後輩と回転寿司に来た話。

紅井寿甘

第1話 後輩と回転寿司に来た話。

 二名様ご案内でーす、という、やる気の感じられない店員の声に見送られ、対照的に元気一杯な足取りに引っ張られて席に着く。


「やーどうも、ゴチになりますよぉセンパイ! あっシャケ! しかもどちゃっとタマネギ乗ってるやつ! これこれ、こういうのっすよねぇ、回転寿司!」

「まず礼から入ったのは褒めてやるが……席に着くやいなや、茶も淹れずにまずレーンの寿司にがっついて行く姿勢について何か思うことはないのか?」


 後輩は割箸立てから二膳の箸を抜き、片方をこちらに手渡し、パキリと割り、山と盛られたオニオンを二貫のサーモン上に均等になるように分け、添えられたマヨネーズもきちんと半量を塗りたくり、シャリを箸で挟むところまで行ってから、ようやくこちらの問に答えた。


「あーセンパイ、アレっすか? レーンを流れてるお寿司は既に乾燥してるーとか不衛生ーとか言っちゃう人っすか? んぐっ……ふぉれなら良ふぁっふぁんすよー? んっく、回らないお寿司に可愛い後輩を連れて行ってくれてもぉ」

「女子として気を遣えというのはもうやめてやる。人間として最低限の尊厳には気を遣え、食いながら喋るな!」

「まぁまぁいいじゃないっすかぁ、どうせ見てる人もセンパイしか居ないんすからぁ。あぐっ……ふぉーら、可愛い後輩ふぁーいいふぉーはいを……んはっ、独り占めっすよぉ?」

「……あぁ、もう」


 喋り続けていないと死ぬのかコイツは。そう思いながら、注文端末で茶碗蒸しを頼む。


「……へぇー。センパイ、てっきり最初は玉子とか光モンとか言うのかと」

「悪いか?」


 そう聞くと、にへらっと後輩は笑みを返した。


「良いじゃないっすかぁ。好きな物を好きな人と好きなだけ食べる。文化の極みっすよぉ」

「……好きなだけってどれだけ食う気だ。人の金で」

「この流れで突っ込むところ違いませんかセンパイ!?」


 何の話だか、とまだ来ない茶碗蒸しに思いを馳せる。耳の端で捉えている皿が積み重なっていく音は聞かない事にした。

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後輩と回転寿司に来た話。 紅井寿甘 @akai_suama

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