9「彼と彼女」
「え、それホント?」
一瞬信じられなかった。まさか、と思う。でも彼は確かに、最近学校に来ていなかった。
「うん、先生から聞いたよ。あの暗い子と、二人でだって」
確かにこの友達の情報収集能力はすごい。大概の情報はこの子から最初に聞く。それでも、信じられない。それでも色々と、辻褄が合う。彼が来なくなったのは、私があの子にちょっかいをかけた、その翌日から。振られてしまった、腹いせだったと思う。何故自分が振られてしまったか納得がいかなくて、それで彼を追いかけて、あの子といるのを見つけてしまったのだ。そしてあの子のことを色々と調べた。そしたら彼女の家族は、殺されたということを知った。彼女がその犯人だと疑われていたということも知った。犯人は捕まったということも合わせて知ったはずだけど、その時は頭に入らなかった。
そして、私は、彼女の裏の経歴を知ったのだ。彼女はクロかった。それがますます、私を嫌な気分にした。こんなあの子が、彼を独占しているなんて。だから、私は言ってしまった。狂気に捕われていたのかもしれない。そしてこうなってしまった今、はっと気付くのだ。でも、起こってしまったことはどうにもならない。タイムマシンなんて、今はないのだ。あったとして、変えられるのかは判らない。過去は変えられるのか変えられないのか。現物がない今、結論は出ていない。
「あのね、はーちゃん。私ね、あの子にひどいこと言っちゃった。『犯罪者』って、言っちゃった。あの子は誰も殺してなかったはずなのにね。違法なことはやってたかもしれないけど、警察が認定した訳ではないのにね」
彼女が遺体となって発見されたことは、急遽設けられた全校集会で発表された。そして彼も。一緒だったということは伏せられた。でもみんな、何となく勘付いていたとは思う。それが辛かった。彼のカノジョは私じゃないんだなって、私に刻み付ける。焼き印みたいに、いや、私の肉を鉤爪で引き裂きながらのような。
学校が終わると、もう私は覚悟を決めていた。私はいつも使う地下鉄の駅に入り、そしてホームの一番端に立った。乗車口の数字が大きい方。私は保存メールボックスから、一通のメールを読み出す。送信先に、情報通のあの子のアドレスを入力する。あの子なら、ちゃんと真実を広めてくれるだろう。そう思って、そして私の意地汚さに絶望した。また、貶めようとしている。私は結局、メールを送らなかった。送らないまま、削除した。
電光掲示板に「まもなく電車が参ります」の表示が出る。私は一度、深呼吸をした。心を落ち着かせる。そして、狂気に身を委ねる。
『一番線、×××××行きが参ります。白線の内側に下がってお待ち下さい』
流れるアナウンス。そして電車の姿が見えた。いち、にのさん。心の中で数えて、タイミングを図って、私はホームから飛び下りた。けたたましい警笛。でもこのタイミングで間に合う訳がない。最後に前照灯の白く眩しい光が見えて、ちょっとだけ強い痛みが襲ってきて、私は意識を手放した。
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