第38話 ダラムのダンジョン②
ダラムのダンジョン深層をひと回りすると、最奥にキングミノタウロスを見つけた。
石の王座に座って、錫杖のようなものを持っている。これはキングパイクのように多段フレアのようなふざけた魔法を使ってきそうな感じがする。
しかしここはセルッカを卒業したものが、安全にランクを上げられるように配慮されているような気もしている。
だとすれば、そこまで強烈なギミックを仕込んでいるようには思えない。そもそもセルッカのダンジョンにいたキングパイクはユニークボスである。
「ぼぼぼぼ、ボスだよね」
「それ以外ないでしょう。なにビビってんすか」
「おい、タクマ。声が大きいって」
魔法でくるというなら、それもいいかもしれない。セイジュウロウの装備はクレアほど性能が良くない。魔法攻撃ならHP勝負になるので負担は低いだろう。さらに範囲攻撃なら聖騎士向きである。
「セイジュウロウさんは、俺が合図するまではスタンを温存してください。タクマはターゲットが安定するまで攻撃するんじゃないぞ。みんなの命がかかってるんだ。真面目にやれよ」
「俺はいつでも真面目だよ」
「ハナは敵の攻撃パターンが出尽くすまでは近寄っちゃだめだ。どうしても反撃を避けられないなら攻撃しなくてもいい。召喚があったらナイフ投げでも何でもいいからターゲットを取って、最低でも半分くらいは俺たちから離してくれ」
「うん、わかった」
「ミカさんはオーバーヒールにだけは気を付けてください」
「ええ、大丈夫よ」
「それじゃあ行きましょう」
俺はメンツを見回して、セイジュウロウ以外が赤い装備を付けてないことを確認してから合図した。
先頭を駆けるセイジュウロウが剣をキングミノタウロスに振り下ろす。キングミノタウロスは錫杖で受けようとするが、セイジュウロウはそれよりも手前に振り下ろして突きに変えた。
その剣がのど元に突き刺さると、キングミノタウロスはファイアストームの炎を巻き上げた。
セイジュウロウを中心に炎が舞い上がり、俺とミサトも巻き込まれる。ミサトは2割ほどHPを減らして、俺はフルレジストでダメージはない。
最奥にいたボスだからユニークボスの可能性も考えていたが、そんなことはなく、攻撃のパターンも、この範囲魔法攻撃しかなかった。
杖を持って二足歩行しているから突進すらない。
ミカは魔力にもステータスを振っているので、範囲回復魔法を使っても特にマナの心配は必要なかった。Lv5のMPポーションを準備していたが、ミカのMPは半分以下に減りもしない。
アイリやワカナならMPポーションを最初から使ってないとどうにもならないことも多いのに、ミカとタクマは戦闘が終わってもポーションなしでマナを余らせている。
これなら、いきなりボスが出たとしても対処できるだろう。
アイリやワカナのようにポーションにも装備にもお金がかからないので、ランク上げには悪くないステータスだ。
「初めて見るドロップがある」
ミサトの言葉にログを確認すると、高純度の強化ストーンという文字が見えた。ミサトが取り出したその石は、祝福されたものよりも強い力を持っていそうな色をしていた。
他にも普通の強化ストーンを二つも落としているので、装備を強化するようなものが落ちやすいのだろうか。
「王都の周りでも見たことのないアイテムですね」
「確かに始めて見るわ。初心者を卒業した人に装備を強化しろと言っているみたいね」
ミカが高純度の強化ストーンを見つめながら言った。
「これ凄いですよ。ここで狩りをすればぼろもうけじゃないですか。そうだろ、ユウサク」
「いやあ、装備の強化なんてみんな終わってんじゃないのか。王都周りでも普通のは出てたぜ」
俺の言葉に、みんながはてなという顔をする。サキュバスだって強化ストーンくらいは落とすのだから、+3くらいにはしているはずである。
「ああ、君たちはボスを倒してるから珍しくもないのか。僕らのギルドでは、これは取っておいた方がいいだろうという事になってるんだよ。売り自体あまり見ないし、前衛はお金のそれほど余裕のないものも多くて、耐久値の減ったものを買って使ってる人も多いからね」
確かに純レア級くらいのドロップだったかもしれない。魔法書より明らかに出ないイメージがある。出たアイテムもメンバーが個々で買い取らなきゃいけないとなると、魔法書よりも高いアイテムを消耗品に使う気にはなれないということだろう。
