第七十四話 二度目

 2階の東の廊下。

 No.3は奴の、デュルの息の根を止めることだけを考えていた。

 クローバーの手下を光線で無情に撃ち抜いてる。


 「デュルはどこなのかしら? 教えて」


 ミカはボロボロになったクローバーの手下の一人に詰め寄る。

 潔白だった彼女のゴシック服は所々赤くなっている。


 「ひっ、俺は、俺は知らねえ!!」


 手下は涙目になりながらデュルの居場所は知らないと否定する。


 「デュルのせいで1ヶ月も全身の痛みを疼かせながら生活する羽目になったのだ。あいつの罪は重い」


 ミカは拳を握る。

 彼に腹を殴られ、血を吐き、片腕も折られで、散々痛め付けられた事に根に持っている。

 しかもあの時に倒し損ねた事は、彼女のプライドのようなものを傷つけた。

 彼女がデュル討伐に参加したのは、この為だ。


 「さあ、もう一度聞くわ、デュルはどこなのかしら?」

 「だ、だから俺は.......」


 手下が口を震わせている。

 

 「そう、知らないのね......じゃあ、もう用は無くてよ」


 そう言うとミカは、掌から光の輪を出現させた。


 「や、止めてくれ......」


 手下が涙声でそう訴えていると、血溜まりを歩く音が聞こえる。


 「うひっ、俺を探しているのか?」


 その声にミカが反応し、ビームを出しかけた光の輪を消す。


 「ひ、ひ~!!」


 殺されかけた手下は情けない声を出しながら急いでその場から逃げ去る。


 「......久し振りね」


 ミカは透かさず周りに輪を出現させる。


 「ウヒヒ、まあ待て」


 デュルは舌をはみ出しながら手を前に出して、攻撃しないように促す。


 「ここで殺るには狭すぎるだろ? もっと広い所で殺ろうぜ」


 ※ ※ ※


 デュルとミカがきた場所は、書斎である。

 壁際に設置されてある本棚には、ずらっと本が並べられてある。


 「おお......」


 本に興味のあるミカはこの光景につい見とれそうになってしまう。

 

 (ペソの城にこんな部屋があったとは......)


 しかし、この書斎を一通り見渡したところで、彼女は少しおかしいことに気がついた。

 この書斎、それほど広くないのだ。


 (どれだけ広いのかと思えば、廊下と大差ないわね......)

 

 「どうだ? ここなら誰にも邪魔されずにお前を処刑できるな」


 デュルは書斎のドアを閉める。


 「内装もそれなりに綺麗ね。これを貴方の血で汚すのは勿体ないわ」

 

 ミカは微笑しながら白髪をかきあげる。

 ここで、さっき疑問に思っていた事を問う。


 「ていうか、貴方さっき廊下が狭いからここに移動しようって言ったわよね? その割には、広くないような――」

 「ひゃひゃひゃ、さあ始めようぜ!!」


 すると、デュルが唐突にミカに殴りかかってきた。


 「!」


 彼女は急いで回避し、距離を取る。


 (露骨ね......絶対になにかあるわ)


 ミカはそう推測しつつ、ビームをデュルに向けて放つ。


 「うひぃっ!」


 しかしデュルは本棚や壁を利用して上手くビームをかわす。

 そのたびに本が床に落下していき、ビームやデュルの移動によって破けたりする。

 ある時はミカのビームを、本を盾にして守ったりもする。


 「ム、小癪......」


 ミカは少し眉を潜めながら、本棚の上に捕まっていたデュルにビームを放つ。

 するとデュルは回避し、ビームは本棚に当たる。

 その拍子で、上の方から本が落ちてきた。


 「!?」


 ミカは両腕で身を防ぐ。

 本が落ち終わり、腕を顔からどかすと、デュルがミカの目の前まで迫っていた。


 「ウヒョオオオウウ! お仕舞いだぁ!!」


 彼はそう言いながら拳をミカに向ける。


 (デュルに触れればビームは放てなくなる。普通ならバリアを貼るけど......)


 しかし、もう彼の能力は受けない自信があった。

 彼女の能力、超適応ちょうてきおうは、一度受けた効果を二度目以降は俊二に、または一度目より極端に短く適応出来るからだ。


 (両手で受けれるっ!)


 自分を試したくなったミカはデュルの拳を両手で防ぐ。

 高い音が響き、彼女の腕が僅かにきしむ音が聞こえる。


 「んん......!?」


 デュルもその行動に驚くも、後ずさりして体勢を立て直すと、即座に彼女を嘲笑する。


 「ひゃひゃひゃ、馬鹿め、お前はもうビームは暫く使えない!! バリアを貼ればいいものを!!」


 下をレロレロと出しながら爆笑する様はチンピラそのものであった。

 

 「.....はぁ......」


 それが哀れに見え、思わずため息を吐くミカ。

 

 「うひひ、そんなにショックか?」

 「......貴方、超適応を舐めないでほしいわね」


 彼女は凛として立っている。

 すると彼女の周りには、複数の光輪が出現した。


 「ひゅ......!?」

 「私が二度も同じ手にかかると思いまして?」


 彼女はそう言い放つと、そこからビームをほぼ同時に発射させた。


 ビームの内の数本はデュルに命中した。


 「ひぎゃああああ!!!」


 床やデュルの体へのビームの着弾音と共に、彼の大きな悲鳴が書斎に響き渡る。


 「さっきの攻撃、せいぜい手が痛くなる程度でしたわよ。愚かだったわね、デュル......もう貴方の能力は適応したわ。貴方はもう、あたしの前では牙を折られた狼同然」


 そう言ってミカがビームで彼にとどめを刺そうとした時、突如右足に鈍痛が走った。


 「ッ......!?」


 ミカが見てみると......彼女のの右足には、鎖が通ってあった。

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