第36話 新しい街


 そして次の日もまたタクマたちと合流して、オーガのいるジャングルへと飛んだ。うっそうと茂る森の中をマチェットで切り開きながら進む。そうしないと肌の出ている部分が傷だらけになってしまうほど藪だらけだ。

 そして後ろの方で呑気なタクマが、進むのが遅いだのなんだのと文句を言ってくる。


 この馬鹿は、俺の切り開いた道を歩いてるという事をわかっていない。一番後ろを悠々と歩いて、ミカやハナと楽しそうに話しこんでいた。

 そして、どんなモンスターが出るのかと思っていたら、ジャイアントビーやらジャイアントバグやらかわり映えしないのが続いている。


 物理攻撃しかしてこないので俺でもミサトでも問題なくターゲットを受けられる。そしてやっと現れたオーガも物理攻撃しかしてこなかった。

 しかし、オーガの方は俺やミサトがターゲットされて回避に失敗したら一撃で昇天しそうなほどの攻撃力を見せた。


 それでもセイジュウロウならHPが半分以上残るので心配はない。攻撃のスピードが遅いから回復が間に合わないという事もない。このパーティーにはちょうどいいくらいの難易度だ。

 経験値は最悪と言えるほど悪いが、オーガはレアモンスター扱いなのか1000ゴールド近くのお金を落とした。


 そしてちょっと開けたところでは、グリフィンという鷹のようなモンスターも現れる。遠距離攻撃しか効かないので俺たちのパーティー向きではないが、タクマとハナが頑張って倒していた。

 盗賊はジャンプ力が高いので、枝から枝へ飛んで移動ができるようになっている。だから空を飛ぶモンスターにも多少は攻撃を当てることができるのだ。


 ドロップはまあまあといったところだ。ジャングルは敵の数が少ないが、ドロップはおいしいというようなコンセプトであるようだった。

 毛皮のコートなど着ていては暑くてたまらないので、俺たちはクロークすら装備せずにやっている。暑くて湿度も高いから不快感は高い。


 一日かけて、こうした方がいいと指示を出していたら、ミサトたちもやっとまともに動けるようになってきた。それでも、どうもクレアたちとやるよりパワー不足を感じてしまう。装備のこともあるし、ランクのこともある。

 しかし何より大きいのはステータスだ。ミサトは体力に振っている分だけ自然回復があり、力に振っている分だけ攻撃力があって武器や装備の弱さを補っている。

 タクマは精神に振っているだけマナ持ちがいいのでDPSタイプに近い立ち回りが出来ている。


 持続力があるし休憩なしでやるにはいいステータスなのだが、とにかく全体的に馬力が足りてない。格上狩りなど出来そうにない感じなのだ。当然、ボスを倒すのも得意ではないだろう。

 馬力が足りないので、このくらいの狩場でも最初のうちは安定しなかった。慣れてくれば問題なくやれるが、少しでも無理をすればロストが待っているという感じだ。

 これなら時間をかけてランクを上げたくなるのもわかる。無理をすることがリスキーすぎるととらえたくなるような感じなのだ。

 そんなことを考えていた俺に、ミサトがこんなことを聞いてきた。


「ユウサク君から見て、僕らはどう見えるかな」

「バランスは悪くないですけど、敵を集められないからダンジョン向きですね」

「ハナなら敵を引いてくることもできるんじゃないのか」

「ハナがお前から離れたら、ターゲットがはがれた時にお前が速攻で転がされるだろ」

「なるほどね。ターゲットが移った時の対策が必要なわけだね」

「知力の高い敵を相手にするときはそうなります。それと大物を狙うよりは数を相手にする方が向いてますよ。だいぶ動きも良くなってきたし、そろそろダンジョンに行ってもいいころですね」

「確かに、ランク30からやるのにいいダンジョンが開拓出来たら、他のギルド員にとってもランクが上げやすくなるよ」


「知力が低い敵ってのは、例えばどんなのだ」

「人型じゃないものだな。昆虫とか動物系だ。サキュバスなんかの悪魔系は知力が高いけど、魔法抵抗も高いからターゲットが移ることはないんだけどな。つまり一発のダメージが大きいと移りやすいんだ」

