第四十五話 アシュリーの恋愛事情
東京銀行の外側、ワーワーと騒ぎ声が漏れている。
その音を耳にしながら、アシュリーはイザベルを追うために外に出ていたが......。
「......あいつはどこだ」
アシュリーは見失ってしまった。
外は暗い、光は東京銀行内部の一部と等間隔に立ち並んでいる電灯だけだ。
その暗闇の中に、彼女の紫のフードが同化してしまったのだろう。
(サラにあんな格好つけたのに、このままじゃ恥さらしだ)
と、心中焦りが出ていた。
と暫く長い青髪を揺らしながら辺りを捜索していると、怪しいビルを見つけた。
(窓ガラスが割れてる)
地面に散らばっている窓ガラスの破片が、電灯の光をキラキラと反射させている。
「......あいつがいるのか」
と、アシュリーは推測する。
中にはイザベルがいるだろうと、半分期待のようなものをを抱きながらゆっくりとそのビルへ移動する。
気づかれたらまた逃げられるかもしれないので、なるべく音は立てないようにした。
(ゆっくりと......)
ある程度ビルに近づくと、彼は剣の柄を持つ。
そして、入り口に近づき、ビルの外壁に背中を付けた。
すると、ビルの中で刃がこすれる音がした。
そこで、だれか人がいるということは確信した。
しかし、シュリーにはある疑問が浮かんだ。
(鎌を鞘に納めている?)
いや、イザベルにはそんな鞘は無かった。
そもそも、あんなでかい鎌を納める物なんて、存在するのだろうか。
(イザベルじゃない......なら誰だ?)
アシュリーは、その音を出した人に見つからないよう、外壁で身体を隠しつつ、そっとビルの中を覗いた。
すると、体格の大きいマッチョが一人倒れており、その隣では、恐らくさっきの音を出した張本人であろう、2本の日本刀を持った少女が立っている。
それをみたアシュリーは、その人物がイザベルではないとわかり、普通なら残念に思うのだが、そんな感情はあまりわかなかった。
「......ララか」
アシュリーが彼女の名前を呼ぶと、ララはこっちを向き、
「あ、アシュリーだ!」
と、ニコッとする。
アシュリーは壁に張り付くのを止め、割れたガラス窓を潜ってビルの中に入る。
「なんだ、この男は」
アシュリーが肉の塊と化している筋肉質の男を見つめる。
「ララが倒したのか?」
「うん」
ララは刀を2本同時に鞘に納める。
「どう、私、すごいでしょ?」
と、目を輝かせながらアシュリーに問いかける。
「そんなこと僕に聞いてもわからん、こいつの強さによるだろ」
「え~、結構強かったのに」
ララはふてくされたような顔をアシュリーに見せる。
「この人、尻尾が四本あって、それで私結構苦戦してたんだけど......」
「し、尻尾?」
「うん、こう、グニャグニャって私に伸びてきて私に襲いかかってきたの」
アシュリーは何故かわからないが、ララの戦闘シーンを想像するのは止めておいた方が言いと思った。
「でも何とか倒すことが出来たよ」
「なら、良かったが......もうクローバーのメンバーは殺られたか、逃げたかでもうここにはいない筈だ」
何故なら、アシュリーは通信機ですべての班で、「クローバー殲滅完了」という声を聞いたからだ。
「僕はもう帰るか」
「撤収の命令は出さないの?」
「ああ、そうだったな」
イザベルを追うのに夢中になって、忘れていた。
この作戦の指揮権は一応アシュリーにあるので、撤収の指示は彼の役目となっている。
(と、言っても、撤収の指示しか指揮らしい指揮は執って無いんだけどね)
アシュリーはそう思いながら、各班に通信機を使って『撤収だ』と言った。
「終わったー!」
と、ララは背伸びをする。
「......よし、帰るか」
と、アシュリーはララを置いてビルの外へ出ると、突然煙が吹き出てきた。
「ん!?」
と、反射的に鞘を握り、煙が出た方向に目を向けると、そこにはニタニタと意地悪な笑みを浮かべているアイラがいた。
「......なんだ」
「一緒に帰らなくても良いのか?」
と、アイラは煙草を吸いながら言う。
「え、なんで僕が?」
「いや、そうしたらいい感じになるかなって」
アシュリーは大体察しがついてしまったが、あえてわからないふりをして、「何だよそれ」と返した。
「いいや、別に」
アイラは鼻で笑った。
すると、ララもビルから外へ出てきた。
「お、アイラも来た」
「ララ、こいつと今『恋』について話していたんだ」
「いやしてないから!」
アシュリーはララに悟られないように必死にアイラの言うことを否定していた。
ララは頭の上に「?」を出しても違和感が無いような不思議そうな顔をしている。
「撤収の指示を出した、僕はもう帰るぞ」
といって、逃げるように去っていく。
去り際に、「お大事に」と言うアイラの声が聞こえた。
(ああ、もう何でだよ)
と、アシュリーは恥ずかしさで顔を赤くしながら暗い道を歩いている。
(......ララ)
さっきの自分を呼んだ時の彼女の笑顔が、頭から離れない。
「可愛かったな......」
アシュリーそう呟きながら、東京銀行を後にした。
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