第三十五話 お嬢様は屈しない!

 辺りは静まり返っている。

 聞こえるのは、男の下品な笑いのみである。

 向こうで眺めている執事と妹も、青ざめた顔をして彼らを見ている。


 ミカの白い服は、一部赤くなっている。

 その彼女のそばにいる男は、慢心した様子でこう言う。


 「お前の負けはもう決まった。あのビームはもう出すことはできないな、ヒヒヒ......」


 デュルは未だに汚い笑みを浮かべている。

 ミカはビームを出すため、歯を食いしばり、掌を彼の前にかざす。

 しかし、そのビームを出す輪は現れることはなかった。


 「おお、どうした? 何も起こらないぞ?」


 と、デュルが挑発する。


 「く......す、超適応スーパーアダプトが......」

 

 ビームが撃てないということは、超適応の効果も発揮されていないということになる。


 「ヒヒッ、超適応も、俺の能力には適応アダプトできなかったってか? ウヒヒヒ......」

 「その......吐き気を催す笑いをやめろっ!!」


 ミカは彼の言動に腹を立て、立ち上がると、彼の腹を殴る。

 が、やはり、彼はびくともしない。

 彼女の一般女性並みの筋力じゃ、歯が立たない。


 「ウヒヒ、なんだ、マッサージでもしてくれるのかな?」


 彼はそういうと、彼女が殴った右腕を掴んだ。


 「さあ、今からお前をじわじわと痛めつけてやる。ウヒヒ、楽しみだな......」


 彼はゆがんだ笑顔を彼女に見せつける。


 「あ、貴方に......貴方に屈するものですか!!」


 ミカはそう叫ぶが、デュルはその顔を崩さない。


 「ええ? なんだって?」


 彼は手で耳を覆い、その耳を彼女に向ける。

 その時だった。


 「お、お姉様から離せ!!」


 そう叫んだのはメアリーだ。


 「お待ちください妹様!」

 「うるさい!!」


 暁が彼女を止めようとするも、彼女は止まることはなかった。

 彼女が腕の裾をめくるとそこには複数本のナイフが備えられていた。


 「あ?」


 デュルはようやくその笑顔を崩し、彼女を凝視する。

 彼女は、そのナイフを数本取り出すと、半泣きになりながら、


 「貴様の首を掻っ切ってやる!!」


 と、我を失っている様子だった。

 しかし、


 「まて、メアリー!!」


 ミカがそう叫ぶと、同時にメアリーも固まった。


 「貴方が戦ってはいけない! そんなことをしても貴方は勝てない!」

 「だ、だけどお姉......」

 「勝てない戦いに挑んでどうするの!? 犠牲者が一人増えるだけよ!!」


 と、ミカはメアリーに切実な願いをぶつけた。


 「......それに、私は勝つわ。絶対に!」


 と言い、彼女はメアリーを安心させるために笑う。


 「お、お姉様ぁ......」


 メアリーはナイフを落とし、その場に崩れた。

 暁がメアリーのそばに行って、慰めている。


 「ヒヒ、勝つだとぉ.....?」


 デュルはその言葉に反応して、掴んでいる腕に力を入れる。


 「......!!」


 彼女の腕はミシミシと音を立て、激痛が走る。


 「さあ、聞かせてくれよ、お前の悲鳴をよぉ?」


 と、彼は促すも、彼女は悲鳴を出すことはない。


 にしても、さっきのメアリーに対する予告勝利宣言だが、実はただ彼女を安心させるために言ったわけじゃない。

 彼女はまだ勝ち筋があると本気で思っているのだ。

 その希望は、彼女の能力、『超適応』である。


 デュルは無効化させたと言っているが、この超適応、場合によっては発動に時間がかかるのだ。

 通常なら、彼女に悪影響を与えるものは、無意識に、またすぐに対応される。

 しかし、その規模が大きくなると、時間がかかる。

 つまり、この能力は規模が大きい部類に入るので、時間がかかる。

 決して、無効化されているわけじゃないと彼女は考えたのだ。


 そして、その効果が表れるまで、デュルの攻撃に耐えなければならない。


 「お~らよ」


 デュルはその手を離したかと思えば、ミカの腹を再び蹴った。


 「うぐ......!」


 彼女が倒れ混むと、髪を掴み、その頬を殴る。

 顔がその衝撃でぐるっと回り、口から血が飛び出す。


 「ぐ......ぐわっ!?」


 彼女は背中から石を落とされたかのような圧力がかかり、地面に叩きつけられる。

 もはや、意識が飛ぶ寸前の状態だった。


 「はぁ......」


 デュルは気が済んだのか、そこから攻撃をすることは無かった。


 「ぐ......」


 彼女はよろめきながらゆっくり立ち上がる。

 

 「......じゃあ、最後に一言だけ聞いてやろう」


 と、デュルが余裕と言わんばかりの表情を見せる。

 だが、


 (......整った)


 彼女は、あの効果が現れたという感じがした。

 体中の痛みが、少し退いたような気がした。

 

 「......一言だけか」

 「ああ、そうだ。ヒヒヒ」


 デュルは慢心している。


 「......じゃあ、言わせてもらうぞ」


 するとミカは、ニヤっと、勝ち誇った表情を、デュルに見せた。


 「......ゲームオーバーよ」


 彼女がそう言った途端、複数の輪がデュルの周りに出現した。


 「なっ何!?」


 完全に勝っている気になっていたデュルは不意打ちを喰らい、避けることはできず、大量に被弾した。


 「ぐわああああ!!?」


 彼は悲鳴を上げている。

 なおもミカの攻撃は続き、彼はズタズタとなっていた。


 「な、超適応が......無効化されていなかっただと......」

 「油断したわね、デュル」


 デュルは半分白目を剥きながらも、彼の意地なのか、なお立ち続けている。

 ミカは、目の前に輪を出現させると、


 「地獄に落ちて」


 といい、彼に向けてビームを放った。

 その線はデュルに向かって一直線に飛んで行った。

 しかし、そのビームでデュルは息絶えるかと思いきや、何者かが彼を抱えてビームを回避した。


 「え?」


 と、デュルのほうを見ると、翼を生やした人物が、ぐったりとした彼を抱えている。

 天人だ。

 天人は、ミカに顔を向けると、


 「......こいつはまだ死ぬべきではない」


 と天獣手に変形させている天人は言う。

 その顔は、地人でいえば30代にあたるような顔立ちをした男性で、顔の一部が縫われている。

 

 「そいつを返せ」


 彼女はその人物に向かってビームを放つも、それは彼を避けられた。

 すると突然、意識が朦朧としてきた。

 体力が尽きてきたのだ。

 天人はデュルを抱えながら去っていく。


 「待て......返せ......」


 と、ミカがそういって手を伸ばすも、彼は帰ってこない。

 そして、体に力が入らなくなり、とうとう視界は真っ暗になった。

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