蛇口
どこか怠いと思ったら、私の背中辺りに生えている蛇口から水が出ていた。どうやら心の蛇口が緩んでいるらしい。それに気づいた私は背中の方へ手を伸ばし、どうにかして蛇口を捻って水を止めようとしたが、どのように手を伸ばしても上手くいかない。クロムメッキの施された蛇口に手が辛うじて触れるのだが、その蛇口を捻ることはできないのだ。
嗚呼、喉が渇いた。水が流れ出て渇水した心が、どうしようもないほどに水を欲する。私は透明な硝子のコップに一杯、水を汲んで飲み干したのだけれどそんなことでこの渇きは潤わないらしい。私はコップを床に投げ捨てた。ガチャンと音を立てて破片が飛び散る。
私はふと、そこで気づいた。自力でこの蛇口を閉めることができないのならば、誰かに閉めてもらえばいいじゃないか。私は誰かを呼ぶ為に声を出そうと思って、しかし諦める。
私の周りには誰も居ないのだ。
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