空を眺めて君を想う

ユウキアイキ

第1話

「好きになってごめんね」彼は泣き笑いの表情で言った。

 

 その表情は昔と何一つ変わらずきれいだった。


 整った顔立ちの彼の表情はどれもきれいに思えるが、このときの表情は特に儚く美しかった……。


▷▷▷▷


 どうしたものか? 私は取り残されてしまった。


 人が多く募った場所に取り残されたのなら、まだその方がマシだ。


 私がいるのは人どころか空気すら存在しないところ。


 そう、宇宙である。


 真っ暗闇の中、星々に反射した太陽光を頼りに海も湖もない枯れた大地の上を私は歩いている。


 個人用宇宙船に乗り、家族と宇宙旅行終わりの帰宅途中、私の宇宙船だけはぐれてしまい、この表面が砂漠で覆われた星に不時着したのだ。

 

とりあえず救助隊の方に連絡をかけたので、最悪一日待てば、迎えに来てくれるだろう。


 それまでの食料や水は宇宙船の中にあるし、この船からあまり遠くに離れなければ私の身は守られているわけだ。


 このあたりは地球が領有権を持っていて、警備船が二十四時間巡回しているので、他の星の人々が襲ってくることもない。


 だが、約一日何も起きない上にひとりぼっちで宇宙船にいることは退屈以外の何物でもない。


 好奇心旺盛な私は外に出てみることにしたのだ。


 もちろん、しっかりと宇宙服を着てヘルメットを被ってだ。


 地面は思ったよりざらざらしていて、砂浜や砂漠というより砂利道の感触に似ていた。


 なるべく視界から宇宙船が消えないようにうろうろと歩いているが、特に面白そうなものは見つからない。


 だが静かな雰囲気の中、カラフルな星々を見上げるのも悪くないと思っていた。


 その中で青く輝く星が私は眺めていた。


 我が故郷、地球である。


 十八年という短い時間ではあるが、その間の思い出があそこに多々詰まっている。


 その思い出が時間的にも空間的にも離れているというのは、これほど心寂しいものなのかと実感した。


 早く帰りたい。早くはぐれた家族と再会したい。早く友達と会って旅行のエピソードを話したい。


 そう思っても時間が早く進むわけもなく、私は視線を下した。


 すると、大地の遠くに何か見える。


 気のせいだろうか? それは動いているように見えた。


 もしかしたら不法侵入者かもしれない。


 でも、地球の警備は厳重で他の星の人がこの星に来るとは考えられない。


 ということは、私と同じくこの星に遭難した人かな?


 お互い孤独に苛まれていることだろうし、話しかけてみよう。


 私は親切心でその「動く者」に近づいて行った。

 

 すると驚くことに、その人の身体がものすごく小さいことに気づいた。


 たぶん身長は私の腰くらいしかないだろう。


 つまり、子どもだったのだ。


 しかも、その子は宇宙服を着ていなかった。


 こんな極寒で空気もない星に生身でいられるわけがない。


 しかし、目の前の子どもはその常識に反した格好をしている。

 

 幽霊? そんな疑問まで頭に浮かんだ。


 そう疑うことにはもう一つ理由があった。


 なぜなら、その子の肌が空に浮かぶ星々よりも白くきれいだったからだ。


 後に引けなくなった私は「こ、こんにちは」とぎこちなく話しかけてみた。


 するとその子は私の方に振り向いた。


 短く銀色の髪は人間離れしていたが、その子はどうも見ても地球人だった。


「お姉さん、僕に何か用?」


 その少年の顔を見て、私は言葉を失った。


「あれ? もしかしてかなえちゃん?」


 そして体の制御すら失って、その場から動くことができなくなった。


「な……なんで……?」


 なんで祥吾くんがここに?

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