産む者

@riiko

第1話 こんにちは赤ちゃん

「おんぎゃーおんぎゃー」ああ、赤ん坊って本当におぎゃーって泣くんだ。青白くぬめぬめした小さなそれは本当に私の中から出てきたのか。いや、私の穴から出てきた考えると小さいと言うよりむしろ大きすぎるそれはいつの間にか私の乳に吸い付いていた。何勝手に初対面で乳吸ってんだとも思ったけど、初対面でそういう場面もまぁあるわな、とか一人で納得していたら無意識に笑っていたのか看護師さんに「可愛いですね」なんて言われてしまった。必死に吸い付く姿を見て過去の男たちを思い出してましたなんて不謹慎な事は言えず、笑顔でごまかす。ごまかそうと思ったのに顔が引きつってうまく笑えない。顔面まで筋肉痛になるなんて。ぐちゃぐちゃな顔面でうまく笑う事もできない今の私は相当ひどい顔をしている事だろう。綺麗と言うよりは可愛いと言う具合で男受けしそうな看護師さんの微笑みを受け止めきれず逃げるように乳を吸う我が子を見た。なんと言うかこいつもどこで吸い方覚えてくるんだか。男だからなのか、本能なのか。そしてこれがおっぱいの本来の使い方で、こいつのためにあったのか。今までは時々感謝したり、感謝されたり、羨んだり、羨ましがられたりするものでしかなかった私の付属品がいきなり必需品になってしまった。こいつにとっての食料だったり、寂しさを紛らわすためだったり、性の対象が生の対象になるなんてなんだか笑える。おっぱいへの食いつきの良さは歴代一位だし、替わりがいないと言う点でも気分はいい。少し離れるとすぐ泣くし、どこかしら触れていたいみたいで、触れているとポカポカする。寒がりの私にとっては温めのいらない湯たんぽ機能はとても嬉しい。泣くにしても全身使ってアピールしてくるし、前触れなく笑ったり、吐いたり、びっくりしたり、突っ込まずにはいられない事を毎日繰り広げてくる。誰かのものになるなんて絶対いやだって、一人で生きていくんだって啖呵切ったのに。でもしょうがない、なんだか私がいないとダメみたいだし、もうちょっとこいつの必需品でいてもいいかなって思う。ああ、なんだ、赤ん坊って本当に可愛いんだ。

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