242神猫 ミーちゃん、熱弁をふるう。

 商業ギルドのギルド長に罪人達の住んでいた賃貸物件の解約、並びに警備隊の隊長と役所の主任二人の持ち家の売却をお願いした。代官が住んでいた屋敷は王家の所有する別荘を使っていたようなので、俺にはどうこうする権利はない。



「売ってしまってもよろしいので?」


「役所の長だったオーラフの屋敷は使いますが、他は使い道が無いので構いません」


「承りました」



 オーラフの土地の権利書も渡して名義変更もしてもらう。その後は、この街の事を聞いてみた。やはり、役所の腐敗は目に余るものだったらしいが、王家の直轄地と言う事もありどうしようもないと諦めていたようだ。それに加えて、お酒の産地であるこの地方は闇ギルドの影響力が強いらしく生産者、販売者両方に上納金が要求される程らしい。やはり、叩き潰すしかないようだね。



「み~」



 それから、ブロッケン山の街道整備をしている事を伝えると大変喜んでいた。商隊が遠回りでヒルデンブルグに向かう為、日数を減らす為に街道沿い以外の村に寄って行商する商隊が大幅に減って困っているとの事。最近は、街道沿いの村にさえ寄らない商隊も多いとか。この街の大店と商業ギルドが協力して近隣の村には行商を出しているそうだけど、離れた村などにはなかなか出せないでいるらしいね。



「神猫商会様はこの街では商売なさらないのですか?」


「今のところは、ベルーナとヴィルヘルムで精一杯です。ですが神猫商会でも、ベルーナとヴィルヘルム間での商隊を出す予定ではあります」


「み~」


「そうですか……この街にも神猫商会様の支店を作って頂きたかったのですが……」


「それよりも、この地方の村々に回る行商の件なのですが。どうでしょう、この街の商人による共同商会を作りませんか?」


「共同商会ですか?」



 村々には定期的に行商人がいかないと村人の生活に支障が出ると思う。今は商業ギルドとこの街の大店の商会だけで行商を回しているようだけど、出資者を集めて新しい商会を作って村々を回らせた方が効率が良いと思う。この街の大店でない商会の中にも、行商に出たいが資金や人を用意するのが難しく断念している商会もあるはず。


 なので、共同商会を作り資金、人、商品を出してもらい利益は配当金として支払うようにすれば村々にとっても、行商に出たかった商会にとっても、何より商業ギルドの為になると熱弁をふるったよ。ミーちゃんも体をテーブルに前のめりにして訴えています。何より、領主がちゃんと領民の事を考えてると言うアピールになると言う打算だけどね。




「もちろん、この地方の領主でもある俺も出資させて頂きますよ」


「み~」


「それは面白い考え方ですね。各商会の得意分野を集めて一つの商会を作る。利益は出資した割合によって配当する。これは斬新な形の商会ですね! 一人の資金では無理でも何人かの出資者を募って商会を立ち上げられるのであれば、商会を作りたくても作れなかった者達に光明が差す事になるでしょう。すぐに検討させます!」



 今までも、そう言う商会がなかった訳ではないだろう。お金を融資してもらい商会を立ち上げた者や、知り合い同士で商会を立ち上げた者はいたと思う。でも、それができるだけのプレゼン能力を持たない者や人脈の無い者は商会を立ち上げる事ができなかったはず、できたとしても資金繰りが上手くいかなく商会を畳んだ者も少なくないだろうね。


 商業ギルドのギルド長にも代官を派遣した事を伝えて商業ギルドを後にし、ハンターギルドのヘルダギルド長の所に戻る。



「まだ、何か用さね?」


「ここからが本題ですよ」


「み~」



 ヘルダギルド長にブロッケン山の現状を伝えて、ブロッケン山の主牙王さんとルミエール王国の間で結ばれる条約について簡単に説明する。



「それなら、モンスター共はどうするさね?」


「ブロッケン山の中に関しては干渉しては駄目です」


「山から降りてきて悪さをするモンスターはどうするさ?」


「それは、ハンターで討伐してもらって結構です。ですが、以前のようにブロッケン山のモンスターが大挙して村を襲うと言う事は、もう起きません」


「それを信用しろと?」


「人族の方から手を出さない限りは、無いと思って頂いて良いです。これはブロッケン男爵ではなく、この国の王とブロッケン山の主との間で結ばれるものですから」


「なら、ブロッケン山では人は襲われないという事さね?」


「それは無いです。全てのモンスターがブロッケン山の主に従ってる訳ではありません。知能の低いモンスターや野良のモンスターは普通に人を襲うでしょう」


「それじゃあ、何の為の条約さね?」


「ブロッケン山の主と条約を結ぶ事により、今までとは格段に安全に街道が利用できるようになります。何より近隣の村がモンスターの被害を受け難くなるでしょう。今、ブロッケン山の麓の村に常駐しているハンターも不要になりますよ」


「この地域のハンターは廃業さね……」


「そうでしょうか? ブロッケン山の奥に入らなければ薬草の採取も自由にできるようになります。ブロッケン山の見張りについていたハンターだって今まで受けられなかった他の村々の依頼を受ける事ができるようになりますし、ブロッケン山の街道が通れるようになれば護衛の仕事が増えますよ」


「そんな上手くいくさね……」



 西の街道が使えないので、ヒルデンブルグに行くにはこの街道しかない。今は北の国々との交易に比重がかかっている。東のロタリンギアとは上手くいっていない。この街道が通りやすくなれば、必然的に商隊はこの街道を使う事になる。街道の主要な街であるこのフォルテが賑わう事になるのは火を見るよりも明らかだね。



「み~」









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