どうも出たものまで買い取らせるのは、効率が悪いように思える。
とはいえ、格上のボスとやるのでもなければ必要にならない程度の数値しか上昇しない。
「なるほど。じゃあ売りに出したほうがいいんじゃないですかね。ここが人であふれる前に売っておいた方がいいと思いますよ」
「冗談じゃねえ! 誰かに教える必要なんてないだろうが」
タクマは金に目がくらんで当初の目的を忘れている。
「そんなの無理よ。私たちのギルドでやり始めたら、そんな情報すぐに広まるわよ。それとも、このメンバーだけでやるっていうの」
「そりゃ強欲が過ぎるというものだよ」
欲に目がくらんだタクマを、ミカとセイジュウロウが諫める。
「そ、そんなあ……。ミサトさんは、どう思うんですか」
「ギルドのためだよ。タクマ君」
「ユウサク。お前も、それでいいと思うのか!」
「そりゃそうだろ。だけど金が稼ぎたいならいい方法があるぜ」
俺の言葉に、その場にいた全員がこちらを向いた。それで俺は、さっき思いついた方法をみんなに話す。
そしたらさっそくやってみようという事になって、そのための段取りを整えた。
まずは最奥のドーム状になっている中で、高台にミカとタクマを配置する。そしてセイジュウロウとハナでミノタウロスを集めて、セイジュウロウがフォースエッジという範囲攻撃スキルでターゲットを集める。
レッドケープの効果でハナの集めたターゲットも簡単に剥がせるだろう。
一度セイジュウロウがターゲットを取ってしまえばあとはもう、魔法の範囲攻撃を撃ち込むだけである。ミノタウロスは突進の準備段階が長いので、俺とミサトも攻撃は出来る。
ミノタウロスは魔銃士のような遠距離物理攻撃をしてくるので、ハナが引き回すのは難しいが、セイジュウロウであれば突進をよけるだけでなんとでもなる。
タクマとミカを上にあがらせるのは、乱戦で見通しをよくするためと、下から位置をわかりやすくするためだ。足元に誘導してやればタクマが魔法を放ち、その場でミカが回復する。
タクマが一通り魔法を放って倒しきれなかったのを、俺とミサトで倒す。
ターゲットが変わらないので、俺とミサトは追いかけながら倒さなければならないのが面倒だ。
それで全部倒し終わったら、また新しいのを引いてくる。始めてみたら思いのほか上手く行き、とても楽だった。それで楽ができるかと思っていたら、セイジュウロウの負担が大きすぎる問題にすぐ気が付いた。
「セイジュウロウさん、数が少ないですよ。ちゃんと引っ張ってきてください!」
上からタクマがそんなことを叫ぶ。
「年寄りをこんなにこき使ったらバチが当たるぞ」
「この世界では老いも若きも関係ないでしょう。怠けないでくださいよ」
「じゃあ次は、もうちょっと本腰入れて連れてくるか……」
いくらステータス通りの体力になるとはいえ、走れば息も切れるし疲れも感じる。
このゲームのスタミナは無制限に近い設定なのか疲れがたまりにくいというのはあるが、精神的には疲労するので同じことだ。
セイジュウロウは昼飯時も、体に堪えるとこぼしていた。
ひたすら剣を振りまわしていた俺とミサトも、あがるころにはかなり疲れが出ていた。しかし、ただ一人タクマだけがほくほく顔で、今日の稼ぎを計算している。
ボスもいたから、今日の稼ぎは一人8万ゴールド以上で、まだ値段もわからないアイテムまで出ている。
「これは、もう一人くらい魔導士を増やしたら、さらに効率が出そうな感じですね」
「確かに、そうかもしれん」
俺の言葉に、青い顔をしたセイジュウロウが答えた。骨身に堪えると言っていたセイジュウロウも稼ぎを見たら上機嫌である。
「そうなると、魔剣士はいらない感じかな」
確かにミサトの言う通り、魔剣士はあまり向いていなかった。ミノタウロスが突進に入る前の準備段階でしか攻撃出来ないのだ。二回ほど攻撃したら、敵はセイジュウロウ目指して突撃してしまうので追いかけることもできない。
「あそこでやるなら魔導士をもう一人増やして、あとは弓士か魔銃士を増やす感じですかね。今のパーティーなら中層でボスを探したほうが効率が出ますよ」
「確かに、お前もミサトさんも、あまり役に立ってなかったしな」
「そういうお前は、ボスで役に立ってなかっただろ」
「ボスは魔法抵抗の高い奴が多すぎんだよ。しょうがないだろ」
「じゃあ、明日は中層のボスを回ってみようか」
