第7話 サブ職
次の日は日が昇ると同時に、昨晩の女性によって起こされる。若い頃は美人だったのだろう、日の光の下で見るとかわいさの残る顔の女性だった。彼女――ローザは俺を起こすなりに抱きしめて、愛の女神の祝福をと祈った。
それをハチの巣に住んでる全部の奴にやって回っている。
底抜けに明るい笑顔を見せられて、気分のいい目覚めだった。
俺たちは洞窟に向かって、オルトルスとスパイダーが出てくる場所で狩りをした。午前中のうちに俺とモーレットはレベル11まで戻る。スキルを覚えていたことが、本当にラッキーだった。
攻撃力自体はほとんど落ちてないので、倒すスピードはロスト前と変わらない。
それとバスターソードからロングソードに替えた俺は、疲れが出なくなっている。
昼に一度、外に戻って食べ物を買ってから、もう一度ダンジョンに潜った。
それからしばらく狩り続けるが、昨日全滅した場所での稼ぎに比べると、どうしても見劣りしてしまう。それにダンジョンの入り口付近は、本格的に混みだした。
俺たちがいる場所も、ダンジョン入り口から追い出された先行組だと思われる人たちがチラホラいるので効率が極めて悪い。
「これじゃ、蜘蛛の糸の値段も下がっちゃうよなあ」
かと言って奥に行けば、まだトロールキングがいるかもしれないのだ。
「まだあいつ残ってるのかな。滅茶苦茶怖かったぜ。チビリそうになったもん」
「様子だけでも見てみるか?」
「そうしましょう」
てっきりクレアは嫌がるものかと思ったが、復讐したがってるような雰囲気がある。しかし、俺とモーレットはロストしてもそこまで痛くないが、一番ロストさせてはいけないクレアが最もロストしやすい。
それでも、クレアは行きたそうだし、行かなければ効率が悪い。
忍者か盗賊でもいてくれたらいくらでも下見ができるのに、俺たちのパーティーでは気付かれた時点で一人は死ぬことになる。
「行く前にこれだけは約束してくれ。いざって時は、俺が囮になるから絶対にメイヘムだけは使うな。それを約束してくれなきゃ行かせられない。トロールキングが現れて、俺がファイアアローを使ったら二人は一目散に逃げろ。できるか」
しばらく迷ってからクレアは頷いた。それで俺たちは昨日ロストした場所に向かった。近づいて行っても、まったくその気配はない。ついに昨日の場所までやってきたが、そこにはスパイダーやオルトルスしかいなかった。
その奥の方を覗いてみたが、そっちにも気配がない。
「誰かが倒しちゃったのかもしんねーな」
どうもそのようである。先行組がいるので、その中には、あのくらいのを倒せる奴がいてもおかしくはない。そこでオガッという叫びが聞こえて、俺たちは飛び上がった。
しかし、それは普通のトロールだった。
「たぶん、トロールのいる範囲にはボスの湧く可能性があると思うんだ。だからもう少し進んで、トロールの出なくなる所まで行けば逆に安全だとおもうぜ」
「いいじゃねーか。それで行ってみようぜ」
そこから一時間ほど奥に進むと、ゴブリンが現れた。それにオルトロスが山のように出てくる。スコーピオンとアントという新しいモンスターも出てくるようになった。オルトロス以外はどれもドロップは200ゴールド以下だ。
先行組の間でトロールキングはかなり知れ渡っているようで、ここには先行組すらいなかった。あのトロール部屋の前が混んでいたのは、先行組がトロールキングを避けていたからなのだろう。
ここだってゴブリンキングが出ないとは言い難いが、それを言ったら何もできない。
ゴブリンの攻撃はトロールよりも大したことがなかった。
「ゴブリンも大したことねーな」
「でも、ターゲットが移りやすくなっていない? さっきのも、最後にユウサクを狙いに行ったように見えたわ」
そう言われて、俺はモンスター図鑑を開いた。ゴブリンは他の敵よりも知能の値が高い。もしかしたら、そういう敵はターゲットを変えやすいのかもしれない。
