No.31 凸って来るやつ暇なの?


「クソガキフルボッコにしてやるわ!」

「いいぞ! やってやれ高天原!」

「昔は詐欺売り上げトップだった高天原くんなら絶対ぎゃふんと言わせられるよ」


 架空請求業者に電話を掛ける動画を見て自分も掛けてみようと考えるクソガキを倒すべく俺は久々に燃え上がっていた。

 ここで架空請求業者の仕事を紹介しておこう。まず主にアダルトサイトのワンクリック詐欺、年齢確認や画像のクリックで会員登録がされてしまい高額な請求が来るといったもの。利用している人間は不安になり金を振り込むのだ。

 その画面にある電話番号、それに掛けてしまうとこちらが電話番号を知ることができて架空請求電話が起こるのである。


「いつ頃掛かってくるとか分かるんですか?」

「んー、はっきりとした時間は分からないんだよね」

「ガキが暇になったら掛けてくんのさ」


 島原先輩は相当いたずら電話に迷惑しているようだ。今日で俺が終止符を打ってやる。

 その時、事務所の一つの電話が鳴った。


「キタ!」

「おっしゃ、高天原神哉イッキまーす!」


 俺は受話器を手に取った。

 すると、


『おいホントに繋がったぞ!』

『マジかwwなんか喋れって』

『うん、あ、もしもーし?』


 どうやら相手は複数人のようだ。

 まずは普通に請求業者として振舞っておく。


「ハイ、お電話ありがとうございます。どうされましたか?」

『いや、いやどうされたって言うかどうもしてないんですけどwww』


 電話の奥で爆笑する声が聞こえる。何が楽しいんだろうか。


『あ、スイマセン。友達がなんか言いたいことがあるらしいんで変わりますね』

「ハイ」

『こんにちはーーーーーーーーー!』

「うッわっ!」


 ビビった...。いきなりデケぇ声出すなよ。


「こんにちは、何かお話したいことがあるそうですが」

『ハイ、僕男の子が好きなんですよ! どーしたらいいすかね?」

「はぁ?」


 意味が分からない。いきなりゲイ宣言されたところでこっちは何も出来ない。


「男の子が好きなんですか。だったら本能のまま生きてみてはどうでしょうか」


 俺は真面目に答えた。が、電話から聞こえるのはその答えを聞いて爆笑する声だった。


『お兄さん、童貞ですかー?』

「はぁ!?」

『ヤッたことないんでしょ』

「うっせぇわこのクソガキが! 暇だからって電話してくんじゃねぇ!」


 あまりの話の意味の分からなさにカッとなり、ガシャンと受話器を投げ捨てた。

 何なんだ。思っていたよりもふざけているんだけど。


「な? イライラするだろ?」

「自分たちで意味の分からないことを言って相手の反応を楽しむタイプのやつだね」

「あんなのがいつも掛かってくるんすか!?」

「「そう」」


 島原先輩と社長は声をそろえて言った。


「もしかしてなんですけど、事務所に全く人がいないのって......」

「ガキの相手すんのはもううんざりだって、皆出て行っちまったんだよ」


 マジかよ。

 ユーチ○ーバーの影響力すさまじいな。彼杵は横で聞いていて自分の見解を話し始めた。


「これはあれですね。ユーチ○ーバーがあんだけふざけてるんだから俺たちも大丈夫だろって舐めきってるんですね」

「そういうことだろうね。ホント、いい迷惑だよ」


 社長ははぁとため息を吐いてソファに座った。社長もだいぶ気が滅入っているようだ。

 それもそうか。事務所からどんどん仲間が出て行くんだもんな。

 その時、また電話が鳴った。


「ハイもしもし」

『あ、もしもし。あの、会員登録になっちゃってここに電話したんですけど......』


 お!?

 これはマジモンで引っかかったんじゃないか?

 俺は受話器を手で押さえ社長と島原先輩に声をかけた。


「今の聞いてましたか? 引っかかったっぽいですよ!」

「あー? あぁ、その手の話し方はダメだ」

「そーだよ。多分いたずらだよ」


 社長と島原先輩はやれやれと首を振った。

 どういうこと?


『あの、お金って払わなきゃなんですか?』

「そうですね。会員登録が完了されておりますので振り込んでください」

『そんな! でもでも僕、お金持ってないんです』

「そう言われましてもこちらとしては払っていただくしかないんですが。もしお支払いいただけないのであればお客様の個人を特定し、業者に回収に向かわせます」


 俺がそう言うと、突如として弱弱しかった相手の口調が一変し、ハキハキした話し方になった。


『ちょっと待ってくださいね。今、個人を特定すると言いましたね? その行為はあきらかに法律違反ですが、そこについてどういったお考えをお持ちなんでしょうか?』

「は、はぁ、それはですね......」


 うおぉ!?

 急になんだコイツ!

 俺が言葉に詰まると島原先輩が切れと合図してきた。俺は急いで電話を切る。


「今のはわざと騙されたフリをして、こっちが尻尾を出したときに攻めてくるタイプのやつだね」

「そんなのもいるんすか!?」

「こんなもんじゃないぞ。今日はまだマシなほうさ」


 マジかよ......。

 迷惑極まりねぇーーー!


「でも高天原くん。今のでどんな感じのやつらが掛けてくるか分かったでしょ?」

「次は完全論破してくれよ! 高天原!」

「......スイマセン、社長、島原先輩」

「ど、どうしたんだ。まさか、出来ないなんて言うなよ」

「俺にはこの問題は解決できそうにありません......」


 俺はガクッと肩を落として淡々と話した。社長は目を丸くして驚いている。


「何でなんだい高天原くん! 君は昔、最強の口達者架空請求業者、ゴット高天原と自負していたじゃなか!」

「そんな俺でも、子供の相手は無理です。だって、」

「だって?」

「こっちが全面的に悪いことしてますもん。犯罪してるんだから。捕まらないだけマシだと考えましょう」


 癪なことに電話を受ける側の俺たちは犯罪をしているのだ。正論を言われてしまえば、こちらは反論することはできないのだ。


「そんな、高天原でも無理だなんて......」

「あの口達者だった高天原くんなのに......」

「最初にクソガキフルボッコにするとか抜かしてたくせに......」

「めちゃくちゃ自信満々で受話器を取っていたくせに......」


 社長と島原先輩の周りにはとてつもない負のオーラが立ち込めていた。というかめっちゃ俺のことディスってない?

 まぁ俺も二人に悪いなとは思うが、さすがにこれは無理だ。 なんといっても精神的にキツイ、ダルイ、メンドイのだ。

 そりゃ、イヤになって事務所を出て行くわな。まだ、普通に仕事して客のクレームに対して謝るほうが楽だ。

 俺まで暗い気持ちになってきた時、


「あの~、相手を言いくるめられる喋り上手がいいんですよね?」

「ん? あ、あぁそうだな。お嬢ちゃん、いけんのか?」

「彼杵、これ思ってたよりも精神的ダメージが大きいぞ。金が入らないと分かっているのに相手しなくちゃならないんだから」

「だから、いるじゃないですか。精神的ダメージなんて物ともしない人が」

「......誰?」


 いるか、そんなやつ。精神的ダメージを受けないで喋り上手。

 .........あ、一人思いついたわ。彼杵はおそらくあの人のことを言っているのだろう。


「あの、スーパーイカれたサイコパスのことだな?」

「そうです、超絶イカれたサイコパスのことです!」


 うん、確かにあの人なら相手を言い負かすことも出来るかもしれないな。


 次はサイコパスが電話で対決!?

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