No.35 怪盗はセクハラで捕まってました?
「へぇ~、大学の教授!」
「見えないですね」
「うふふ、よく言われるわ」
今、俺たちはバイキングレストランにて食事を済ませ、ちびちびと酒を飲んで晩酌中である。
肴には今日知り合ったお色気お姉さんのお話。
「それに薬剤師の資格も持ってるの」
「へぇ~! んじゃ相当頭いいんすね」
ここまでで聞き出せたお色気お姉さんのプロフィールを紹介しよう。
大学で心理学を教える教授だそうだ。ゴムで一つ結びに結わえた髪が揺れる度にドキッとくるものがある。
プルっとした綺麗な唇、出るとこは出ておきながらスレンダー、目元のほくろがとってもチャーミング!
お色気ムンムンな女の人だ。
「どうして大分に?」
「深い意味は無いわ。単純に休みが取れたから観光ってところよ」
「なるほどね。心理学者か~、なんでも行動の本質を見透かすって聞いたけど、ホント?」
平戸さんがニコニコしながら訊いた。すると西海はそれ以上にニコニコして言った。
「そんなことないわよ。って言いたいところだけれど、どうしても分かることがあったりするのよね」
「というと?」
「例えば、そうね。有名なのでいけばよく鼻を触る人は、ウソをついているっていうのがあるんだけど知ってる?」
「あぁ、聞いた事あるわね。敵意があると無表情になるとか」
「そうそう、そういうの。それが仕事上頭に入っているからなんとなくで相手の心理は分かっちゃうわね」
「うっは~wwwコッワ」
大丈夫だよ平戸さん。あなたの深層心理は誰も読み取れないだろうから。だって感情ないからね。
「でも、貴方だけはどうも読み取れない......。ホント興味深いわ」
ボソッと独り言のように呟いた。皆は聞こえていないみたいだったが俺ははっきりと聞き取った。
その時、
「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「うわっ! 何!?」
奇声を上げながら俺たちの座る席に走ってくる男がいた。誰だあれ?
その男は俺の真横に勢い良く座り込み手に持っていた皿をテーブルに置いた。
「やっと見つけましたよ皆さん! ホント何で置いていくんですか!」
「...................................................春昌さん?」
「溜めなっが!! そして何故疑問系!?」
突如現れた男はいつの間にか消えていたこの旅行の発案者、大村春昌さんだった。やっべぇわ。マジでいなくなったことに気付いてなかった......。
「置いていくって言ったってなぁ。春昌さん飛行機いなかったよね?」
「違います! 私は飛行機にいたんです! やむを得ない理由があって飛行機から降りられなかったんです...」
「やむを得ない理由?」
「そうです! 実は、飛行機のCAさんのお尻とか胸を触りまくってたら副機長に取り押さえられて拘束されていたんです」
.........あんたが悪いだろ、それは。その場にいた全員が心の中で思ったことだろう。
「セクハラで逮捕されれば良かったのに」
彼杵がジト目で春昌さんを見る。しかし春昌さんはそんな視線を物ともせず、こぶしを握り締めて言った。
「いいえ! これは悪いのは完全にCAさんの方です。あんなむっちりぴっちりな制服で胸元も結構開きめのエロ全開の格好をしていて、セクハラされないと思うほうがおかしいでしょう! 全国のCAさんは絶対セクハラされたいビッチに決まっています!!」
「全国のCAさんに謝れ」
この人はもうダメだ。平戸さんとは別の方向に頭がイカれてらっしゃる。
全員が呆れてはぁとため息を吐く。こいつには何を言っても変わらないだろうなという諦めがひしひしと伝わる。
「ところで、先程からここにいらした色気全開のお姉さんはどちらさんですか?」
「ん、あぁ、できれば春昌さんには紹介したくないですけど紹介しますね。こちらは心理学者の西海...アレ?」
いない。
さっきまで俺の目の前にいた西海さんが消えている。どこにいったのかと周りを見渡すが見当たらない。
