4−4「要するに雑魚だ」

「まずは依頼内容だ。クライアントは“あまい組”、西部大手の建築企業で、今回中央からこのデレクタブルの復興計画を任されることになった。しかし、今のままでは当然作業を始めることはできない。そこで私たちは現場の安全を確保するために、ここで一番デカい顔をしている傭兵団、“未来へ踏み出す勇気の一歩”を潰す」

『プッ、名前のセンスいいじゃん』

「我々も大概ですけどねぇ」

「目標の名前が長いので以降は“ミライ”と呼称する。ミライを潰せば、後はあまい組の守備部隊で適当に掃除するらしい。関係ないのは邪魔してこない限り放っておけ。それと、ミライもあまい組に合わせて依頼を出している。知ってのとおり、雇われたのはザッパーだ。まぁその愉快な仲間達もついてくるだろうな。目標はミライの機体だが、敵の総戦力もわかってなければ、どの機体が誰だかもわからない。とにかく片っ端から排除しろ」

『承知』

『はいはーい』

「了解です」


 ゼンツクの駆人三人が同時にめいめいな返事を返した。


「ことの外大きな仕事だと思うんですけど、個人依頼じゃないんですね」

「中央から貰った差額がそのまま儲けになるからな。相手は傭兵団とはいえ、マシなとこに住む金もない貧乏人。企業も完全に舐めて掛かったんだろう。要するに雑魚だ。そう気負うことはない」

『初陣なんだし、死ななきゃ上出来でしょ』

「が、頑張ります」

「ん。次、山本」

『はい、では自分から現状を報告するであります。ミライが拠点にしているのは町の中心に近いターミナル施設で、付近の高層ビルも同傭兵団で占拠していると思われます。団長らの車両群は普通にバレてまして、機体を配置に付かせるなり何かしらすると思いきや、全く動きがありません。見回りや見張りからYOROI、デイ、たけのこ系など7機は確認済みですが、全体の数は把握できておりません。本当に面目ないであります』


 さすがにここまで建物が多いと、見張りの人間全員を把握するのは不可能だ。どこに移動しようがメイカ達の行動は逐一相手に伝えられてしまう。つまり、どちらも互いの動きは筒抜けということである。


 ならばあの大仕掛を使う必要がありそうだ。


 先の展開を想像して、メイカはひとり意味深な笑みを浮かべた。


「リムが遠距離からの牽制役でアイゼンがそのおり、クロは遅れて出撃して突貫だ。作戦の進行段階における移動地点等に変更はなし、初めはアイゼン機を護衛にして町に入る。以上、ブリーフィング終わり。作戦開始だ」


 メイカが指示を出すと、輸送車両近くで機体の確認をしていたり、休憩していた団員達が一斉に動き出した。それを見た三人も指揮車両へと戻る。


「おいバカ、お前はあっちだ」

「そうでした! すいません、行ってきますボス!」


 ハッとしたクロは全力で自分の機体がある車両に駆けて行った。緊張しているのか、はたまた抜けているだけなのか。初陣といっても、実戦が初めてなわけではない。もとよりクロはこのような男である。あまり心理的な側面は配慮せずに本作戦の要である突撃役に選んだが、人選ミスでないことを願うばかりだ。


「クロさんは絶対大物になりますよ」

「フンッ、どうだかな」


 準備を完了させた車両群はアイゼン機護衛の下、デレクタブルへ向かった。





「デレクタブルに入りました。ターミナルまで距離6500です」

「速度は維持しろ。指示を出すまでは突っ切れ」

「了解っす。揺れますから気をつけてくださいっすよ」


 ゼンツクの車両群はメイカの乗る指揮車両を先頭に、敵が控えている中心近くのターミナルに向けて走る。瓦礫の多い住宅街の間の道を事故らない程度にとばしていく。近くを跳び回るアイゼン機が着地するたびに車体に振動が伝わってきた。


『敵さん、依然として動きがありません。待ち伏せの心配はなし、お好きにどうぞであります』

「ん、こっちはそろそろ住宅を抜ける」

『了解。ばっちり見えているであります』


 山本からの通信が入った。諜報部隊の報告はすべて一度山本を通して、伝達する必要があると判断した情報だけがメイカ達に伝えられる。遮蔽物の多い市街地戦では諜報部隊が戦況を見渡す目となるので、情報伝達の遅れがそのまま対応の遅れにつながる。しかしメイカは情報の発信元を絞って、いつでもわかり易さを優先していた。


 それにしても、こちらの出方を見てから対応しようとは小生意気な連中である。


「これを考えたのはザッパーだろうな。あいつも伊達にゴロツキ傭兵共のボスを気取っているだけのことはある」

「おかげで後出し合いになってしまいましたねぇ。これではお互い睨み合って名乗るような絵になる場面もないでしょうな」


 相手は機体をギリギリまで出さないことで、メイカたちが取り得る行動の幅を狭めてきた。ゼンツクが早々に機体を出して向かってしまえば、その構成を見てから優位に立てるような武器や仕様に換装する時間は十分にある。何より、作戦エリアと車両群が離れる分だけ不足の事態に対応できなくなってしまう。故に輸送車両ごと奥へ行かなければならない。これによって撤退のリスクが高まり、作戦の失敗はすなわち死を意味する。


『敵さん、ついに跳甲機の展開を始めたであります! 敵機、続々と出撃中!』


 やっと来たか。


「全車両進路変更、所定の位置に向かえ!」


 メイカが声を張り上げると、指揮車両は次の交差点を速度を落とさずに右折した。粗々しい運転で頭を揺すられるが、こればっかりは我慢するしかない。


 ここが恐らくザッパーの考えた車両が即座に反転しても逃げられないラインだ。これまで通って来た道は大きな瓦礫も落ちていて速度を出すのは難しく、跳甲機には確実に追いつかれる。今出撃中の何機かは必ず車両を狙ってくるだろう。包囲網を敷くために部隊を分ける可能性もある。メイカは敵の攻撃パターンを頭の中でいくつもシミュレーションして備えた。


『出てきた機体数は置いといて……えー4機が先行中、後続も確認。全速で団長の方に向かっているであります』


 続けざまに山本の報告が来た。まずは読みどおりである。

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