その後はタクマに急かされるようにして寝て、次の日は素通りしてきた中層を回った。
中層のメインであるグールは、攻撃で回復する吸血というスキルを使ってくるので倒すのに時間がかかる。
なのでアースエレメンタルやらファイアーエレメンタルやらのエレメンタル系とウィルオウィスプという鬼火のようなモンスターの出る地帯の経験値がよさそうだった。
しかしこいつらはゴールドをあまり落とさずに、錬金素材を良く落とした。
ハイエレメンタル系のボスが二体ほど放置されていたので倒したが、ゴールドは合わせて10万ほどだった。あまりおいしくはない。アイテムは素材系が山のように出た。
「金になるのはミノタウロスで、経験値的にはここが良さそうですね」
「来たばかりでよくそんなことがわかるね」
「基本的にHPの低い敵は経験値効率がいいんですよ。どちらを取るかですね」
「なるほど」
ミサトは感心したような頷いた。
「そりゃあもちろん金だろ」
タクマはミノタウロスゾーンに戻りたいようだ。俺もどちらかといえばそっちの方がいい。
「だけど素材だってアイテムにして売ればお金になるわよ」
「ヒーリングポーションかマナポーション以外のポーションなんて安いじゃん」
ミカの言葉にハナが反論する。
「まあ、それはそうね」
「ここで錬金のスキルを上げろってことなのかな」
とミサトが結論した。
たぶんそうなんだろうと俺も思う。ミノタウロスからメシの実が落ちているので、たぶん間違いない。今となっては価値がないが、セルッカのあとでここに来ていたら、かなり儲かったかもしれない。
「もうちょっと早く来たかったもんだな。それにしても、一組くらいこっちに来るのがいてもよさそうなものだが、ここは本当に人っ子一人いないな」
セイジュウロウが当たり前の疑問を口にする。
「ダンジョンは避けられているし、情報がないと怖いですからね」
俺がそう言うと、そうだろうなと言ってセイジュウロウは頷いた。
「ハイオークなんて慣れないと難しいものね。こっちが正解だったのよ」
あまり稼げなかったし、ランクも上がらなかったが、これでこっちに来た目的を果たすことができた。これで俺たち以外の奴らも、もう少しランクが上がりやすくなるだろう。
タクマは独占したいようだが、最奥のミノタウロスの高台になっているところだけ独占できれば目的は果たせるはずだ。そう言ったら、タクマは変なやる気を出す。
「俺はランク40になるまで、あの高台の上から降りないつもりですよ。そのくらい本気でやります。セイジュウロウさん、ぜひ頑張りましょう」
頑張りましょうと言われても、頑張らなきゃならないのはセイジュウロウなど下に降りるメンツだけである。体よく使われている感じは否めないだろう。
それでも、セイジュウロウにとっても経験値は悪くなかったはずである。
「それじゃあ、今日あたり帰ってミーティングをしようか。ちょうど持ってきたメシの実がおわりそうだし、いいところだよね。タクマ君にはミノタウロスの高台で効率が出せるパーティーを組んであげるから、それでいいね」
「まあしょうがないですね。本当は独占しておきたいですけど」
「だけどタクマ君と組む大役は俺一人じゃ無理だな。とてもじゃないが、この歳であんなこと続けられない」
「じゃあテツヤさんと交代でいいじゃないですか」
「テツヤ君は騎士じゃないか。それでも行けるものかな、ユウサク君」
「ハナを忍者に変えれば行けるんじゃないですか。聖騎士の加護がないと、盗賊は遠距離攻撃に耐えられないですよね」
「うん、私も無理だと思う」
「じゃあ、スイッチするための編成も考えておこう。タクマ君だけは固定にしておくよ」
ネットゲームでも、あんなに便利な高台があったら取り合いになるだろう。奪われないようにするには居座るしかない。タクマのやる気はいつまで持つのだろうか。
その後は、夜になるまでミノタウロスで狩りをして、それが終わると俺たちはダラムの街に帰り、テレポートで王都に戻ってきた。
ミサトたちにはたいそう感謝されて、高純度の強化ストーンをタダでもらった。
ミーティングにも出てほしいと言われたが、疲れていたので帰らせてもらうことにした。アイテムの清算を済ませてギルドハウスに帰ると、モーレットの懐かしい顔を見ることができた。
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