「でも、そんな場所の話は聞かないわよねえ」

 ミカがマップを見ながら言った。

「王都に来たら、まずハイオークやハイゴブリンを相手にするよな。そいつらが出てくるのは氷結の洞窟だろ。それ以外で洞窟となると聞かないぜ」

「もしかしたらセルッカの次は王都じゃないのかもな。ほら、ゲームだと大抵は主要都市って、そんなに早いうちに来ないだろ」

「セルッカから馬車が出ているのは、王都とダラムの港町だったかな。確かそんな行先の名前もあった」

 セイジュウロウの言葉にみんなが顔を見合わせる。

「明日の行き先は決まりかな。王都は商売の中心地だったから馬車が出ていただけなんだ」


 なるほど。どうりで王都周りのダンジョンの難易度が強烈だったわけだ。最も先行していた奴らが王都に行ったと聞いたから、すっかり次は王都なんだと思っていた。しかし実際は商業用に繋がっていただけなのだろう。

 俺としては、色々と不親切なゲームだなあという感想である。

 たぶんNPCとの会話が少なすぎたのだろう。


 昼飯時になって、急いで適当に持ってきたメシの実がいちご大福とチョコレートパフェだったので絶望するが、ミカとハナがうどんとそばに替えてくれたので事なきを得た。

 全部売ってまともなものにしてくれとリカに頼んであったのに、もったいないとか言ってなかなか売りに出そうとしないのだ。

 今日は急いでいたから、間違って持ってきてしまった。


「俺たちのギルドにも、やっと農作のレベルが3になった奴が出たんだ。おかげで安物の飯とはおさらばだぜ」

「今、お前が食ってるのは素うどんだぜ」

「今はまだストックを消費させられてんだよ。だけど既にメシの実の値段はしょうもないことになってるんだから、いいもの食わせてくれたっていいだろうにな。価値があるのはお前が持ってきたようなデザート系しかない」

「マジ?」

「ああ、ステーキだって寿司だって大した値段にならないらしいぜ」

「すげえ話だな。俺たちのギルドにはそんなもんばっかりしか生えてなくて、一日中変な吐き気に襲われてまいってるくらいだ」

「お前のギルドはいいよなあ。どうしてそんなにお前ばかりいい思いするんだろうな。お前がサラシナさんと同じ屋根の下で暮らしてるって考えただけでも、俺だってうらやましさで一日中変な吐き気に襲われるよ」

「そんな羨ましがるようなことは何もないよ。俺には嫌がらせをしてくるくせに、自分がやられたら本気で俺の命を取りに来る卑怯者だぜ」


「そりゃ、お前なんか生かしといたってどうしようもないもんな」

「馬鹿言うなよ。一方的にやられるストレスがわかってんのか」

「じゃあ、あの金髪の子はどうなんだ。めっちゃ可愛いだろ」

「暴力が絶えないよ。パンチ一発で体に穴が開くような暴力だぞ。ワカナは陰湿で気に入らなければ無視するし、モーレットは阿呆だし、リカはまあ普通かな。ちょっと省エネモードみたいな喋り方と生き方はどうかと思うけどさ」

「お前が普通って評価すると、逆になんか凄そうだよな」

「それでさ、リカがまた凶器みたいなケツしててな。足の上に座られると涙出るくらい痛いってなってさ。みんな悲鳴をあげてたよ」

「それはあれか。お前も足の上に座られたのか」

「まあな。あれほどのものとなると、なにか有効利用できそうで、ずっと考えてるんだけどな」

「うらやましいうらやましいうらやましいうらやましい」

「またそれかよ。芸のない奴だな。それに涙が出るほど痛いって話だぜ」

「お前は本当にいいよな。殺意が湧くくらいうらやましいよ」


「そっちのギルドはどうなんだよ。あれだけ人数がいればかわいい女の一人や二人いるだろ」

「居たって別に俺のもんじゃねーよ。みんな真剣に魔王の倒し方とか話し合ってるけど、最近はちょっと焦りが出てきたな。王都にドラゴンが出ただろ。あんなの倒せる気がしなかったってな。魔王があれ以上だとすると、本当に手も足も出ないぜ。だけど魔王があれ以下ってことはないよな。だから雰囲気が悪くなってて会話も少なくなったよ」

「俺なんか、こっちの世界が快適すぎて、魔王を本当に倒していいもんかどうか悩んでるくらいだ」

「もとの世界でも時間が流れているとしたら、どうするよ。困ることも出てくるだろ。そんなの早く倒したほうがいいに決まってるじゃないかよ」


 このゲームを作ったのは、時間くらいどうにでもなるような存在だろう。それはわかっているので、そのことに対しての不安はない。髪の毛すら伸びないんだから、俺たちの時間は止まっているはずだ。