「まあ、簡単に倒せるし心配いらないだろ。それよりもメイヘムのクールタイムにだけは気を付けてくれよ。ちゃんと、それ以上敵が出てこないと確信してから使うんだぞ」
「そうだぜ。クレアがしくじったら、アタシらはお陀仏なんだ」
「わかったわ」
「まあ、範囲攻撃してくる奴もいないし、クレアに引っ付くようにして戦えば危なくないだろうけどな。敵にびびって、リバイバルの範囲から出たりしない限り大丈夫だって」
「なんだよ。アタシのこと言ってんのかよ。そんなの最初に言ってくれなきゃわかんねーだろ。それに近すぎると狙いにくいんだよ」
ごたごたやってるが、レベルの高いクレアに依存した、この狩りの効率はすさまじいのレベルだった。火力だけに特化した俺とモーレットが、クレアによって命中率をカバーされて、分不相応な敵を倒しているのだから、効率が悪いわけがない。
「しかも、ゴブリンの経験値が悪くないな」
「ここすごいわ。かなり入ってくるわよ」
クレアにとっても美味しいほどの経験値だから、俺たちにとっては言うまでもない。このペースなら二時間に一度はランクが上がるだろう。
俺が動けなくなるまで粘って、クレアはランク28まで戻し、俺とモーレットはランク14まであがった。
俺たちは意気揚々と街に戻ったが、すでに露店は一つもなくなっていた。
まだ空いていた酒場をなんとか見つけて食事を済ませ、宿をとった。
次の日は、さらなるゴブリンを求めて奥に入った。そして、そろそろ正午かというころ、俺とモーレットは17までランクが上がった。
「あと一つ上がれば、新しいスキルを覚えられるんだよなぁ。楽しみだなぁ、ユウサク」
「そうだな。だけど、そろそろ飯にしようぜ。腹減ってきたよ」
「なんだよ。あんまり楽しみじゃなさそうだな」
「戦力が上がるようなスキルじゃないからな」
「なんだよ。アタシのスキルも戦力にならないのか」
「そうだな」
チェッとつまらなそうに地面を蹴るモーレットをよそに、俺は休めそうな横穴を探した。大体、新しい場所に来ると何かしら落とし穴があるものだ。なるべく疲れる前に休憩をはさんでおいた方がいい。
俺は横穴を見つけると二人を手招きした。
横穴に入ると、不自然な地面のふくらみを見つける。
「おっと、そこは踏まないでくれ。俺が踏むから」
「え……? 何のこと?」
「ほら、ここの地面膨らんでるだろ。今までにも何か所かあったんだよ」
踏むと罠が発動するトラップだ。初心者用の洞窟なので、掛かってもダメージが少なすぎて気が付かない程度の罠だ。俺が地面の膨らんだ部分を踏むと、ピシッと音がして罠が作動した。戦っている最中なら音にも気が付かないだろうほどの作動音だ。
「これがなんなんだよ。なんか変な音がしたみてーだけど」
「罠だろうな。迷宮に罠なんてよくある設定だろ」
「それをどうしてわざわざ発動させるのよ。変な呪いにでもかかったら大変じゃない」
「そんな大した物はないって。サブの職業に探索ってあるだろ。これが迷宮の罠とか宝箱を発見するためのものなんだ。レベルの上げ方がわからないんだけど、たぶん罠にかかるとかすると上がるんじゃないかと思ってるんだよな。だから、見つけたらなるべく踏むようにしてるんだ。見つけたら教えてくれよ」
「それ、アタシも覚えたい」
「こういうのは一人に経験値を集中させた方がいいんだよ。それに効果があるかまだ分からないしな。もしかしたら、他の方法で上げるのかもしれないしさ」
「いろいろと考えてるのね」
まあなと言って、俺は朝買った素うどんとタコライスを取り出して食べ始めた。
「そういや、なんか人気メニューが店から無くなってたんだよな。誰かが買い占めたのかな」
「そうだよ。アタシもカレーがなかったんだ。おかげで蕎麦だぜ」
「なに言ってんだ。蕎麦なんて最高だろうが」
「かけ蕎麦だぞ」
「私はサンドイッチを買えたわよ。気のせいじゃないの」
