20. 覚悟とリスクと比較
「ところで、四宮はどうした?四宮の性格からして、大丈夫そうなら私は帰るわね。後、よろしくね。とか言いそうだけど」
さすがにそんな対応はされていないと思うが、ここにいない事は確かなので、あまり心配されていなかったら悲しい気持ちになるので、自分の中で防壁を張った聞き方にする。
「何言ってんの?あんた本当馬鹿じゃないの。四宮が居たから如月は助かったんだよ」
三条カノンは、事の事態をわかってるの?と言わんばかりの口調で俺を叱り付ける。
想定外のコメントに相当びっくりした。
刺された所が心臓なのもあり、それが関係しているかどうかは分からないが、ドクリとなった気がした。
「あの後の話をしないとだよね。いきなり怒っちゃってごめんね。
四宮は言い方とか態度とかかなり上から目線過ぎるので、私も正直に好きになれないと思ってたけど、表面上だけで人を判断しちゃダメだね。反省だよ」
三条カノンは、四宮シノアに対する自己評価の改めるくだりを付け加えた上で
「如月は、あの時、心臓一突きだったの。相手は誰かわかっていないけど、もちろん私達と同じく、タイムパラドックスボックスで別世界軸、時間軸から来たエージェントだと思う。魔術系統も私や四宮シノアに似ているしね」
ついに本命が現れたか。。。。。
三条カノンも四宮シノアも穏健派だとは自覚していたので、いつか来るとは思っていたけど、自分の想定している現れ方をはるかに超えていたので、今後もこんな奴らが出てくるのかと思うと震えてくる。
そもそも誰かもわかっていないと言う事は、当面は、暗殺されるかもしれない危険性と隣り合わせで行動しなければいけないだろうし。
「そのちょっと前の事を、如月が覚えているかどうか分からないけど、引き分け停戦のやり取りしているくらいなので、私も四宮も魔術を使えるだけの体力も残っていなかったの。
相手を確認して追う事よりも、私と四宮は如月を救う事を優先しなければいけなかったけど、正直、心臓一突きしてくるような使い手であれば、手の施しようがないんじゃないと思って、私は恥ずかしい話だけどテンパってしまったの」
三条カノンが、その時どれだけ絶望的だったのかは表情を見ればわかるほどだった。
三条カノンや四宮シノアにとって、俺という存在が消えてしまう事は、自分達のミッションどころか、存在価値や使命すらも無くしてしまう事なのかもしれないと。自分が思っているよりもこの命が重い事を再確認させられる。
「四宮はその点、冷静かつ優秀だった。悔しいけど、私ではその考えすら及ばなかった。四宮はタイムパラドックスボックスを使って心臓だけを刺されるちょっと前に戻したの」
三条カノンは、自分の不甲斐なさを悔やんで、自分の言葉を噛み締めるようにその時の状況を教えてくれた。
「タイムパラドックスボックスってそんな事もできるのか?」
この会話は問題ないだろうという判断の元、俺は興味本意で聞いてみる。
そもそも私では考えが及ばなかったと、三条カノンは言うくらいなので、本来の使い方とは違うのであろう。
「いえ、本来はそんな使い方じゃない。むしろそんな使い方ができるんだって。今回知ったし、四宮自身も知らなかったんじゃないかな。多分、あの状況でどうしたらいいのか?っていうのを瞬時に判断したんだと思う。それ相応のリスクも踏まえて瞬時にね」
「それ相当のリスクって、なんなんだ」
もしかして。。。。。
これが本題なんじゃないか。
少しだけ、冷や汗を感じながらも、聞いていい事か悪い事かなんて考えてられない。
その先の情報は俺は絶対に知るべきである。
三条カノンが、終始落ち込みながら状況の説明をしている事に対しての”違和感”が見えてきた気がする。
三条カノンはその場の適切な対応をしなかったことを悔やんでいたり、落ち込んでいたりしているのでは、ない。
“常識では考えられなかった“それ相応のリスク”ってやつをなんの迷いもなくできた四宮シノアの意志の強さを目の当たりにしたことで、自分の覚悟と比較してしまったんじゃないか。
誰だってある。
自分はここまでの思いでやってるんだ。なんでここまでやっているのに、自分の望んでいる結果が出ないんだと。
その思いは儚くも、自分の望んでいる結果を実現している人の”覚悟”や”言動"を比べた時に、大したものではない”現実”を突きつけられる。
どこかで分かっていた自分と対面しなくていけなくなる。
その時に自分は、なんの為にどうして、叶うわけもないことの為に、色々なものを犠牲にして生きてきているか。
このまま続けていく事に意味があるのか。っと。
言葉では言い表せない恐怖と虚無感に襲われる。
大なり小なりあるであろうそんな出来事ではあるが、三条カノンが直面している”自己否定”は、俺が今まで経験してきたものでは計れないレベルだろう。
だからこそ、俺は三条カノンにかけてやる言葉が見つからない。いやむしろ、言葉はかけないほうがいいのかもしれない。
「四宮が負ったリスクは・・・」
三条カノンは、俺が何かを思いつつも、リスクの詳細を問おうとしている気持ちを汲み取ってか、話を続けてくれた。
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