てゆーかあの優しそうなオネーさんがそんな人だったなんて信じられませんよ」
「ごちゃごちゃ言ってても仕方ないさ。さっそく鍵探しと行こうぜ?」
制限時間は設定されてはいないが正直さっさと終わらせて帰りたい。しかし、俺はどうしてこうも犯罪者と出会う確立が高いんだろう。
どっかに行けば変な個性溢れる犯罪者と遭遇しちまう。
「もう、神哉くんが死んだらいんじゃないwwwww?」
「ちょ! 心の声読むのヤメテ!?」
それもう五感のレベルじゃないから。第六感ってヤツだから。
「それじゃ、どうする? 二手とかに分かれるか?」
「う~ん、それはやめといたほうがいいな」
「なんでですか?」
「ほら、携帯圏外になってんだよ。抜かりないぜあの女」
「......ほう、妨害電波と言うわけか」
二手に分かれたとしても連絡手段が無いのでは結局効率が悪くなるような気がする。それに宿泊客のほとんどがゾンビ化しているのなら、固まっているほうが方々に目が見渡せて安全だ。
「な、なぁ? 神哉?」
「どうしました師匠」
「妨害電波と言うことは、ネットが繋がらないということだろう?」
「そ、そうっすね」
あら?
これはもしかして。
「......すまんが、ネットに繋がらないままだと、我、死、ぬ......」
「師匠ーーーーーーーーー!!!」
プツンと糸が切れたようにその場にぶっ倒れてしまった。忘れてた。そういや師匠はネット依存症。十分以上ネットに触れていないと、発作起こして死んだように意識がなくなってしまう。
「あ~らら。荷物が増えたねwwww」
「全然笑えなくない?」
「まぁ、大丈夫でしょ。俺が背負うし。それにゾンビっつっても見かけだけで動きクソノロいしな」
「え? 神哉何言ってんだ。ゾンビがノロい?」
「え、うん。さっき話した春昌ゾンビもめっちゃ歩くの遅かったぜ?」
「いや、嘘付けよ。だって俺らは、って! ウギャ!」
突然カズが足下に異変を感じて下を向き、悲鳴をあげた。なんとそこには一人の男のゾンビがカズの足首に噛み付いていたのだ。
いきなりのことにカズ以外の全員が後ろに飛び上がる。
「うおお!? だ、大丈夫かカズ!」
「大丈夫じゃねえよ!! こいつ力強すぎる! 早く、早く取ってくれ!」
「いや、取ってくれって言われても......」
カズの足首からは血が流れていた。ゾンビがどれだけ強く噛み付いているのか想像もしたくない。
俺がゾンビをカズから引き離しに近づこうとした時、彼杵が手を握って止めた。
「ダメですよ......。ナルシーはもう手遅れです...」
「は?」
手遅れ?
ドユコト?
すると俺の背中におぶわれているから師匠が補足してくれた。
「神哉、知らないのか。ゾンビに噛まれたら大抵感染して噛まれたヤツもゾンビと化すのだぞ」
「え? マジで?」
いやいやいや。別に知らないわけじゃないけど、これはクスリの効果でゾンビ化してるだけで噛まれてもゾンビ化するわけじゃないんじゃないか?
「もう、手遅れよ。行きましょう。カズを助けるためにも」
「そうですね。きっと西海を倒せば都合よく皆元通りになるはずです」
「うむ。それがゲームと言うものだからな」
「ちょっとちょっと!? 助ける前に諦めないで! 普通こういうの助けた後にゾンビに変貌して俺が皆を襲うってシナリオじゃない!?」
早々に諦めモードの女性陣に嘆くカズ。
お前の言い分も分からんではないがゾンビ化されて全員一気にゲームオーバーとか洒落にならないからな。
ここは心苦しいが見捨てよう。俺の決意も固まった瞬間、突如カズが唸りだした。
「うわっ! ホントに感染した!?」
「なんとなくゾンビ映画じゃそういうものだから言ってみたけどまさかホントに?」
「冗談のつもりだったがホントに感染してしまうとは......」
「え、あれ冗談のつもりだったの!?」
「グヮアアアアアアア!」
カズが完全ゾンビ化したことを知らしめるかのように咆哮をあげた。
「ギャーーーーーーー!! 逃げよう逃げよう!」
「ほら、何ボーっとしてんのよ。行くわよ神哉」
「安心しろって。ゾンビの動きはめちゃくちゃ遅いから捕まることはないんだよ」
「だからさっきから何を言っとるんだお前は! ゾンビの動きが遅いわけなかろう! むしろ早いし力も強くなっとるんだぞ!?」
「え?」
皆何を言ってるんだ?
でも確かに春昌ゾンビは動きがノロかった。力もあるようには見えなかったんだが。そう疑問に思ったが、その疑問は一瞬で無くなった。
「グアアアアッ!!」
「なッ!! 跳んだ!?」
「たいさ~ん!」
カズゾンビはなんと驚くほどの跳躍力で俺のほうまで跳んだのだ。その動きは完全に春昌ゾンビとは違う。
正真正銘のクスリの効果が現れたのだった。
次は犯罪者たちがどんどんゾンビ化!?
「てゆーか師匠!? あんた意識あるじゃん!」
「はっはっはー! 我の最強アイテム『ポケットwifi』があったのを忘れていたのだ。これさえあれば起きてられるぞ!」
「じゃぁ背中から降りろよ!?」
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