もしかして今になって在庫切れになってきたのだろうか。そうだとしたら、タイミングとしてはいやらしすぎる。もし在庫切れが起こるなら最初の数日だろうと思っていたのに、こんなタイミングでは誰も買い占めなんてできなかっただろう。
もし在庫切れなら、これからメシの実の高騰が起こるはずだ。念のため買いだめしておきたいが、ロストの危険がある以上は、現金もかなりの額を残しておく必要がある。
「今日帰ったら、ちょっと多めにメシの実を買っといた方がいいかもな。買い占めるって程じゃなくて、自分たちが昼飯に弁当で食べる分くらいさ。人気メニューじゃなければ、まだ数日は心配ないだろうけど、高騰するかもしれないし」
「アタシは新しい銃が買いてーんだ。もっと強いやつが欲しい」
「武器なんて高いからダメだって、次にロストしたら復帰できなくなるぞ。現金で十万は持ってないと、今度は素手でスライムから倒す羽目になるだろ」
「うわ……、それは最悪ね」
「スライムにたかられてるクレアを二人で殴るのか。すげー絵面だな」
「あとさ、ゴブリンが落とす鉄の原石がインベントリの中に溜まってめちゃくちゃ重いんだよな。昨日の分もあってさ、つらいからどっちか持ってくれないか」
「それは男の仕事だぜ」
「そうよねえ。か弱い女の子に持たせようなんて酷いわ」
「か弱い? キングコングみたいな腕力の女が、か弱いねえ……」
「ぶつわよ」
「レアアイテムとか出てねーのかよ」
「そう言えば一つ出てたな。ゴブリンが落としたショートソードだ」
俺はインベントリから取り出して、モーレットに渡した。
普通の剣を作るのに、鉄をケチって短くしましたみたいな、根元ばっかり太くて先細りした使いにくいだけの剣だ。重心が手元に寄ってるから力が乗らないし、ヘッドスピードも出ない。使い道がないだろうから、溶かして鉄にでもするしかないだろう。
「モーレットは鍛冶のスキルでも上げたらどうだ。レアな素材が出ても、アイテムにできないんじゃもったいないからさ」
「ふーん、やってみよっかな」
「私は何を上げたらいいかしら」
「商売か農作あたりは欲しいところだよな。あとは錬金もいいな」
「じゃあ、農作がいいわ。美味しいご飯が食べたいもの」
まあそんなところだろう。残るは商売、裁縫、錬金、釣り、盟友、窃盗とある。盟友はギルド関連のスキルが使えるようになるものだから後回しでいいし、商売、裁縫、錬金も、もう少しまともな素材が集められるようになってからでも十分だ。
釣りはスキルレベルを上げやすそうだから、そのうち俺がやってみよう。窃盗に関しては、犯罪に絡むし、犯罪者となった時に受けるデメリットについて調べてみないと手が出せない。
もちろんゲームのシステムとして用意されている以上、それだって手を出しておかないと問題を抱える恐れもあるのではないかなと思っている。
午後になって、俺たちは新たなスキルを覚えた。
俺はデストラクションというスキルで、HPを1残して、残りのHP、MPすべてを使ったダメージを与えるものだ。モーレットはリプレースポジションで、パーティーメンバーと場所を入れ替えられるようになる。
モーレットは使えねースキルだなと愚痴っていた。確かに、今は使い道がない。次にスキルを覚えるのは24になってからだ。そこでは基本的な戦闘に必要かつ強力なスキルを覚えられる。
ランク20までは今日中にも上がるだろう。20を超えたら、またレベルが上がらなくなるに違いない。クレアを見ていれば明らかだが、ランク20からは相当に上がりにくくなる。たぶん、ここは、ランク20台にとって適正な狩場ではないと思われた。
夕方くらいには、俺とモーレットのランクは20まで上がった。
「駄目だあ。もう、ちっとも経験値が入らねーじゃんか。こんなの続けるのかよ」
「確かに、気が滅入ってくるな。こんなに奥まで来てるのに、こんなもんか」
「贅沢言いすぎよ。私なんて、もっともっと時間がかかったんだから。二人を見てると信じられない気持ちになるわよ」