「いつの間にかいなくなってるなんて」
「幽霊ってやつデスカネ!」
「いやイクミそれシャレになんねーから! 何でそんなにキャピキャピしてられんだよ!」
マジで怖いから止めて欲しい。こんなに高級なホテルでも幽霊の話はあるのだろうか。気になるなー。
「春昌くんのキモチ悪さを感じ取って逃げちゃったんじゃない?」
「サヤさんまで私にひどくないですか!?」
うん、そうだと信じよう。西海さんは春昌さんがイヤでどっかいったに違いない。こう考えておかないと実はホラー系が苦手な俺は眠れる自信がない。
そして夜も更け外はもう真っ暗。皆は今回どうして旅行に来たか覚えているだろうか。
おさらいすると春昌さんが架空請求詐欺で騙され(俺がやった)、傷ついた心を癒そうと言う傷心旅行なのだ。そんなわけで一番重要な温泉に入ることとなった。
ここ杉○井ホテルでは風呂場が三つあり『みどりの湯』、湯船が五段に分けられ棚田状になっている『棚湯』と水着着用での混浴施設『ザ アクアガーデン』がある。
アクアガーデンは夜になると光や音を使った噴水ショーが行われる。まぁだからこっちはゆっくり休む温泉というよりかは大勢でワイワイするレジャー施設な感じだ。
棚湯とアクアガーデンは更衣室から行き来できるのでまずはアクアガーデンに集合することとなった。
「おぉ〜。なんかめっちゃ種類あるな」
「そだな」
「温泉って言うよりかはプールっぽいねww」
「でもホラ! あったかいですよ! 温泉です温泉!」
春昌さんは我先に着替えを済ませ湯船に足を入れては出してを繰り返し楽しんでいる。
……ま、この人の傷心旅行だからとやかく言うつもりはないけどもう少し年相応の動きをしていただきたい。
その足の出し入れは可愛い女子がやりますからあなたはしないでくださいよ......。春昌さんから後ずさりで距離を取っていると、突然誰かに後ろから手で目を抑えられた。
「そーのぎ!?」
「いやあのさ、それ『だーれだ!』って言わなきゃだからな? 知ってる?」
ベタな行動は絶対しない彼杵は『だーれだ!』ではなく『そーのぎ!』と自分から名乗りを上げていた。
そんな彼杵の手を外し、振り返る。その瞬間、
「……かわい」
「はっ! 今神哉くんなんて言いました! もっ回言ってもっ回!」
「ぐっ! うるさい! なんも言っとらんわ!」
「なんでそこでツンデレるんだよwww」
「普通にかわいいって言ってやりゃ良いのに」
彼杵はベタな行動はしないだろうが俺はベタに生きる男なんだよ。ここはまず男も女もデレちゃうシーンのはずだ。
彼杵はデカイ胸を惜しみなくさらけ出すタイプのビキニ。真っ赤で派手な色は見た目からしてはしゃぐタイプの彼杵だからこそ似合っているような気がする。
「ふっ、この水着は生理にも対応してるんですよ。赤だから!」
「いっつも一言余計だよなー」
「彼杵、一応公共の場なんだから下ネタは避けなさいよ?」
「我には言って良いぞ! 我も生理きてるから! 大人だから!」
次にやって来たのはサヤ姉と師匠とイクミ。
サヤ姉は黒のフリフリした水着にヤシの木の柄が入ったパレオを身に付けている。師匠はアルビノによる純白の雪のような肌に合わせて白い女の『子』用の水着。決して胸がないことを遠回しに卑下しているわけではない。
最後にイクミは青を基調とした花柄のビキニ。赤毛の髪が反対色になって目立つことには目立つ。
「ブッヒィィィィ! 皆さんやばいですね! 可愛い、美しいを通り越して天使ですよ、エンジェルですよ!」
「キモい」
「ブヒャァァァ……」
興奮した春昌さんは彼杵の一言で撃沈。湯船に沈んでいった。確かにちょっと、というかだいぶキモかったな。
「春昌はほっといて早く湯船に浸かろう。いくら初夏とはいえ夜は冷えるぞ」
「そっすね。んじゃ入りますか」
師匠が鳥肌のたった腕をさすりながら湯船に入っていく。それに俺たちも続く。アクアガーデンには十一の種類に分けられた湯船があって俺たちが入ったのは展望スパ。
湯船に浸かった途端に浸かった部分と浸かってない部分の温度差で全身がブルっと震える。
