21神猫 ミーちゃん、草竜と仲良くなる。

 ゼフさんに指示された二番目の荷馬車に来た。


 荷馬車と言っても、馬じゃなかった……。でかいトカゲさんでした。今は伏せている。



「兄ちゃん、バムを見るのは始めてか?」



 この荷馬車の御者さんのようだ。



「はい。人を襲わないんですか?」


「オイオイ。馬鹿言っちゃいけねぇよ。バムは草食だぜ。見ろよこのつぶらな瞳を。襲うような奴に見えるか?」



 蛇のような鋭い顔ではなく、もっと丸っこい確かに愛嬌のある顔をしている。


 ミーちゃんが腕から飛び降りてバムの顔をスンスンしてから、バムと鼻と鼻をくっつけ合っている。



「ガハハ。そっちの猫ちゃんの方が、よっぽどわかってるな」



 ミーちゃんはバムの体を這い上がり、頭の上にちょこんと乗ってしまった。ミーちゃん大物ですなぁ。



「ネロです。バムの頭に乗っかってるのがミーちゃんです」


「俺はこの荷馬車の御者のバンだよろしくな。兄ちゃん」



 ネロと名乗っているのに……。この世界の人ってみんなこうなの?


 急に甲高い笛の音が響き渡った。



「ほら、兄ちゃんこっちに乗りな」



 荷馬車の後ろにハンターさんが乗り込んだ。俺もバンさんの指示に従いバンさんの横に座る。バンさんの一声で伏せていたバムがミーちゃんを頭に乗せたまま起き上がった。ちょっとハラハラするね。落ちないうちに戻ってきなさい、ミーちゃん。


 ミーちゃんはこちらを向いて首をコテンと傾げ、だいじょう~ぶだよ~といった顔をしてからバムの頭の上で前向きにお座りした。


 先頭の荷馬車から順々に動き出し門に向かって行く。その荷馬車を引くバムの頭の上に座っているミーちゃんの姿は、なんと勇ましく神々しくさえ見えてくるから不思議。流石、神の眷属だね。


 商隊が門を出る頃になると、ミーちゃんは飽きてしまったのか、ピョン、ピヨンとバムの背中を渡って戻って来た。



「おかえり、満足した?」


「み~」



 満足したようだね。ミーちゃんは俺の膝の上で丸くなって寝てしまった。


 荷馬車の歩みは、人より若干速い程度、初めての街の外の風景や匂いを満喫している。



「バンさん。モンスターって頻繁に出るんですか?」


「ん~、そうだなぁ、初日はそれほど出る事はねぇな。気を付けるのは明日からだな」



 初日は、まだ街が近いのでそれほどモンスターに襲われる事はない、今日泊まる村以降は当分人里の無いモンスターのテリトリーになる。特にこの商隊だと三番目の荷馬車が狙われる事になる。一番食料品が載っているからだ。



「盗賊なんかは出ないんですか?」


「盗賊か? この辺にはそんな度胸のある盗賊なんて居ねぇな」


「盗賊に度胸が関係あるんですか?」


「兄ちゃん、考えてみな。盗賊が居たとして、そいつらどこで生活してるんだ?」


「どこかにアジトでも作るんじゃないですかねぇ」


「クアルトのような防壁に囲まれた街でさえモンスターに襲われ被害が出るんだぜ。例えどこかにアジトを作ったとしても、何日耐えられるかって事だ」



 成程、盗賊にとっても最大の脅威はモンスターと言う事だ。そこまでのリスクを背負って盗賊する人は居ないって事なのかな?



「だからって、居ないとは言わねぇよ。この辺には居ないと言うだけだからな」



 ありゃ、そうなの? 話を聞くと他の場所には、モンスターと渡り合える戦力を持った大盗賊団と言うのも居るらしい。只、国公認の盗賊団のようになっているとの事。


 どうしてそんなおかしな事になってるかと言えば、モンスターと渡り合える戦力を持っているからだ。単純にその大盗賊団が居る場所はモンスターの被害が少ない。モンスターに襲われれば命にかかわるけど、大盗賊団に襲われても身代金次第で命は助かる可能性がある。それに大規模なモンスター討伐の際、大盗賊団は傭兵団として雇われるからだ。


 なんともご都合主義的立場だね。それで良しとしてる国もある意味凄い。


 そんな話をバンさんと話しながらいたら、あっという間にお昼を過ぎていたようだ。なんでわかったかって? ミーちゃんがお腹空いたよ目線を向けてきたからです。


 バンさんにお昼はどうするのか尋ねると、止まって食べる事はないので個人個人で食べるそうだ。後ろを見ると、ハンターさん達は何かを食べている。バンさんも自分のバックから堅いパンのような物を出してかじりついている。


 パミルさんが保存食を必ず持って行けと言っていたのは、こう言う理由からか。納得しました。


 取り敢えず、ミーちゃんからご飯を食べてもらおう。荷馬車が揺れるので、猫缶を最初に食べてもらい、食べ終わった後にミネラルウォーターを皿に注いで飲ませる。こぼさないようにするのが大変だった。


 ミーちゃんが満足したところで、女将さんから渡されたお昼ご飯を食べる。中身はホットサンドだ。たまごが入ったものと、野菜とお肉が入った物の二種類だ。どちらもケチャップが入っていてとても美味しかったね。俺もミネラルウォーターを飲み気力体力を回復させる。


 気力体力を回復したのは、荷馬車が揺れ木製の台に座っているせいでお尻が痛いからです。これは慣れるしかないのか? それに、荷馬車に乗ってるだけで楽なんだけど、気が緩むと眠くなる。居眠りして荷馬車から転げ落ちる醜態は見せたくないからね。


 その後も、バンさんと話をして時間を潰していると陽が落ちる前に目的の村に着いた。



「今日はここで一泊です。村の井戸はお借りしましたので使ってもらって構いません。このような村なので、宿泊場所はありませんので、できるだけ荷馬車の近くで寝てください」



 と、ゼフさんから説明を受けた。荷馬車の近くで寝ろって言ったって、只の空き地だよここ……。


 バンさん達はハンターさん達とバムを連れ、村の外でバムのご飯である草を食べさせに行っている。


 荷馬車から離れすぎない村の木製の防壁傍にテントを設置する事にした。これがなかなか大変、説明書見ながら四苦八苦しながら組み立てたよ。設置終わった頃にはすっかり日が暮れていた。


 足を伸ばして寝る事はできないけど、丸くなれば寝れない事はないね。予備の毛布を下に敷いて、ミーちゃんを降ろすと、毛布の上でコロコロし始めた。気に入って頂けようでなによりです。



「み~」




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