「まあクレアの力に頼って、無理やりに経験値を稼いでるようなもんだからな。だけどトロールを見る限り、それもそろそろ限界だぜ。ヒーラー無しじゃボスも倒せないしさ。敵も面倒な奴が増えてきた」
「トロールなんて、ボス以外は倒してたじゃねーかよ」
「一体しか出なかったし、インターバルも取れてただろ」
しばらく進展がなくなりそうなので、何かと並行してやるのもいいかもしれない。一日中ダンジョンの中にいるのも、息苦しくなってくる原因のような気がする。
オルトルスは犬っぽいが、昆虫とかゴブリンは見た目が醜悪すぎて辛いってのもある。
「これからは、サブ職のレベルも上げながらやっていくか。森で食べ物を収穫すれば農作のレベルも上がるだろうし、半日は森でやることにしようぜ。それと夜はモーレットが鉄の原石を加工して朝になったら売る。それでどうだ」
「いーんじゃねーか」
「私もそれでいいわ」
店が閉まる前に帰りたかったので、早めに切り上げて俺たちは街に戻った。
街に設置された鍛冶場で、モーレットに鉄の原石を渡した。鍛冶のレベルが1でも鉄のインゴットが作れることは確認している。そこからまた何かに加工できるかもしれない。
モーレットをその場に残して、俺とクレアは市場を回った。
蜘蛛の糸は、まだそれほど値段を落としていなかった。それどころか、少しだけ値上がりしている。まだ上がるかもしれないが、このあたりが限界の可能性もあるので、俺は手持ちを全部売り払った。ゴブリンが落としたボロ布なんかもすべて売った。その結果、約6万ゴールドになった。
「一つだけ売りがあったわよ」
クレアがやってきて、梅干しの種のようなものを俺に見せた。
そこには『メシの種』と表示されている。まんまの名前だった。まだ畑を持っていないので植えてしまうのはもったいないが、集めておくに越したことはない。
次に俺たちは手分けして、街中のNPC商店からなるべく人気のありそうなメシの実を買う。置いておく場所がないので、買いだめは不可能だが、そもそも人気のありそうなものはほとんど残っていなかった。
「本当になくなってるわね。商店の人も、王都からの仕入れはいつになるかわからないと言ってたわ。サンドイッチだけでも買っておいたほうがいいかしら」
「価値が出そうなのだけにしようぜ。重くて戦えなくなるぞ」
「私はそんなに貧弱じゃありません。それより高いのも買ったほうがよかった? あんまり高いのはやめておいたのよね」
ヒレカツ定食で1200ゴールド、牛スキ定食は2200ゴールド、海鮮定食になると4000ゴールドという値段設定だった。もっと高いものもある。数が少なかったので、俺は高いものもいくつか買っておいた。
「なんか俺の感じだと、俺たちよりも先に買い占めた奴らがいたみたいだったんだよな。そいつらの方が早く気づいたんだろうけど、やられたよ」
「そう! 人気のありそうなものだけ無くなってるの。ちょっと不自然だったわ」
負けたなあと思い、俺はため息をついた。買い占めたのは、たぶんコウタのように商売に専念している人たちだろう。
ネットゲームでも開始直前は物価が乱高下しやすい。誰もアイテムの価値を正しく認識していないのだから当然だ。
俺は大損する可能性もあったので、商売にはあまり手を出す気にはなれずにいた。
どちらにしろ、買い占めなんてやるには、アイテムを置いておける持ち家がなければ無理だ。
まあいい。クレアの農作スキルを上げて、メシの実を作って儲けることだってできる。
その後でモーレットが作った鉄のインゴットをすべて売り払った。それが約4万ゴールドだった。お金は全部三人で分けた。二日で9万ゴールドくらいの稼ぎだ。
次の日、俺たちは街の外にある森に向かった。街の周りには低レベルモンスターしか出ないが、森の中にはダンジョンと同じモンスターがそれなりに出る。
そんな森の中で、ゴブリンが出るとされている場所を目指した。
森の周りにも、ほうじ茶のノミの竹が何本か生えていた。さすがに要らないと誰も取らなかったのだろう。近くに生えた背の低いヤシの木がメシの木だというので、そちらには実が残っていなかったから、いらないとされたのは間違いない。
