in the room

珊瑚

4月10日、日曜日

朝、白藤しらふじゆきの部屋


けたたましい目覚まし時計のアラーム音で目を覚ました。

ばっと布団から跳ね起き、急いで身支度をする。

「危ない危ない……またトースト焼きすぎるところだった」

焦げくさい匂いを発し始めたトースターから、急いでキツネ色になったトーストを取り出す。

ジャムをさっと塗って、口の中に押し込む。

もうちょっと早く起きていたら、ゆったりとした優雅な朝になっていたことだろう。でも、少しでも長く寝ていたかった。睡眠時間を確保するためなら、ちょっとくらい忙しい朝だって苦じゃなかった。寝るのって、全てをどこかに置いて行ける気がするから好き。

さぁ、早く行かないと出勤時間に遅れてしまう。

わたしは急いで玄関を出た。



朝、広瀬隼人ひろせはやとの部屋


けたたましい目覚まし時計のアラーム音で目を覚ました。

だけど、これは俺がセットしたものじゃない。

ここのマンションは壁が割と薄いから、隣の部屋の音が聞こえてくるのだ。

今日は日曜日、たまの休みだって言うのに、こんな早い時間に起きるほど俺は馬鹿じゃない。

昨日だって夜遅くまで資料の整理だったから、今日は10時くらいまでゆっくり熟睡するつもりだったのに。

今日は隣の部屋のあいつも休みのはずだ。昨日の夜にアラームを切るのを忘れていたに違いない。

今日が日曜日だってことを教えてやらないと、多分あいつは気付かずに職場に行ってしまうだろう。

「仕方ないな」

腫れぼったくなってしまった目を擦りながら、俺は隣の部屋にいる幼馴染み____白藤ゆきのもとへ向かった。




昼、白藤ゆきの部屋


「ごめんね、はーくん……」

今日は日曜日だというのに、思いっきり出勤するつもりでいた。

玄関を出たあたりで隣の部屋に住んでいる幼馴染み、

はーくんこと広瀬隼人ひろせはやとに、「おいゆき、今日は日曜日だぞ」と声をかけられてやっと気づいたのだ。

「まぁ、よくあることだし。慣れた」

ワンルームの隅に置かれたソファーに腰掛けたはーくんは面白げに笑った。

はーくんが慣れてしまうほどよく間違えてアラームを鳴らしてしまうということだ。申し訳ないことをしてるなぁ、と反省する。

「ちゃんとお詫びももらってるしいいよ」

そう言ってはーくんは欠伸を漏らした。

「はーくんがいいならいいけど……」

わたしがエプロンをつけながらキッチンに向かうと、はーくんは身を乗り出してこっちを見た。

「今日のお詫び、何作ってくれんの」

「チャーハン」

冷蔵庫の中身を見ながらそう言うと、はーくんはええっ、と不満そうな声を漏らした。

「前のお詫びもチャーハンだった。別のがいい」

「え、そうだったっけ?じゃあ別のね……」

冷蔵庫を見てメニューを考えていると、向こうの方からはーくんの声が飛んできた。

「ナポリタンが良い」

「ナポリタン……?ちょっと待ってて、ピーマンあったかな……」

冷蔵庫の中をゴソゴソと探ると、ピーマンが1個だけあった。

「ナポリタン作れるよ」

「じゃあナポリタンで」

はーくんの声は心なしか嬉しそうだった。


「はい、出来たよ」

大皿にナポリタンを盛ってはーくんの前に置く。

「おっ、いいねぇ」

いただきます、と手を合わせてはーくんは早速ナポリタンを食べ始めた。はーくんは本当にわたしの作るご飯を美味しそうに食べてくれる。ちょっとだけケチャップ入れすぎちゃったような気がするけれど、大丈夫かな。そんな心配をよそに、はーくんは黙々とナポリタンを口に運んでいた。

「ごちそうさま、美味かったよ」

はーくんはニコッと笑って手を合わせた。

「いえいえ、こっちこそごめんなさい……朝早くに起こしちゃって」

「いいっていいって。俺、気にしてないよ。じゃあまたな」

はーくんは本当に優しい。

ドジなわたしにずっと優しくしてくれている。

どんなことがあっても、ずっとそばにいてくれた。

そんなはーくんを好きになるのは、いけないことなんでしょうか。

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