さくらさくころ、こいみのるころ
いちたろうざむらい!
第1話 プロローグ
白いメガネを軽く揺らしながら一人の男が、閑散としたきれいに掃除された廊下を軽やかに走っていた。
階上大和。
クラスのトラブルメーカーでありながら、鉄道や歴史、法律などの幅広い知識量を武器にしている。彼が多くの人に慕われている理由の一つに、知識の使い方がある。普通の中途半端な知識人は、自分の持つ知識に誇りを持ち、それを度々用い人々を蔑んで自己満足いる。だが、大和は違っていた。小学校の教師を夢見て、いつもその知識を誰に聞かれてもわかり易く丁寧に回答することを心がけている。
バレンタインデーの翌日であったが彼にチョコをくれる人など勿論いるはずがない。彼にとっては、そんなことはどうでも良かった。それよりも、五年生との戦争に勝つほうが大切だった。それもそのはず、彼の所属する六年三組の洛西日向が、五年三組の集団に襲われて以降、戦いが激化していたからだ。軍事モノ好きの彼は、参謀として二〇分休みに、敵が攻めてきた時の対処法を考えていた。相手が、あそこから攻めてきたら困るから自分たちは教室に隠れて徹底抗戦しようなどと、頭のなかでシミュレーションを繰り返していた。こんなときも仲間の為を思って、知識をフル回転させてしまうのが彼の問題点である。確かに、小学生の頃から三国志を初めとする数々の歴史の本を読みふけっていた彼の手にかかれば、五年生など赤子の腕をひねるようなものだ。そのため、立つ鳥跡を濁さずをそのまま形にしたような証拠隠滅まで作戦を構成するので、先生を挟んだ話し合いになった時に説明が難しくなってしまうのだ。
ところが、あるクラスの教室の前で彼の足は止まった。目線はある一点に向かっていた。その先には幼稚園からの幼馴染である高井田春樹の姿があった。そして、彼の後ろには、真っ白なセーターと黒と白の水玉模様のスカートでおっしゃれにいつもより決めている本牧亜莉沙がいる。彼女は、ピンクのテープが巻かれた小さな袋を持って春樹の肩を叩く。肩を叩かれた春樹は、いつも大和が同じことをした時のようにムッとした顔をせず教室の隅でその袋を受け取るとホクホクと自分の古ぼけだランドセルに突っ込んでいた。その光景が、二人を見ると大和の頭にいつも浮かんでくるのであった。
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