寿司屋デート

青葉台旭

1.

 次のデートは寿司屋で、という事になってしまった。まさか、こんなに悩むとは思わなかった。

 彼女と付き合って半年になるが、最初のデートの時よりも、二回目のデートよりも……とにかく今回の寿司デートで一番悩んだ。

 で、会社の先輩に相談した。実家が金持ちで女遊びもそこそこやるという噂の人だった。

「寿司屋デートって、どんなもんですかね」

 ある昼休み、会社近くのハンバーガーチェーンでコーラを飲みながら先輩に聞いた。

「寿司屋って、ひょっとして〇〇寿司?」

「ええ。まあ、そうなんですけど」

 〇〇寿司というのは、小学校高学年で初めて親に連れて行ってもらって以来、年に何回か食べに行っている寿司屋だ。

 別に僕は金持ちの家に生まれた訳でもないし、今の仕事が高給という訳でもない。

 中ぐらいの家に生まれて、中ぐらいの給料の会社に勤める僕が、なんで時々〇〇寿司屋に行くかというと、僕の家と親戚だからだ。

 ボーナスが出た時とか、仕事がうまく行った(と、自分で思った)時とか、一人で喜びをみしめたい時に行く。

 いつだったか、一人で〇〇寿司に行ったら、そこで一人で寿司を食っている先輩と偶然会った。先輩の隣の席に座ったが、話がはずむことも無く、二人で黙々と自分の寿司を食べ、酒を少し飲み、先輩は「じゃあ、俺、行くわ」と先に席を立って店を出た。

 翌日、会社で聞いたら、東京に何軒かある好きな店のうちの一軒だという事だった。

「うーん……なんで、寿司屋なんかデートすることになったの?」

「前回のデートで話の流れから……ちょっと酔っていたんで、詳しくは覚えていません」

「俺、寿司屋では寿司を食う事に集中したいタイプなんだよね……お前も、そういうタイプなんじゃね?」

「ええ。まあ。そうかもしれません」

「それなのに、デート?」

「なりゆきです」

「しかも、親戚がやってる店なのに?」

「はあ」

「じゃあ、もう結婚しちゃうしかない、な。その彼女と」

「え?」

「冗談だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寿司屋デート 青葉台旭 @aobadai_akira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