人狼サッカー

あじじんた

第1話 プロローグ

 20XX年ーー。


 行き過ぎた資本主義はついに最終局面を迎え、富の「一極化」とでもいうべき現象が起きた。1991年の社会主義終焉に次ぐ、ある種の破綻といってよかった。


 企業は止まらぬ連鎖倒産、スポンサーはプロスポーツから次々撤退。

 かつて年収数十億円とも言われたトップアスリートたちの総収入は悲惨にも、庶民レベルとほとんど変わらないところまで大暴落した。


 失われたその分の富は、一部の権力者たちに一点集中的に吸い上げられることになる。この現象は「一極化」と呼ばれた。だが人間というのは、過剰に何かを持ちすぎるとかえって持て余すものらしい。



 およそ金で手に入るあらゆる遊びをすぐにやり尽くしてしまった一極側の資本家たちは、有り余る資本と時間を「実験」に費やすようになった。


 オリンピックの観戦に飽きた彼らは、資金難に開催を危ぶむIOC(国際五輪委員会)の足もとを見て、その運営実権を事実上買収。特権を振りかざして、好きな競技にほかの要素を無理矢理くっつけることを提案したのだ。



 そして、今年。

 

 すでに開催に向けて数十試合のテストマッチが行われたこの競技が、とうとう日本オリンピックで公式に行われる。


 俗に言う「人狼サッカー」である。

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