「今のお前のあだ名は、ハーレム豆電球だぜ」

「ふっざけやがって、前より暗くなってるじゃねえかよ」

「裸電球に黒い影が差してきたから豆電球になったんだろ。好調なのはいいけどよ。もう少しおとなしくやった方がいいんじゃないのか。変な噂しか聞かないぜ」

「つまらない心配してないで、お前は金を稼ぐ算段だけ心配してろよ」

「俺は今、毎日が戦いなんだ。200万あればそこそこのコンパニオンなら買えるんだぞ。高いのを買ってもお前みたいに懐かせられないかもしれないだろ。そうなるといろいろ悩むよな」

「コンパニオンはギャルゲーみたいな感じなんだよな。ああいうゲームは誰がプレイしても女の子の対応は変わらないだろ。この世界は全てがゲームみたいになってるんだ。お前の顔が多少まずくても心配いらないよ」

「俺はどっちかって言えば顔に資本がある方だ」

「お前にお笑いの才能があるとは思わなかった。後ろで盗み聞きしてるミサトさんも笑いをこらえるのが大変そうだぜ」

「いやいや、僕は笑ってないよ。誤解だよ。それに盗み聞きじゃなくて聞こえてきちゃうんだよ」


 セイジュウロウたちはやや離れたところで昼飯を食べている。みんなで座れるような場所がなかったからそうなっている。


「ダラムの方で手つかずになってるボスを倒したら、お前の目標の金額まで行けるかもな」

「先生! 俺に、俺に戦い方を教えてください!」

「嫌なこった」

「そんなあ! どうしてですか、先生!」

「弟子にするにはかわいげがない」

「どうせ引きこもってため込んだゲームの知識じゃないですか。社会に出て役に立つようなもんでもなし、もったいぶらずに教えてくださいよ。社会性のない先生のフォローに、今まで俺がどれだけ苦心したと思っているんですか」

「所詮ゲームと思っているようでは話にならん。出直してこい」


 その日はひたすらジャングルを日が暮れるまで歩いてお開きとなった。市場でアイテムを売ると一人4万ゴールドを超えた。これは腐王の墓よりも稼ぎがいい。金を稼ぐなら、このジャングルは相当効率がいいことになる。

 しかし経験値はランク40の俺にとって、ゼロに等しいものだった。


 今日はランクが上がったらしく、タクマの機嫌もいい。しかし晩飯は断ってギルドハウスに帰った。最近はクレアたちに囲まれているのが楽しくなっている。

 晩飯を食べながら、この日も昨日の話題の続きだった。


「それだけとがったケツで、日常生活に支障は出ないのかよ」

「別にない」

「なんか特別な利用法でも考えないともったいないよな。お前は凄い武器を持ってるぜ」

「本当にすごいわよね。昨日は足が痛くて寝つけなかったわ」

 俺が無理やりアイリの足に座らせたから、恨みがましい目を向けられた。

「俺は今日、一日中お前のケツについて、なにか有効な利用方法はないかと考えてたんだ。だけど何もないんだよな」

「イヤらしい」

「色気のある話はしてねえよ」


「それで新しいパーティーはどうなのよ」

 とクレアが言った。

「うまく行ってないよ。適正な狩場がないんだ。どうもセルッカのダンジョンの次は王都じゃないみたいなんだよな。だから明日からは、ダラムって港町の方に行ってみる予定なんだ」

「でも私たちは王都でやれたじゃないの」

「俺たちは格上を相手するのに向いてたから、何とかなってただけだな。本当はそっちをやってから王都だったんだ」

「おかしいと思ったわ。砂漠のダンジョンはぎりぎり過ぎたものね」

 アイリは背筋を伸ばして、ものすごくいい姿勢ですき焼き弁当をつつきながら言った。

「そうだよね。あんなに休憩ばかりになるのは、おかしいと思ったよ」

「そっちでランク上げのやり方を確立すれば、もうちょっと周りのレベルも上がると思うんだよな」


 クレアたちは人の役に立つのはいいことだから頑張ってきなさいと、まるで他人事のように言っている。

 今日のクレアとアイリはジーンズにTシャツという姿で、アバターアイテムか何かを買ってきたようだった。今日、どこかでそんなものを見つけてきたのだろう。

 ワカナとリカもよくわからないが防御力数値など設定されていなそうなセーターなどを着ている。


 どうやら俺のギルドでは益体もないアバターアイテムを買うのが流行っているようだ。一人が買い始めたらみんなこぞって買い始めたという感じだろう。

 これなら遠からず狩りが再開できるようになるかもしれない。

 後はモーレットの事だけだなと考えながら、俺は早めに眠りについた。


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