それをクレアに収穫させて、飲みながら森を探索した。この世界に来てからはトイレに行きたくならないので、いくら飲んでも問題にならない。
トイレに行きたくならないなと気が付いたのは、つい昨日のことである。
ゴブリンが現れるという森に着いても、メシの実は取られた跡があった。森はダンジョンよりも敵の出現が少ないため、低レベルでも来られるのだろう。
俺たちは、人があまり踏み入れていないであろう奥へとさらに進んだ。そこでやっとメシの実を一つ見つける。内容は味噌汁だった。普通のよりも二回りくらい小さい。
その辺りからやっと、ぽつぽつとメシの実とノミの竹を見つけられるようになった。昆布茶とか麦茶とかばかりで、良くて白米か日の丸弁当といったところだ。
そのまま地図にも情報がないような所まで歩いていくと、オークという豚の顔をしたモンスターが現れた。しかも、オークファイター二体、オークメイジ、オークアーチャーの四体同時出現だった。
クレアがメイヘムを使うとオークメイジがファイアーボールを放ってきた。飛んできた火の玉は、クレアに当たって紅蓮の炎をまき散らす。
視界の端にレジストに成功しましたと表示された。これはダメージが半分になったということだ。フルレジストとあれば、完全に抵抗したことになってダメージはない。俺の魔力値による魔法抵抗のおかげだろう。
しかし、モーレットは炎に焼かれて三割ほどのダメージを受けた。
オークファイターは立派な片手剣を持っている。それが二体同時にクレアに斬りかかった。今までの敵とは明らかにダメージが違う。そこに、もう一組のオークまで現れる。
最初にいた奴と新しく来た奴で、二発同時にファイアーボールが飛んできた。それでモーレットのHPは瀕死状態になった。
俺はどちらの攻撃もレジストしているので、大したダメージはない。
「モーレット、クレアから離れろ」
モーレットは静かにうなずいて、クレアから離れた。あとから来たオークファイターはクレアが上手くターゲットをとった。しかし、あとから来た方のオークアーチャーがモーレットを狙い始めたので、俺はそいつにアイスダガーを放った。そして、俺はそいつに向かって駆けた。
俺は三回ほどの攻撃でオークアーチャーを斬り伏せて振り返る。モーレットのHPは真っ白だ。それでも、まだ何とか動いている。
「モーレット、攻撃はしなくていい。ターゲットが移るとやばい!」
俺はすぐにクレアの元には戻らずに、オークウイザード二体を始末した。そして、クレアと共にオークファイターを倒した。倒し終わった頃には、クレアのHPも二割を切っていた。
クレアの持っていたポーションをモーレットに使って、俺たちは休憩することにした。
オークのドロップは一体で500ゴールド前後だった。明らかに今までよりランクが高い敵だろう。それにボロ布なども出ている。
「ここはまだ早いな。少し引き返して、ゴブリンがいたところでやろうぜ」
「でも、ここはまだ人が来てないからメシの実がたくさんあるわ。ほら、今までだってトロールが二体同時に現れたことなんてなかったじゃない。さっきのはたまたまだから。きっと、ここだってなんとかなるわよ」
「だけどモーレットは逝きかけてたぜ。すぐにでも逝きますって感じだったぞ」
「アタシなら平気だよ。今度はちゃんと離れとくからな。弓野郎に狙われたのだって前に出すぎてたからなんだ。次は平気だかんな」
確かにイレギュラーな事態だったと思う。それでもクレアの発言にはマジかよと思わずにいられない。ちょっとリスクを取りすぎなような気がする。しかし、二人はやる気である。
十分ほどの休憩で、すでに二人の体力は満タンだ。
俺たちはかなり慎重になりながら、森の探索を続けた。
メシの実もノミの竹もまったくの手つかずだ。今までのところは実が付いていても一つだったが、ここは三つも四つもついている。ノミの竹も四節か五節まで伸びたものが平気である。
