三田村 サツキの吹部日記

ミカツキ

1小節目 吹奏楽をしたい!

   「どの楽器か」より、「どんな気持か」のほうが、大切じゃない?

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 4月、まだ朝晩は少し寒いけど、昼間は暖かい。今日は緑ヶ丘中学校の入学式。

町はずれの小さな中学校で、特になにがあるわけでもない、普通の中学校である。


 私、三田村みたむら サツキは、中学生になる上でとても楽しみにしていたことがあった。

それは「部活」である。昨年11月に行われた体験入学以来、どれだけ待ちわびていたことか。私は、吹奏楽部に所属したいとずっと前から思っていた。もともと楽器を演奏することは好きだったけど、体験入学の部活体験で、実際に楽器を触って、吹いてみて、音が出て、楽しくて、「吹奏楽をしたい!」と強く思うようになった。

まぁ、緑ヶ丘中には6つしか部活がないし、吹部以外は全部球技なので、運動が苦手な私は吹奏楽が好きでも好きじゃなくても、結局吹部だっただろうけど。


 でも、入学してすぐに部活ができるわけじゃなかった。仮入部の期間が二週間ぐらいあって、その間にいろいろな部活を見て回り、それから本格的に1年生も部員として所属、ということになるそうだ。それを知らなかった私は少し悲しかったが、楽しみが増えたと考えて、毎日を楽しく過ごしていた。

「全部の部活を見に行け。」

と先生に言われたけど、吹部にしか行かなかった。吹部に所属して後悔はないと思っていたし、吹部が楽しすぎたし、球技に興味を持ったことは、一度もなかったからね。


 「中学校の音楽の先生は怖い」という話を、前にカナちゃんとののちゃんがしていたことがあった。

「部活とかでも厳しいらしいし、なんか怖いな。」

「でも、前に見たことあるけどそんな感じ全然しなかったよ。」

「人はみかけによらずって言うよ~。」

そんな話を知っていたので、結構ビビってたんだけど、人はみかけによることもあるらしい。学校中の先生の中で1番優しくて、怒らないし、どっちかというと甘いほうだった。笑顔が似合ってて、ドラキュラみたいな八重歯が特徴的な女性の先生。大卒でこの学校にきて2年目で、緑ヶ丘中の吹部の顧問。

松崎まつざき ヒナ先生というらしい。


 仮入部では先輩たちの基礎練にあわせて呼吸をしたり、いろいろな楽器を体験したりした。私が吹きたいと思っていた楽器はサックスだ。トランペット並みの知名度を誇り、吹いているだけでモテそうだ。(別にモテたいわけじゃないけど。)

「難しそう」と思っていたけど、音を出すこと自体は簡単だった。サックスの先輩のリカさんに、

「これ舐めて」

ってリード渡されたときは、さすがにビビったけど。


 そんなこんなで仮入部期間が終わり、入部届が配られた。

私はもちろん「吹奏楽部」に所属した。おどろいたことに、入学してきた一年生39人のうち、吹部に所属したのは10人。約4分の1だ。仮入部のときから「多いなぁ」

と思っていたけど、ここまでとは思わなかった。


 一気ににぎやかになった吹部で次にやることは、「楽器決め」。3年間の運命を決めるようなもので、結構重たい。とはいえ、もうほぼ全員が希望する楽器を決めていた。今年は入部した人数が多かったため、楽器の種類も豊富で、知ってる楽器から聞いたことない楽器までいろいろあった。私は当然サックス、、、と思っていたのだが、サックスの募集枠は1人、希望したのは2人。私と、小学校から仲の良いなっ

ちゃんだ。仮入部のときも一緒にサックスを吹いた。オーディションか、どちらかが譲るかしなければ決められない。


 私は考えた。2人でオーディションを受けて、受かったら晴れてサックスを吹ける。けど、なっちゃんはほかの楽器にしなければならない。落ちたら、私は他の楽器にしなければならない。当たり前のことだけど、なんかいやだった。受かってもなっちゃんに申し訳ないし、落ちたら「しょうがなくやってる」という気持ちになってしまうかもしれない。私はなっちゃんにサックスの枠を譲ることにした。

オーディションをどうしようか先輩と話している先生に、

「先生的には、オーディションはないほうが楽ですよね?」

と聞いた。

「う、うん、、、?どうしたの?」

「サックスを、ナツキちゃんに譲ります。」

えっ、と先輩たちや周りから驚きの声があがった。

「い、いいの!?本当に!?」

と、うれしそうななっちゃん。

「3年間の楽器だよ?」

「本当にいいの?」

と、先輩たちからも口ぐちに言われた。けれど、私は「自分の楽器がどれか」より、「どんな気持ちで吹いていくのか」のほうが、大切なんじゃないかなと思った。

受かっても落ちてもいやな気持になって、それを3年間引きずるようなことになりかねない(ちょっとおおげさか)オーディションよりも、ここでさっと身を引いて、すっきりした気分で吹奏楽をしたほうがいいと思った。先生を理由にしたけど、本当はそうじゃなかった。


 私たちがそんなことをしているうちに、ほとんどの人はもう楽器が決まったらしい。

まだ決まっていない人は私、同じクラスの男子のカズユキ、カズユキと仲のいい隣のクラスの男子のけんちゃん。そして残っている楽器はトランペット、チューバ、ユーフォニアム。ユーフォニアムっていうのはチューバを小さくしたみたいな感じのやつ。金管がバランスよく残っている。


 さあ、どれにしよう?

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