326神猫 ミーちゃん、阿漕なのはネロ君だと思う……。

「すまねぇ……俺の判断ミスだ。俺が奴の気を引く、その間に逃げろ」



 ドラゴンは辺り構わずアイスブレスを吐きまくっているせいで、俺達はこの氷の壁でできた安全地帯から動けずにいる。


 ジンさんはああ言ってるけど、それに乗った俺達だけ逃げる訳にはいかないでしょう。


 さて、どうしようか? これ以上戦うのは無理。最大戦力のミーちゃんが神雷を乱発したせいで疲れてグロッキー状態。ミーちゃん不老不死とはいえ、子猫なので体力が無い。まあ、しょうがないよね。



「みぃ……」



 逃げるだけなら転移プレートを使えば良いのだけれど、ここと通路側に分かれているので転移プレートを使うとペロ達を置いていくことになる。俺達がクイントに飛んで再度ここまで戻って来るのに丸一日は掛かるだろう。おそらく、ゴーレム達が復活してるだろうからね。


 一日くらいなら安全地帯に戻っていれば問題無いとは思うけど、ペロ達は食料を持ってないから絶対に恨まれる。もちろん、テントや寝袋なんかも持ってない。全部ミーちゃんバッグ頼りだったから。ペロは猫袋を持ってるから多少のお菓子ぐらいは持ってるだろうけど、四人分は持って無いと思う。あればあるだけ食べる奴だから……。


 さてさて、どうしたものか。幸いな事にこのドラゴンはファイアブレスを吐けないようだ。アイスブレスなら目の前の氷の壁で十分に防げている。物理攻撃に出られたらヤバイけどね。当然、話し合いになんて無理だろう。相手を怒らすくらい攻撃してしまったのだから、どうしようもない。


 ジンさんは思い詰めた表情で俺を見つめ、レティさんは俺の腕にしがみつくように寄り添っている。腕に良い感じでムニュムニュが当たっていてちょっと嬉しい。


 なんて不謹慎な事を考えている場合ではなく、今は完全に詰みの状態。こうなると最終手段を取らざろうえない。でも、文句を言われるんだろうな……まあ、敵対しているのがドラゴンだったのが幸いか。


 俺の持つ称号に力を込めるようにイメージして心の中で叫ぶ!



『烈王さん。助けて~!』


「おい、ネロ。魔王と戦ってもいないのに呼ぶんじゃねぇよ」


「だ、誰だ!」



 ジンさんが急に現れた存在に剣を向け、レティさんは俺をかばうように俺の前に立つ。



「いやぁー、ちょっと拙い状況になちゃって、烈王さんじゃないと無理かなぁ……なんて?」


「み~」



 ミーちゃんも烈王さんを下から見上げて、目をうるうるさせて見つめる。な、なんてあざと……可愛らしいお願い目線。ミーちゃん、どこでそんな事覚えたの? って、いつものペロがおねだりする時のポーズそっくりだ。最近うちの子達が真似して困っているポーズだね。でも、効果は抜群だ。



「ぐっ……眷属殿にそう言われると、断り辛い」



 烈王さんは困った表情になった。うん、良い感じ。



「ネロ。誰だ」



 ジンさんは俺達とのやり取りを聞いていたけど警戒を解いていない。レティさんもだ。


 そりゃそうだ。転移スキルはレアスキルと言われ、持っている人は国やギルドに半ば強制的に所属させられる。俺も実際に転移スキルを持った人をまだ見たことがない。そんなレアスキルを持った人が急に目の前に現れたら警戒するのは当然だろう。しかも、なんの前触れもなく迷宮の中に現れるのは不自然過ぎる。


 転移は一度行った事がある場所にしか行けないらしいから、普通の転移スキル持ちがここに転移して来る事は異常な事になる。ジンさんが怪しがるのも当然なんだけどね。まあ、烈王さんは普通じゃないから。



「烈王さんです」


「み~」


「だから誰だ」



 ジンさんが冷ややかな声で凄い目付きで睨んでくる。うーん、なんて説明しようか?



「ま、まあ、説明は後で?」


「み~?」



 取り敢えず、誤魔化してみた。



「「……」」



 ジンさんとレティさんがとても冷たい目で俺を見てくる……察してください!



「で、俺を呼んだのはなんだ?」


「ははは……あれです」


「み~」



 氷の壁からそっと顔を出して指さす。ドラゴン、ブレスを吐くのを止めて、また飛び立とうとしている。どうやら、物理的な攻撃に移ろうとしているようだ。あんなドラゴンの一撃を喰らったら、ネロとミーちゃんはお星様になりましたって事になりそう……。



「あ゛ぁ゛……なんか久しぶりに見たな。生きてたのか、あいつ」



 面倒くさそうに氷の壁から顔を出してドラゴンを見た烈王さんが、ぼっそと独り言を吐くのが聞こえた。お知り合いですか!? 竜族の長だから知り合いでもおかしくはないのか? でも、そうなるとあのドラゴンはこの迷宮から生まれたモンスターではないと言う事になる。 どう言う事?



「で、俺にどうしろと?」


「説得してください。知り合いなら、尚更」


「えー。面倒ー」



 す、凄い棒読みですね……。



「エール十樽に御神酒十樽」


「はっ?」


「労働には対価を払うのが常識だろう?」


「ぐっ……」



 なんて正論を吐くんだ。だけど、確かに対価は必要だ。親しき中にも礼儀ありって言うしね。でも、これでも商人の端くれ言い値で払う訳にはいきません。特にドワーフ族の御神酒クラスの蒸留酒となれば値が付けられない程のお酒。そう安々と払える物じゃない。それを十樽なんて阿漕にも程がある。と、思う?


 そう思いませんこと? ミーちゃん。



「みぃ……」



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