第4話 ポストPCへの警告

1999年5月、NEC広島工場にて2000年問題に対応を行いました。

そして、コンパックの担当者に出会いました。この人は初対面でした。

声が大きく、威勢の良い人間でした。相手は私のことを意識しつつ、情報

を探ろうとしていることが、話の流れから理解できました。私もちょうど、

米国経済がPCに依存し、PCの普及率の上昇と共に、PCの価格が下落

するという現象を目の当たりにしながら、長い間続いてきた米国経済が下

り坂の局面に入るという予想を米国に伝えたいと思っていましたし、コン

パックは外資系企業であり、世界最大のPC販売企業として、米国での存

在感も大きいのでこの人間を利用することにしました。確かに、米国経済

の失速は不可避ですが、緩やかな減速と、素早い回復を目指すことは可能

だと思いました。米国経済の失速が日本経済に悪影響を与えることは確実

なので、米国経済の失速を最小限にし、日本経済への影響も最小限にする

ことを目指しました。そこで、米国経済の景気低下は、PCの価格が限界

にまで低下し、米国のPC普及率が飽和状態に近づき、PCの性能が要求

を上回り、PCの買い替えサイクルが延長され、需要が停滞することによ

り発生すると伝えました。対応策として、PC以外の分野を強化すること

を伝えました。クライアントPCが普及し、強化されている状態を前提に

すれば、サーバ関連が伸びるだろうとも伝えました。米国大統領により認

められているという人物という認識が各企業のトップにあったので、すぐ

に伝えられ、PC需要変化に対する再検討が行われました。そして、19

99年7月1日には、コンパックが、サーバ関連事業の強化を発表しまし

た。1999年10月には残りの多くの企業が”ポストPC”に対する認

識と対応方針を発表してました。ちょうど情報をもたらしたであろうコン

パックが発表してから4半期後に、あまりにも一斉に行われたので、これ

が米国流の仁義の切り方なのかなとも感じました。そして、圧巻だったの

が、COMDEX/Fall’99でした。ポストPCのコンセプトに沿

った製品/サービスが次々と発表されました。数え上げればきりがないく

らいありました。ソニー、コンパック、HP、IBM、マイクロソフト、

Dell、インテル等々。これらの企業はPCから莫大な収益をあげてい

ます。よって、ポストPCというコンセプトは本当は受け入れがたいコン

セプトだろうと思いました。しかも、今して思えば、ほぼITバブルの絶

頂期にあたり、売上、利益とも上方修正をしている真っ最中に、なぜ各社

はポストPCなのか、理解できない、異常な現象であると感じました。具

体的な例としては、コンパックがPCではない、PADであるiPAQ 

Pocket PCに関する計画に着手しました。マイクロソフトはPC

ではない、ゲーム機であるX-Boxに関する計画に着手しました。

インテルはPC向けではない、組み込み市場向けのプロセッサーの開発を

発表し、サービス事業としてホスティングサービスを立ち上げる予定も発

表しました。DellはPC周辺装置(プリンター等)の参入計画を検討

に着手しました。私の提言どうり、PC以外の製品とサーバー関連に対す

る強化策が発表されました。そして、その後実際に市場に投入されていき

ました。つまり、まじめに検討されていることの証です。更に、面白い点

としては、上にあげた企業のいくつかは嫌々ながら受け入れているという

点でした。そこには、私の能力は認めているが、まだ納得しているわけで

はないといった感じがありました。このようにして、1998年からある

にはあったがはっきりとはしていなかった”ポストPC”という流れが認

められ、実行に移されていきました。


そして、2000年第4四半期から米国を中心にのPC需要が停滞しまし

た。私は、前回日本のバブル崩壊が簡単に回避できたし、1年以上も前か

ら米国の大企業が認識を改め、ポストPCに取り組む姿をみて、問題はな

いだろうと楽観し、油断があったのかもしれません。結局、米国企業は対

応しきれずに在庫調整という形で景気調整局面を迎え、ITバブルの崩壊

と呼ばれるまでになりました。しかも、そのときの状況は私の予測通り、

PCの売り上げは落ちましたが、PC以外の売り上げは堅調でした。サー

バー分野が伸び悩んだのは予測が外れたようにも思えますが、おおよそ的

中したと認められ、私の見識は更に高く評価され、不動のものとなりまし

た。ソニー、インテル、コンパックだけでなく、マイクロソフト、Dell、

IMB等々のトップも私のことを認識するようになりました。

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