また来た!マンマンマン!

保護フィルム

1日目

食料が尽きた。

2週間前に発売されたオエットモンスターの新作を、寝る間も惜しんでプレイしていた。おかげで準伝及びパーティーの厳選・育成はひとまず終わった。試運転をしてみたところ、改善点は見つかったものの概ね問題はなく、技を少し変えて臨めば勝ち進めそうだ。

今日まで食事は全て未調理のインスタント麺で済ませている。あれは慣れてしまえば普通に食べられる。が、それでも3食×14日の42食オール麺は少々堪える。

「久しぶりに外に出るかなー。そろそろ肉食いたくなってきたな…」

強張った体をほぐそうとあぐらをかきながら伸びをしたその時。その声はすぐ背後から聞こえた。

「あなたの空腹を嗅ぎつけやって来ました、ガチャの闇に呑まれし心より生まれたヒーロー、マンマンマンです。どうぞ美味しく召し上がれ」

ぎょっとして振り向くと、そこには人型の何かが立っていた。

赤いボディスーツ、黄色いブーツ、焦げ茶のマントに身を包み、こちらを見下ろすその顔は…

茶色の…まん…じゅう…?

睡眠不足、オエモンのやり過ぎ、偏食による何らかの疾病。

この視覚情報と聴覚情報を幻だと捉えるだけの材料はいくらかある。しかし、

「マ…マンマンマンって何?」

私の口から言葉はすでに漏れてしまっていた。

「私はガチャを100回回しても目当てが出なかった心の闇より生まれし饅頭の妖精、マンマンマンです。青少年の何かが危なくなる何かではありません。ヒーローの名前は『○ン○ン○ン』の形式を取るのが世間一般の常識なのでこのような名前になっております。饅頭のマン、人格としてのマン、あとの一つのマンはおまけです」

「おまけってなんだよ」

「うるさい!貴方のプレイしているオエモンだって似たようなものがあるではありませんか!」

なんか突然キレ始めた…

「似たようなもん?そんなのあったっけ?」

「マンマンスイです。マンダマンムースイクンの略称で、強ポケの並びでありその上どこから一撃必殺が飛んで来るか、誰が積んでくるかどくまもしてくるか非常に択が多く厄介極まりないいやらしい並び!わたしの名前にあれこれ文句をつけるならオエモンを窓から投げ捨ててからにしてもらいたい!ちなみに異なるゲームでも同じ名前のキャラが出るなんてことは珍しくもなんともないので何も問題はないはずです」

「いや名前はもういいけどなんでそんなにオエモン詳しいのよ」

「マンマンメンを食べるのは構いませんがナメないでください。この世の中ですからね、マンマンマンは研修で最低1週間ネットの海を彷徨い知識を吸収するのです」

「つまりエアプかよ」

「ところで貴方今お腹空いてますよね?ほらどうぞ」

そう言うとこの饅頭は自分を千切った。本家で言うところの口にあたる部分を。

「ほら、どうぞ。美味しいですよ。私は揚げてないほうの黒糖饅頭ですからお口に合いやすいかと」

「まって、なんかうっすら青いところがあるんだけど」

「ヒゲです」

「ヒゲ!?」

「ヒゲです。カビではありません」

「はあ…」

なんか差し出されてる部分から声が聞こえる気がする…まずそれだけでも食べたくない…

「ヒゲです。カビではありません。カビじゃないんです、饅頭の妖精にヒゲが生えるのくらい当たり前なんです、カビじゃないから!カビじゃないって!」

「う、胡散臭い…ほ、ほら、顔はいいからマントはどうなの、マントは。そっちは食べられないの?」

「食べられますよ」

「じゃあそっちで」

「マントが欠けると私の移動能力が大幅に低下しこのあとまわる予定の飢えに苦しむ子供たちに食事を提供できなくなりますがそれでも貴方の良心はこれっぽっちも痛まないんですね、わかりました、今用意しますから」

「何そのゲロ重い後付け設定!食べない!マントも食べないから!そして色々聞きたいことあるからそこに直れ!」

「はい、なんでしょうか」

素直に座った。顔がでかい。私の肩幅ぐらいある。下の部分ちぎれてるけど。

「えーと、あんた何者?なんで私の部屋に?どうやって入ったの?そしてその服にプリントされたやけに顔色悪い顔のマークは一体なんなの?」

「わたしはマンマンメンと言う組織から適当にこの地域に派遣されてきた営業マンマンマンマンです。空腹に苦しむ人のもとに駆けつけるのがマンマンマンの性なので貴方の部屋に、妖精なので壁とかドアとかすり抜けてきてお邪魔しています。そしてこの顔マークは食中毒で嘔吐下痢に悩まされてる人の顔です」

「自分の体食べさせるのにそんな顔のマーク貼り付けてるの!?」

「吐瀉物及び排泄物はプリントされていないので問題ありません」

「いやそうじゃなくて」

「私を食べてくれないようですし、そろそろ行きますね。それではごきげんよう、また明日」

「まって、明日も来るの!?嫌なんだけど!」

返事をすることなくマンマンマンは立ち上がり、玄関ドアを開けることなく文字通り素通りし、消えていった。

…とりあえず買い物行こう。

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