1−5「やっとこさ戦場らしくなってきおったわ!」
しばらくして撤退が完了し、守備部隊の機体は全て塀の中に入った。メイカと秋山は指揮車両に戻り、輸送車両を含めて3台を正門近くから右面の門の前まで移動させた。アイゼン機は正門の前、リム機はライフルを放棄してキャノンを展開し、その後方の門内で待機中である。
『おーし、じゃあ第2ラウンドも張り切っていきますかぁ!』
「リム、お前は何もしてないだろう……ん、どうした?」
アイゼン機のメインカメラ映像を映しているモニターを秋山が訝しげに見ている。メイカも覗いてみると、丁度敵の一団が停止したところであった。まだ距離は離れている。機体のトラブルでも起きたのだろうか。
『初めて会ったのぉ、お嬢ちゃん』
「あぁ?」
通信から初めて聞く低い声がメイカの耳に届いた。穏やかな口調の中にもどこか凄みを感じる。第一声を聞いただけで、そこらの傭兵とは年季の入りが違うことがわかった。
『ワシは鋼鉄の棺を率いておるリーというもんじゃ』
「ん、まさか本物の大将が出て来ていたとはな」
それなりに腕の立つ奴を引っ張ってくるとは思っていたが、団長自らが部隊を率いているのには驚いた。そして先陣を切っていることに多少の感心と憧れを覚える。
「“お嬢ちゃん”ということは、私のことも多少は知っているのか」
『そりゃそうじゃ。西で好き勝手やっとる噂は聞いとるよ。ワシんとこのもんも世話になったようじゃしのぉ、えぇ?』
「それで? 話は何だ」
『はぁー、連れんのぉ。爺婆のつまらん話には最後まで付きおうてやれと教わらんかったか?』
少し面倒になってきたメイカは、門を潜らせてリム機のキャノンをぶつけられないか試みさせた。
『まぁいい、ワシはお前さんらのことを話に聞いておって、そんでえらく気に入ってしもうてなぁ』
相手もメイカの考えを読んでいたのか、移動できる位置でキャノンの射線を通すことはできなかった。
『アホたれ企業の尻拭いっちゅう浪漫の欠片も漂わぬ下らん戦場で死ぬこともなかろう。どうじゃ、ワシらの下に来んか?』
なるほど、勧誘ときたか。
こんなところで死ぬ気は更々ないが、確かにロマン云々については同意見である。しかし、メイカに誰かの下につくという考えは一切無いし、するつもりも無い。答えは初めから決まっている。
「断る」
『ほう、潔し』
「言いたいことはそれだけか」
『そうじゃ』
籠城となれば攻める方も面倒であり、少なからず損害を被ることになる。侵攻が少しでも楽になるように、金と引き換えにアザーから手を引けという申し出であったのならば、その金額次第で快く応じていたことだろう。残念ながらその提案はなかった。
「なら続けるぞ。今からお前をぶっ潰す」
『それはそれは。まぁ、フられてしもうたからには――』
敵の一団が再び動き出す。
『死合いを楽しませてもらおうかのぉ!』
団長のリーを先頭にして、後ろにアイゼンが別格と言っていた2機が続く。他の機体がその後ろを追い、これまでよりもさらに速く突っ込んできた。
『今度は近い! いけるぞ、撃て撃て撃てぇぇぇい!』
塀の内側で控えていた守備部隊が機体の半身を覗かせ、敵の一団を一方的に攻撃した。永続的なライフルの集中砲火が、砲台からの攻撃も合わせて敵を襲った。先ほどの攻撃とは違って今度はそれなりに命中している。銃弾が左右上方から放たれ、激しい火の雨が降り注ぐかのごとく、機体の全身から火花を散らした。
『ガッハッハッハッ! やっとこさ戦場らしくなってきおったわ!』
全くと言っていいほど迷いがない。1機、2機と胸部や跳躍機関から黒い煙が上がり、機体の制御を失って倒れていく。それでも敵の一団は攻撃や回避を一切行わず、守備隊に構うことなく駆けるのを止めない。門の前でじゃれ合うつもりは無いらしい。
あの重装甲では塀を飛び越えることは不可能だ。敵はとにかく門の中に入ることを優先している。敵の懐に一点集中突破、大胆でリスクを伴うが強力な戦法だ。実力差を考えると、抜かれる機数によっては敗北の可能性もある。
「グレネード、くるぞ」
リー機と後ろの2機が門前で立ちはだかるアイゼン機に向かってグレネードランチャーを構えた。
「いいか、絶対に貰うな」
『この距離ならまだ見切れる』
右の1機が先制して仕掛けた。重量のある武器、しかも駆けながらの射撃にも関わらず、グレネードの軌道はアイゼン機を正確に捉えている。爆音と共にアイゼン機のメインカメラが砂煙に覆われ、メイカ達からは何も見えなくなった。
「機体に異常はありません」
「そうか」
アイゼン機の計器類を確認した秋山が告げた。それを聞いてメイカが不敵な笑みを浮かべる。後は演技力勝負だ。
砂煙が晴れた。アイゼン機は門の真下、立膝をついた状態で健在していた。両手に装備していたライフルは足元に放り出され、跳躍機関からは不規則に光が弾けて煙を上げている。
『決められなんだか。弾代も馬鹿にならんじゃろうて、確実に屠る』
サブ武装として脚部横にハンドガンとナイフがつけられているが、機体の急所をピンポントでつかなければ効果は薄い。それを確認したリーは武器を構えたままアイゼン機へと迫った。
「釣れるぞ」
メイカが興奮気味に唸った。言ってみれば子供だましに過ぎないが、それで相手をやれるのならば立派な策である。
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