Lineプレ・地震観測編 その2

 十四時五十分、一連の現象と東海地震の関係性を精査する地震防災対策強化地域判定会が招集。同時に報道機関の記者達も記者会見室へ集められる。午後三時、マスコミ慣れし ている地震火山部地震津波監視課長が同席しての気象庁長官臨時記者会見。

「本日午後二時三十二分頃より、東海地域に設置している一部の地盤歪み観測計のデータが異常な値を示し始めました。今回その範囲が二ヶ所に及んだため、東海地震判定会を招 集するとともに、気象庁として『東海地震注意情報』を発表いたします」

 正式に経済活動の規制が始まるのは『東海地震予知情報』に伴う内閣総理大臣発令の『東海地震警戒宣言』だが、実際にはこの段階で授業打ち切りや早期帰宅の呼びかけなどの 対策が始まる。日本社会に与える影響は大きいゆえ、慎重な判断が要求された。気象庁も手順通り、一部の判定委員とデータの検討を実施してからの発表である。

 注意情報発表を受け、日本国政府は内閣官房に東海地震対策準備室を設置、東海四県や南関東・長野・山梨・和歌山などの各都県とその下の自治体はそれぞれ災害対策準備本部 を設置した。名古屋市を始めとする地震対策強化地域に属する主要都市ではエリアメールや広報車を使って早期帰宅を呼びかけ。テレビ・ラジオなど報道機関も通常番組を中断し て臨時ニュースに切り替える。ただし東海地方以外の民放テレビ局はデジタル放送の特性を利用し、準備が出来た系列からサブチャンネルで通常番組(とは言ってもバラエティー の再放送が主だが)を暫定的に再開。但し携帯端末向けのワンセグはチャンネル分割が不可能なため全局臨時ニュースである。

 気象庁は観測体制を強化、長官は次のステップに移行する場合を想定して総理大臣官邸へ移動した。首相への説明を兼ねての措置である。全閣僚の招集、自衛隊に対する準備命 令も合わせて行われる。十五時四十分、気象庁にて地震防災対策強化地域判定会開始。直後、臨時閣議も開始。開始後、愛知県田原高松・愛知県新城湯谷の順にデータ変動が確認され、 それはすぐ判定会へ持ち込まれる。無感地震の観測データも個々の地震の判別が難しくなる程度まで増加していた。そして二十時四十四分、五ヶ所目「静岡県掛川」の異常データ を確認。次のステップへ移行する基準を満たし、それに対応するように判定会もプレート境界型巨大地震の前兆現象・境界面がゆっくりとずれ始めるプレスリップ(前兆すべり) が発生している可能性が高いと追認する。ただしその規模は比較的小さく、地震発生は数日単位、東海・東南海地震の連動型の可能性があるとの意見を付けて。直ちに気象庁は経 済活動への赤信号「東海地震予知情報」を発表した。世界初の公的機関による「地震予知」である。

 二十一時、総理大臣が官邸記者会見場に姿を見せる。「内閣府」の文字が入った作業着姿で、その表情は厳しい。暫定的に放送されていたサブチャンネルによる通常放送は中止 され、テレビ・ラジオ・ワンセグ・インターネット中継などあらゆる手段で、国内外を問わずその模様が伝えられる。

「本日午後九時、『東海地震に対する警戒宣言』を発します。これは大規模地震特別措置法に基づくもので、東海地震の対策強化地域における経済活動を制限するものです。先ほ ど気象庁長官より『東海地震及び東南海地震の想定震源域付近で異常な値が検出されている。これは前兆現象とされるスロースリップが拡大しつつあると考えられる』と報告を受 けました。地震発生により東海地方周辺の広い範囲で震度六弱以上の強い揺れを観測する可能性があります。また、太平洋岸では津波が到達すると考えられます。日本全国の皆さ ん、不要な外出は控えこれから数日のうちに起こり得る巨大地震に警戒して下さい。では気象庁長官より、詳しい説明をさせます」

 続いて気象庁長官が、今回の判断の経緯を説明する。その後会見は終了となり、各局の解説員が警戒宣言の意味や今回の判断に至ったメカニズムを改めて説明していった。

 二十二時十三分、内閣は中日本電力に対し静岡県御前崎市にある御前崎原子力発電所の停止を要請、中日本電力側はすぐに受諾する。ただ電力需給のバランスを取りながら行わ れることになっており、実際に手動停止の作業が行われたのは日付が変わって三時を過ぎた頃。揚水式水力発電の汲み上げと代替の火力発電所のスタンバイが完了してからだっ た。手動停止自体も地震による影響を防ぐため慎重に行われる。

 そして八時二十分。出力は最古参の三号機で五万キロワットまで落ちていた。

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