「ふはぁ、いーい湯っだーな、ハハハ」
「神哉くんは相変わらず王道を進みますねー」
「久々聞いたなその歌」
「ホント典型的な男よね」
急に俺をめっちゃ王道路線を突き進むキャラにするのやめてくれないかな君たち。
「御主人様! ワタシたちはこんな人がたくさんのところよりも、部屋のお風呂で二人きりでゆっくりシマセンカ? お背中お流しシマス!」
「うーん、別に良いよ。でもなんでだい? 人が多いのイヤ?」
「いえ、そういうわけではないデス。しかし、今日は御主人様をさらに酔わせてワタシをめちゃくちゃにしてもらう予定なので......」
おいおい、心の声漏れてるぞ。しかし、イクミはマジで御主人様しゅきしゅきだいしゅきだな。
そして二人は湯船に浸かって数分で上がってしまった。その後のことはもう知らん。どっちも大人だしどうにでもなるだろう。
「あのぉ〜?」
「え、あ、はい? なんでしょう?」
ボケーっと夜景を眺めていると突然女の人から声をかけられた。見れば手を胸の前の水着に置き押さえているようだ。
「すいません。水着の紐がほどけてしまって......。私、体が固いので届かないんです。結んでもらって良いですか?」
「はっ!? いや、それは......分かりました」
なんてこった。暗くてよく見えないけど結構胸大きいぞこの人。肌をスベスベで綺麗だし童貞の俺としては堪え難いイベントなんだが......。
顔もそれなりに整っているし頭には一本だけピコンとはねた寝癖が......、ん?
「その寝癖頭、どっかで見たことある気が......」
「ちょ! これ寝癖じゃないですから!! アホ毛ですから!!! チャームポイントですから!!!!」
「あっ!
「は?」
いやそんな『誰?』みたいな顔しないでよ。
何回も会ってるでしょうが。傷つくだろ。意外と俺メンタル弱いんだよ。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! やっぱり誰が見ても寝癖じゃないか! これでお前の『ソレ』は寝癖ということが証明された」
「あーも、先生静かにしてください! 割り込まないでくださいよ。また私の婚期が遠のきます」
「はっ! 遠のけ遠のけ! そのまま永遠と私の事務所で労力を費やしてもらうわ!」
「チクショー! 見てろよ......。いつかぜってぇ泡吹かせてやる」
ちょっとちょっと? 最後怖いよ女乃都さん?
松浦も相変わらず口が悪い。
「アレ? あなたどこかで会いましたね?」
「あの、結婚詐欺師の佐世保の友人です」
「えっ!? あ、高天原さん!? うっそー! 分かんなかった」
「なんで急に親密になるんだよ。あんたとは結婚しないから」
「チッ!」
聞こえてる聞こえてるよ。舌打ちスッゲェ聞こえたから。
知らない人のためにお教えしよう。
この二人は松浦法律事務所に所属する弁護士さんなのだ。男の方が松浦。こっちは勝つためなら何でもする違法弁護士。
女の方が女乃都。こっちはあくまで普通の弁護士。ただ、だいぶんポンコツらしい。
「今日はどうしてここに?」
「見ての通り! 婚活です!」
「そんなアホみたいな誘惑でよくもまぁ男が食いつくと思ったな女乃都! そんなので釣れるのは童貞くらいだぞ」
……童貞なんですが。
「えぇーい! この社員旅行という名目上の婚活を逃すまじ! 絶対事務所辞めてやる!」
そう叫んでまた女乃都は水着の紐がほどけたから結んでください誘惑をしに行った。
「君はここにお一人で?」
「んにゃ。友達一同で来ましたよ」
「なるほど。まだここに泊まっていくのですね。だったらまたその内、会いそうですね」
松浦はそう言い残して女乃都を観察し始めた。あんたも暇だな。
あー、なんか人と喋って疲れたな(コミュ障あるある)。あいつらのとこ戻るのも良いけどちょっと一人になりたいな。
俺は更衣室に行ってそのまま男湯女湯に分かれている棚湯の方に行くことにした。
次はあの人身売買のプロと密談!?
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