第百二十話 長が剣を握る時 その2

 「......これはこれは、いつの間に私を囲っていたのやら」


 孝二の首回りには四人の剣や刀を突きつけられている。

 だが孝二は余裕の笑みを崩さない。


 「中には下手したらレベル5に達するかもしれないエネミーもいたのだが、ものの3分で片づけるとは......」


 親衛隊が透明化した後は、一瞬の出来事であった。

 足音だけが迫りゆくなかで恐怖におびえていたエネミーらは、何も見えないところから次々と切り傷がついていったいき、召喚人は不自然にも消滅していった。


 「ふん、全く怯える様子はないな」

 「当たり前だ。この人らに殺されないとは分かりきったことさ」


 孝二は声を震わせる様子もなく言う。


 「......お前ら、外へ出ろ」

 「了解」


 寿之は親衛隊に命令すると、彼女らは孝二に向けていた刃を下げる。

 そして寿之言う通りに扉を開けて、退出していった。

 寿之は席を立つと、その机の前に出て、孝二と正面に向き合う。


 「この部屋は頑丈だ、これで好きなだけお前を処すことができる」

 「それは助かるよ兄さん。んじゃ早速始めるか」


 ニヤニヤとした表情を崩さない孝二は、白いコートのポケットから警棒のようなものを取り出した。

 警棒は両側から伸びると、その部分からは青白い電気が走る。

 孝二がこれを持っていたというのは寿之も知らなかったが、警棒という珍しいものを用いたことに意外さを感じた。


 「興味深い武器だな」

 「兄さんはどうするんだい?」

 「私にも当然あるさ」


 寿之が言うと、彼の両隣から魔法陣が光を出して現れた。

 そこから浮遊して出てきたのは、右手には盾、左手にはランス、いずれも漆黒に包まれている。

 ランスは銃口が備わっており、その先を尖らせたような形で刃先が存在している。


 「『滅龍めつりゅう』、この槍のビーム砲はレベル5のエネミーを一瞬で吹き飛ばす代物だ」


 寿之は早速そのランスと盾を装備する。

 ずっしりとした重みがあり、それだけでもこの武器の強力さが感じとれる。


 「実戦で使うのはかなり久しぶりだが、腕は鈍ってはいないはずだ」

 「すごい武器だね兄さん。じゃ、準備も整ったことだし......殺し合いの始まりだっ!!」


 孝二はニタリとしていた口角を上げながら、床を思いっきり蹴って寿之へ襲い掛かる。

 太った見た目からは想像もつかないスピードで接近してくる彼は、二つの警棒で横に薙ぎ払う。

 寿之は冷静にそれを盾で受け止めると、バチバチと火花が散った。


 「お前もあの地下シェルターの組織か?」

 「良く知ってるね兄さん」

 「お前の行動をあいつらに監視してもらったんだ。そしたらお前がそこに行ってることが分かってな。それにその内部も――」


 寿之は盾の隅からランスを孝二に突き付ける。

 それでもなお笑顔を崩さない孝二に対し、柄に取り付けてある引き金を引いた。

 銃口からは、真っ黒な色の槍とは対照的に真っ白な光線が、大きな反動を出しながら盛大に吐き出した。

 だがそれを孝二は間一髪で回避し、大きな爆発音がしたのはその向こうであった。

 その孝二はというと、寿之と少し距離を置きながら横に立っている。


 「そして今は、それを叩き潰そうとしている最中だ」

 「何? その作戦は私は聞いてなっかたぞ」

 「そうだろうな。お前がその作戦には一切関わらせないようにしておいた」

 「んで偶然にも、二つの組織が互いを潰し合おうと同時に行動に出た、だね?」


 孝二は後ろに飛び跳ねたかと思うと、忍者のように両足と片手を壁に引っ付け、力を溜めて前にいる寿之に向かって飛び掛かる。

 孝二はそのまま警棒を振るうかと思いきや、その寸前で足をつけ、寿之の真横に素早く移動した直後にその懐を襲うというフェイントを仕掛ける。

 寿之はそのゆさぶりにも動じず冷静に盾を前にして構える。

 再び激しくぶつかり合った棒と盾のはざまからは、稲妻がジグザグとあらゆる方向へ空を切り裂く。


 「そんな小細工は通用しないぞ」

 「だけど生憎兄さん、あっちは本拠地じゃないんだよ」

 「何処だ?」

 「それを言うほど口は柔らかくないよ」


 孝二は再び距離を取ると、また俊足を飛ばして縦横無尽に駆け回る。

 寿之の目を混乱させようという意図か。

 だが、彼の目はその程度では誤魔化せなかった。


 「どうだっ!!」


 孝二は突然寿之の方へと方向転換し、髪を風圧で肌にほぼ密着させながら寿之を襲う。


 「......遅い」


 寿之は小声で呟くと、右足を思いっきり上げた。

 そこに丁度孝二が通ったので、その弾力がある葉らを思いっきりへこませる。


 「ブッ!!」


 孝二が声を吐き出した中、寿之は盾で彼の顔面を思いっきり殴り飛ばす。

 彼は殴られた方向に大きく飛ばされて、途中警棒を手放しながらゴロゴロと転がる。

 寿之は吹っ飛んだ彼の方へと歩み寄る。


 「遅い、動きが単純だ。もっと私を戸惑わせるような動きは出来ないのか?」


 彼は孝二の前に立つ。

 孝二は顔から血を流しており、笑顔は無く焦りの表情を示していた。

 寿之は身体を起こそうとしている彼に刃先を向ける。


 「ぐ......!」

 「お前の敗北だ。約束通り葬らせてもらう。悪く思うな」

 「......フ、フフ......」


 だが孝二は、それに怯える様子もなく、むしろ笑っている。

 何かあると悟った寿之は問う。


 「何だ?」

 「確かに私は敗北した......だが、それは人間としてだ!」


 孝二が顔を上げると、一旦消えていた笑顔は再び、しかもさっきよりも残忍さを増して浮かび上がらせているのが分かった。

 そして彼の黒目は真っ赤に染まった。

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