強制ダンジョン
アリス&テレス
平和な朝
第1話 平和な朝
スリッパ履きした上履きで、朝日が差し込む廊下を歩く俺の名前は
寝不足気味の目をこすりながら歩いていると、教室の入り口付近に人垣ができていた。
人垣の隙間から、久しぶりの顔が見えたので声をかける。
「
俺の声に、友人の
田中健を10人ぐらいで取り囲んでいたのは、クラスの奴らだ。
「ふんっ」俺が鼻を鳴らして集団へと進むと、人垣は崩れた。
「チッ」「空気読めない奴」「キモッ」……
奴らは、俺に聞こえるように、だが誰も俺と目を合わそうとせず、捨て台詞だけを残して、教室の中に消えていった。
放心状態だった健は、俺を見ると目に生気を取り戻す。
「ゆ、
「
「ありがとう……
俺が
教室の前で
俺は、「健、また後で」と言って窓際の席へと座った。
~◆◇◆~
渋滞中の道路をゆっくりと進む、大きな黒塗りの車。
運転席には、
「ちょっと〜、全然進まない〜……参ったわね、遅れちゃうじゃない」
彼女の声には、イライラした気持ちが混ざっている。
一度深呼吸をした彼女は、助手席に座る少女へと視線を向ける。
助手席には、仕立ての良い少し古風な制服に身を包んだ女子高生が座っている。
更にそのひざの上には、真っ黒な仔猫が、背筋を伸ばしてちょこんと座っていた。
「しかし、本当にこんなスポーツ高に来ちゃって良かったの? あなた凄く良い高校に入ってたのに」
「良いんです、彼、本物だったんですよね?」
「うん、私が直接探りをかけて確認したから間違いないけど、記憶の方は全然だったわよ」
「だから少しでも近くにいて、記憶を取り戻して貰いたいんです……彼がまた思い出してくれるかは、未知数ですが」
「貴女の頼みだから私達もこうして動いたけど、正直難しいと思うわ」
「……期待を裏切られるのは、覚悟してます」
「相変わらず強いのね。でも覚えておいてね、貴女は今世界に残った数少ない上位称号獲得者なの、自分を大事にして」
「……はい」
「フウウウワアウウウ」
女子高生の膝に座って居た仔猫が、耳を忙しく動かしながら、呻きだした。
「ミーコ、また感じるのね、どこかで蓋が開いたのかしら?」
「ウニャゴウニャゴ!」
仔猫が抗議するように、運転席の方を向いて鳴いた。
「ミーコって呼ぶから怒ってるんですよ、彼にはちゃんと、シルフって立派な名前が有るんです」
「えー、いつまで経っても仔猫のまんまじゃない、ミーコで十分」
「フウー」
女子高生の膝の上に座って居た仔猫が、運転席のシートを駆け上がる。
ペシペシペシペシ
運転席の女性の頭にネコパンチを加えだした。
「え〜へへへへ、ミーコのパンチ全然痛く無いわよ、もー。……ところでさっきの話しだけど」
仔猫と戯れてご機嫌顔だった女性の顔が、真剣な表情に変わる。
「この所、シモベの出現が続いているわ。何処かでダンジョンが産まれたのは確実だし、
「……大丈夫、頑張ります」
「もうすぐ着くわよ、貴女は先に職員室に急いで入ってね、私は校長室に寄るわね、荷物重いから大変だわー。あ、ミーコは車の中で留守番ね」
「はい、送っていただいて、ありがとうございました」
「ウニャゴウニャゴニャー」
彼女は、仔猫の抗議を聞き流しながら、渋滞の列を抜けて、黒塗りの車を高校の中へと左折させた。
~◆◇◆~
渋滞の先頭では、何かが道路の真ん中を悠々と歩いて渋滞を引き起こしていた。
パーパパパーパー
先頭付近から、怒り狂った後続車の威嚇のクラクションが鳴り響く。
道路の真ん中に居たのは、ロバ。
大きな音にも知らん顔したロバがカパカパ歩き、ギョロッとした目玉を剥き、鼻をヒクヒクと何か嗅ぐと、ノンキに
「プヒーゴオオオオ~」
平和な朝だった。
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