それらすべてをクレアに回収させた。
次に出てきたオークたちは難なく倒すことができた。俺とクレアならオークメイジの攻撃もそよ風みたいなものだ。
オークメイジはマジックプロテクションケープを落とした。
防御力5に魔法抵抗が10もついている。
これは俺が装備するのがいいだろうと、さっそく装備すると、モーレットが文句を言ってきた。
「そいつはアタシの方が似合うぜ。寄こしなよ」
「似合うとかじゃねーんだよ。前衛職の俺が装備するべきものなの。お前は後ろにいるから魔法は食らわないだろ」
「本当かよ。さっきは魔法を食らったぜ。独り占めする気じゃねーよな」
「しないって。お前の装備も俺は考えてるから大丈夫だよ」
だけど、後衛職を守る方法が今はないから、むしろモーレットの方に必要かもしれない。魔力11の俺は、すでに魔法抵抗値が72もあるのだ。魔法抵抗値が100を超えると、魔法は100%レジストに成功するようになる。つまり、最大ダメージが常時半分になるのだ。
このゲームの魔法攻撃は強烈で、前衛職はそれに対して備えが必要となる。
「やっぱ、今はお前の方が必要かもな。お前が装備しておけよ」
「ははっ、そうだろ。話がわかるじゃねーか」
抵抗に成功しなければダメージは軽減されないので、モーレットが装備しても気休め程度でしかない。それでも彼女は喜び勇んで装備した。赤と黒のケープは、まあ似合わないこともないと言ったところか。
俺たちは、ほうじ茶をひたすら飲みながら森の探索を続けた。朝霧に覆われた森の空気はひんやりしていて肌寒いくらいだからちょうどいい。飲む理由は、捨てるのはもったいないが、持ち歩くには重くなりすぎるからだ。しんどい思いをして売っても10ゴールドにもならないだろう。
午後まで危なげなく続けて、俺たちは街に戻った。噴水のある広場が開いていたので、そこで昼飯を食べることにする。
俺はインベントリから日の丸弁当の実を三つと、味噌汁の実を三つ取り出した。
「え~、それを食べるのかよ。昨日、高いやつ買ってきたんじゃないのかよー」
「そっちは投資目的もあるんだぞ。でも、さすがに味気ないか」
俺はカキフライ弁当のメシの実(500G)を一つ取り出した。そのおかずのカキフライをひとつづつ分け合う。
「はあ、どうしてこんなことになるんだよー」
「重くなるんだから消費しなきゃなんないだろ。これからは朝と夜もこれにしようぜ」
「売りゃあ、いーじゃねーかよ」
「買い手なんてつかないだろ。それに種になるかもしんないしさ」
「はぁ……」と、モーレットは悲しそうな顔でため息をついた。
「でも、美味しいわよ。お味噌汁もあるし十分じゃない。健康的でいいわよ」
「山ほどあるんだ。たくさん食えよな」
モーレットが三つも食べたが、その程度では減りそうもない。
麦茶の竹だけは市場でも買い手がついたが、他は買い手すら見つけられなかった。特に一番多い水なんて食堂や酒場で飲み放題だし、井戸もそこら中にあるから仕方ない。
三人で手分けして持っても重いから、午後の狩りの邪魔になると思い、余りそうな分は教会に寄付した。ローザはたいそう感謝していた。
午後はまたダンジョンに潜り、夜は鉄のインゴットをモーレットに作らせてその日を終えた。
あと少しでクレアのランクは29まで戻りそうだ。一週間分とのことだったが、少人数のアタッカーに偏った編成のパーティーで狩りをしているからか、クレアの経験値も三日半くらいで戻せそうである。
これがもし六人パーティーだったなら、本当に一週間分ロストすることになるだろう。それも経験値だけの話で、装備分を取り戻すのにはまだまだ時間がかかることになる。
失った装備の四分の一すらまだ稼げていないのだ。
俺とモーレットはランク21になっていた。
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