27. 安心と仲間
ヒナリを見送った後に、三条カノンと四宮シノアからじと目で見られる。
「なんだよ」
俺は、すこし恥ずかしくもコーヒーを啜りながら、二人のリアクションに対して、問いかける。
「二人でいる時だけキモいを言い合う仲って。あなたどれだけ危ない人なの?」
四宮シノアが俺を見る目は、最高潮に蔑んでいた。
「ヒナリちゃん可愛いね。如月と同じDNAだとは思えないよ」
三条カノンは、とにかくヒナリを気に入ったっぽい。最後の付け加えいらないと思うが。
「バ、あれは、ヒナリは俺を弄って楽しんでいるだけだ。本気でキモい、キモく無いみたいなやり取りをしている訳ないだろ」
本当は、かなりヒナリには言われているが、ここはヒナリがちょっと変わった性格だ。ってことにしておこう。
「弄って楽しんでいる妹と、弄られて楽しい兄」
四宮シノアは、そういい放ち、コーヒーを嗜む。
「四宮さん、すいませんでした。俺が悪かったです。俺は楽しんでいない。決して」
「ふふ」
四宮シノアは少し嬉しそうに笑う。結局、四宮も俺を弄りたいだけなんじゃねーか。っと言ってやりたいが、四宮の自尊心を考えると、言うべきでは無い。心の中でだけ反論しておこう。
「あはは。なんか楽しいね」
三条カノンは、俺や四宮を交互に見なおして、言う。
「この世界軸、時間軸にきて、緊張する事の連続だったけど、なんか。。。」
そう言うと、三条カノンは涙を零す。
「あ、あれ、なんだろ、ごめんね。ちょっとお手洗い貸して」
涙が恥ずかしいと思ったのか、その場を離れる三条カノン。
「こう言う時、俺はなんて言ってあげたらいいのだろう。俺が今まで生きてきた陳腐な経験や感性では、彼女を支えてやれる言葉一つ出てこない。尺詰めこんなところかしら?」
四宮シノアは、微笑しながら俺に問いかける。
「ご丁寧な心のアフレコありがとよ。概ね合ってるけど、俺の今までを陳腐にするのはやめてくれる?」
四宮シノアは、三条カノンが去りゆく中で、俺が見せた言動からそのように察したのだろうか。
大した奴だよ。毒舌と大事なところが抜けているところがなければ。
「気にする事無いわよ。三条さんが涙したのは、緊張の糸が少し緩んだからであって、それ以外のなんの意図もないわ。ましてや以前、如月くんが無意識に鳴かせた時とは違うから安心して」
「無意識に鳴かせた事はないし、そもそも意味が違うだろ。
泣かせてしまった事は反省していますし、もう二度としませんが、そもそも無意識ではない。
無意識で女を泣かせる鬼畜系の流れは頼むからやめてくれ」
四宮シノアは、俺がなぜ三条が泣いているのか分からなく、それを自分が何か原因なのではないかと思わないようにフォローしてくれる。
陥れるのとワンセットで。ワンセットしてくれなければ、心からいい奴だと思えるのに。
「如月くんは不完全でいいの。不完全だからこそ私達は、この世界軸、時間軸に来ているんだし。私達と共にこれから積んでいく経験で、いつか三条カノンさんみたいな子が現れて、今見たいなシュチュエーションになった時、心の支えになってあげられるような対応をしてあげてね」
四宮シノアの言い回しにはやや気になるところがありつつも、今の俺にはその言葉をそのまま受け入れるほかはない。
「わかったよ」
三条カノンが抱える孤独や不安との戦いは、四宮シノアにとっては大きな事では無いのだろうか。
アイアンハートなのか、それともすべてを包んでしまって奥深くに眠らせているアイスハートなのか。
割り切る事が得意そうな四宮シノアは、後者のような気もする。
っとなると、割り切る事が得意である四宮シノアさんが、俺の伴侶になるかもしれない可能性は割り切れなかったとなると俺の心が今度は痛すぎるので、後者でありそうな気もするけど、やっぱり俺の中では前者ということにしておこう。
自分で自分を支える俺。
「いやいや、ごめんね」
三条カノンが恥ずかしそうに戻って来る。
俺は、四宮シノアから貰った情報を元に自分なりの最善の言葉を三条カノンに伝える事にする。
「いや、ま、その、緊張の糸が緩んだ証拠だろ。これからは俺もいるし、四宮もいるし、すべては話せないけどヒナリだっているんだ」
だから安心しろ。っという言葉は出かかったが言えなかった。
俺たちの関係は共闘関係のようなものなので、いつかは袂を別つかもしれない。
だから安心しろ。なんて言葉を気安く言うには無責任すぎる。
この言葉は三条カノンと見る未来のビジョンがイコールになった時に話すべきだと思った。
「え、あ、うん」
そして、三条カノンは、せっかくトイレに行って拭ってきた涙をまた流してしまう。
四宮シノアから、余計な事言って。っという顔される。なんかすいません。
「あ、悪い、これ」
テーブルにあったティッシュを渡す。ハンカチを渡すには少し俺の中で抵抗がある。
昔、クラスの給食時に、面白い顔をした奴のおかげで口に含んだ牛乳を向かい側の女性にブチまけた奴がいた。
ちなみに両方とも俺では無い。同じ机のブロックにいた俺は、顔に牛乳にぶちまけられて泣いている女子にハンカチを渡したら、嫌な顔をされことがある。
その後、結局その子が持っているハンカチで事なきを得たわけであるが、あれ、ハンカチで牛乳を拭くの嫌なの?何なの?と言う俺のトラウマ。
少しどうでもいい少しだけ悲しい思い出。
「ありがと」
三条カノンは、少し俯いて、ティッシュで涙を拭うような仕草をした後に、顔を上げ
「如月の癖に、かっこいいこと言うなし」
少し目の辺りは涙で濡れていたが、満面の笑顔で俺にそう答えた。
「悪い悪い」
俺や四宮シノアも微笑しながらも、なんだか穏やかな空気がそこにはあった。
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