71神猫 ミーちゃん、助けを請われる。
フォルテの街のバザー買い物をしながら、この地方のお酒について尋ねてみた。
この辺りだとエールが美味しいらしく、山側の村ではワインが有名なんだそうだ。一応バザーで売ってる物を一通り買っておいた。ヒルデンブルグで売ると高値がつくと聞いたからだよ。エールを十樽、ワインを五樽ね。
良い物は直接、村に行って買わないと駄目らしい。売ってもらえるかはわからないけど、明日村に寄ってみよう。
翌日早めに街を出て、エールを作っている村に向かった。この辺はモンスターが少なく安全らしい。代わりに山側はモンスターが多く、魔王と戦った当時の頑丈な石でできた防壁がそのまま山の麓に残されて、村の防壁に使われているそうです。
エールを作っている村で更に質の良いエールを十樽買えたけど、一番品質の良い物は売ってもらえなかった。残念。売ってくれたおじさんがどこに向かうんだい? と聞かれたので、ブロッケン山を越えてヒルデンブルグに行くと言ったら、ブロッケン山に行くのはやめた方が良いと言われた。
どうやら、ブロッケン山でモンスター同士の争いが起きているらしく、商隊も山を抜けず遠回りしてヒルデンブルグに向かっているらしい。それは困ったね。取り敢えず、山の麓の村まで行ってみようか。
山の麓の村に着くと、ピリピリした雰囲気に包まれていた。
まだ、村が襲われ事は無いようだけど、山自体が緊張に包まれた状態にあるそうだ。何が起きてもおかしくないと、良質のワインを売ってくれた村人が教えてくれた。常時、ハンターが村の守りについて山を監視してる状態。ヒルデンブルグに今から行くといたら、山を迂回するルートを勧められたね。
うーん、俺達にそんな余裕は無いんだよね。作戦会議だよ。
「ドンドン、パフパフー。それでは会議を始めます」
「み~」
「ぶるる」
「なんにゃ?」
まずは、スミレの状態からだ。ペロにスミレの話を聞いてもらう。
「大丈夫にゃ。余裕はまだまだあるようにゃ」
最悪の場合、寝ずに走り続けなければならなくなる。俺達にとってはスミレが命綱だからね。
「一日くらいなら問題ないみたいにゃ」
「無理はしてない?」
ぶるるっと肯定してくれた。
「できるだけ、無理せず行こう。スミレもいつもより抑えて走って欲しい。いつ本気で走らなきゃならなくなるかもしれないからね。野営は状況を見て考えよう。休む場合は、ペロと俺とで交代で見張るからね」
「わかったにゃ!」
「み~」
じゃあ、出発だ。
山に入ると、異常な程静まり返っている。鳥の声、小動物の気配さえ感じられない。
「静かにゃ……」
「みぃ……」
スミレはいつもよりだいぶゆっくり走っているのに、全くモンスターどころか動物にも遭遇しない。
結局、街道の野営場所には無事に着いたけど、不安でたまらない。テントは立てず、薪を拾い集め火を起こすだけにした。念のため、猫砂セットを置き、ミーちゃん用シャンプーをお湯で溶いて周りにも撒いておいたよ。
誰も一言も発せず。夕食の支度をして食べ終わった頃、そいつが現れた。
最初に気付いたのはペロ。
「にゃんか来るにゃ!」
荷物をまとめてミーちゃんバッグに収納してもらう。スミレには鞍を着けたままにしてもらっていたのでいつでも乗れる。
相手はわざと気配を殺さず近付いて来ているようだけど、俺の直感スキルはまだ反応を示さない。スミレを背に俺もペロも剣は抜いて構えている。ミーちゃんはキャリーバッグに入れ俺が持っている。
目の前の草むらが揺れ、その姿を現す。体長二メルを超える黒豹だ。闇夜に溶け込むかのような漆黒の毛に金色に輝く双眸。恐いと思うより美しいと思ってしまったね。
黒豹は俺達に近付いて来て、近くで伏せの状態になり喉を鳴らしている。
「姫に助けて欲しいって言ってるにゃ」
「わかるの!?」
「同じ猫族にゃ」
成程、黒豹は猫科だったね。ミーちゃんをキャリーバッグから出してあげる。
「み~」
黒豹は更に伏せの状態を低くして、地べたに張り付いている。
ミーちゃんとペロが黒豹の話を聞いている間、する事もないのでスミレの鞍を外してブラッシングしてあげた。
ほどなくして、話が終わったようなのでペロから話を聞く。ミーちゃんは黒豹の上に登っては滑り降りるを繰り返している。天然の滑り台、楽しそうですね……。
この山に、魔王領時代に魔王の右腕だったモンスターの子孫が居て、そいつが魔王亡き今自分が魔王になろうと勢力を拡大させ始めたらしく、それに対抗する為に黒豹族と狼族が連合を組んだけど劣勢に立たされているらしい。
相手は大熊族で周りの岩猿族、虫族、ゴブリン族などを傘下に収めて攻撃して来てると言う。
で、俺達に何をしろと?
「熊をやっつけるにゃ!」
「み~」
「ぶるる」
どうやって、倒すのかな?
「それは……ネロが考えるにゃ!」
「み~」
「ぶるる」
ミーちゃんにスミレまで……俺にどうしろと……はぁ。
取り敢えず。お仲間のいる所に行きましょうか。
黒豹について行き山の中を歩く事三十分。天然の要塞と言うような岩肌の露出した場所に連れてこられた。その一画から上に登って行くと、大勢の狼と少数の黒豹他にいくつかの種族が集まっていた。
「コボルト族にゃ。ペロと同じ妖精族にゃ」
わんこが二足歩行で歩いている。にゃんこも可愛いけどわんこも可愛いね。
「み~」
全員の真ん中に連れて来られると、みんな平伏してしまった。
年老いた黒豹に白い狼、可愛いコボルトが代表で話をするみたいだね。
「よくぞおいで下さいました。神の眷属様」
おぉー、年老いた黒豹が喋ったよ。
「み~」
「ははぁ、ありがたき幸せ。儂は黒豹族の長でロデム。こちらは白狼族の長で牙王殿、そちらがコボルト族から応援に来てくださったパト殿です」
「牙王だ」
「パトラッシュだワン」
パ、パトラッシュだとー! 何か強い絆を感じてしまう。何故だ!
「俺はネロ、この子はミーちゃん。こっちは」
「ペロにゃ」
相手のボスはグランベア。フォレストベアと言うモンスターの上位種だそうだ。こいつを倒せば後はチリジリになると言っている。敵の陣容は無理矢理従わせられているモンスターだけらしいけど、岩猿族や虫族は脅威らしい。
状況は完全に劣勢でここに立て籠って何とかしのいでいる。でも、多くの負傷した者を抱えていてこれ以上は、引くに引けない状況まで追い込まれているとの事。
これは大変だよ。ミーちゃん。
「みぃ……」
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